情報処理技術者試験の出題範囲・試験時間・出題形式の改訂について

 2023年4月から、情報処理技術者試験のうち、基本情報技術者試験と情報セキュリティマネジメント試験がいろいろ変わる。楽しみにしている人も、おののいている人もいると思う。

 楽しみにしている人なんているのかといぶかしむ方もおられると思うが、資格は何の役に立たなくても取りあえず取るのだと心に決めている資格マニアはあまたいる。基本情報技術者試験に10回も20回も受かり続けている人もいる。そういう人たちは、たぶん真っ当な人生を生きている人の予想を7万倍ほど超えて、新しい試験を楽しみにしている。

 情報処理技術者試験は、マニアの玩具にとどまらず、ちゃんと役に立つ試験なので、改訂後も多くの人が受験するだろう。

 思えばこの試験も、長い歴史を持つに至った。始まった当初は第一種情報処理技術者試験、第二種情報処理技術者試験しかなかったが、あまり時を置かずに特種情報処理技術者試験、情報処理システム監査技術者試験、オンライン情報処理技術者試験などが加わっていった。確か特種情報処理技術者試験や情報処理システム監査技術者試験には、受験資格に年齢制限があったと思う。

 情報処理技術者試験はこの頃がいちばん偉そうな存在感をたたえていた。第一種とか第二種とか、一見さんでも肌で感じることができる「国家試験の風格」や、内容を知らなくても理解できる「圧をかけたい施行者側の欲望」を具現していた。国家資格を狙う人の大きなモチベーションに、「取得して陰に日なたに自慢したい」があるので、どうにかして資格取ってやるぞ熱は高らかに吹き上がっていた。試験日や合格発表日はちょっとしたお祭りだったのである。

 その後、時代の要請で試験区分が増え(平成の大改革)、各試験区分はITパスポートやエンベデッドシステムスペシャリスト試験などにお色直しされた。間口は広がったし、カタカナが大好きな人には刺さるだろうが、何となく国家試験の醸し出す偉そう感からは遠ざかった気がする。「ITパスポート」に合格しても、お正月の親族の集まりで褒めちぎってもらうには、あるいはごちそうが振る舞われるにはやや軽い印象だ。高度な試験区分は前より難しくなっているのだが、名前って大事である。

 以降はちびちびとマイナーチェンジを繰り返しつつ現在に至るのだが、今回のは割と大きな改定だと思う。試験が通年化、CBT(コンピューター・ベースド・テスティングの略称。コンピューターを使った試験方式)化するのだ。受験機会の増加(従来、高難度試験は年1回、エントリーレベル試験は年2回だった)と作問・採点負担の軽減(これまでにも多肢選択式問題の5択→4択化などが行われた)はぜひやらねばと常々言われていたので、この流れは自然である。

 こうした要請はエントリーレベルの試験ほど強いので、情報処理技術者試験の中で最も簡単なITパスポート試験(スキルレベル1:まあ知識はある)ではすでに実現していた。この度はもう一段階上位の資格で技術者への登竜門と言われる基本情報技術者(スキルレベル2:指示があれば実務もできる)と、同水準の情報セキュリティマネジメント試験もそれに倣った形である。

 出題もだいぶ軽量化された。CBT化はコロナ下でも試験を継続する対応策の一つとして先行実施されていたが、紙ベースの試験を無理くりCBTにしたので(情報処理技術者試験は情報技術の試験なのに、紙に依存してきたのだ。情報処理技術者試験のバックエンド業務も非常に紙に依存している)、受験者が答えにくいきらいがあった。そこを改善した形だが、実態としては出題者の作問負担の軽減が喫緊の課題だったのだと思う。

※IPAのWebページより抜粋
https://www.jitec.ipa.go.jp/1_00topic/topic_20220425.html
※FEは基本情報技術者試験、SGは情報セキュリティマネジメント試験

 解答時間をながめると、かなり簡易化されているのが実感できると思う。情報セキュリティマネジメント試験に至っては、午前試験、午後試験の区分がなくなり一本化された。もう受験しに行くとき、お昼ごはんの心配をしなくていいのである。

 出題数が増しているようにも読めるが、大問がなくなっていることに注意して欲しい。大問はその中に数問の設問を含むので、やっぱりかなり負担は減っている。

 試験範囲は情報セキュリティマネジメント試験で変わらず、基本情報技術者試験では「情報セキュリティ」と「データ構造及びアルゴリズム」に重きをおくものになった。個別のプログラミング言語(CとかPythonとか)が問われることもなくなり、プログラミング的思考力を問うための(この辺が、児童・生徒のプログラミング教育必修化と連動している~と見せかけたい意図を感じる)疑似言語に置き換えられているので、プログラミングが苦手で受験を見送っていた人には朗報かもしれない。

 いずれにしろ、いくつもの点で「受験しやすくなった」のは間違いないと思う。もちろん、簡単な試験ではないので、合格するつもりで受験するならそれなりの準備が必要だが、「技術者のお祭り」に参加してくれる人が増えたらうれしい。

【著者略歴】

 岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)、「メタバースとは何か」(光文社新書)など。

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