「デジタルの民主化」の世界へようこそ! 大企業の“ヤバい”ITベンダー依存問題、依存と自律の狭間で揺れる心理とは

 

 「わかってはいるんです。でもなかなかやめられないんです…」

 「なんとか断ち切ろうとするんですが、どうしても離れられない…」

 わかっていてもやめられない。そうそれが「依存」。ですが、今回はアルコール依存やニコチン依存、ギャンブル依存、その類の話題ではありません!

 そう、「大企業の“ヤバい”ITベンダー依存問題」についての話題です。

 官公庁や大企業において、ITベンダー依存は長年続いてきました。そんな中、デジタル庁がITベンダーロックインを回避するために試行錯誤しているという報道などを見ている方もいらっしゃると思います。

 ズブズブ泥沼の色が濃そうなこのテーマについて今回はお話しします。

 

IT人材を探せ! 貴重なIT人材って一体どこにいるの??

 

 と、その前に。「ITベンダーってなんだろう?」という方もいらっしゃると思いますのでまずはそこから。ITベンダーを知るために「IT人材不足」について理解しておきましょう。

 DXできなければサバイブ(切り抜ける)するのも難しい昨今。そのデジタルを最大限に活用するためにはIT人材が必要になります。しかし前回のコラム(https://b.kyodo.co.jp/business/2022-04-01_7699390/)でもお伝えした通り、世の中はIT人材不足。

 その貴重なIT人材とやらは一体どこにいるのか?!

 下のグラフはIT人材配置に関する国際比較ですが、日本においてはIT人材が“ユーザー企業”ではなく、“IT企業”に多く配置されていることが特徴です。そう、日本のIT人材はIT企業に集中して存在するのです!!

 え、そんなの当たり前?

 

図1:IT企業とユーザー企業に所属する情報処理・通信に携わる人材の割合(出所:IPA「IT人材白書2017」を基にドリーム・アーツが作成)https://www.ipa.go.jp/files/000059086.pdf

 

 他国と比較するとこの状況は異常といえます。それぞれの企業に所属するIT人材の割合を見ると、日本の「IT企業72.0%:ユーザー企業28.0%」に対して、例えば米国は“真逆”の「IT企業34.6%:ユーザー企業65.4%」。「IT人材はIT企業に多くいる」は当たり前のようで、世界から見たら当たり前ではないのです。

 日本の場合、ユーザー企業の社内にITに詳しい人がいないので、世の中が「デジタル化だー、DXだー」という流れになっても、実は何をしていいのかよくわからない。よくわからないから結局専門家がたくさんいるIT企業に丸投げに。逆に世界ではITは商売をする上で必須の要素・手段であり、ユーザー企業の中にIT人材を配置している。社内にITに詳しい人が大勢いるので、「この製品よりもあちらの製品がいいよ」とか「このビジネスにはこのデジタル技術が使えるよ」というように自分たちの手でデジタル化やDXが進んでいく。これは大きな差だと思いませんか?

 前回のコラムで「ITはある特定の人のものだった」とお伝えしましたが、その「特定の人=IT人材」のほとんどがIT企業に存在するということです。そのIT企業として大きい存在が、冒頭に出てきた「ITベンダー(別名:システムインテグレーターSIer)」です。

 

 ここで「なぜ企業はITベンダーに依存するようになったのか」、企業内でのIT活用の歴史と絡めて振り返ってみましょう。

 物を作れば売れた高度経済成長期では、少品種・大量生産で製品ライフサイクルも長かったため、計画と緻密な実行力がカギとなり、大量データかつ単純ロジックに限定された部分でのIT化が進みました。

 2000年代に入り消費者ニーズの多様化などにより多品種・大量生産になり、製品のライフサイクルは短くなりましたが、ビジネスモデルに大きな変化はありませんでした。IT化の分野はコンプライアンス強化やコスト削減など「内部改善」に関するテーマが主流となり、IT化すべき要件を明確に定義することができました。IT化の範囲が明確になったことで外部の専門家に委託することが合理的だと捉えられ、ITベンダーの存在が大きくなります。この産業構造のもとでは、ユーザー企業はITの部分を委託することにより「コストの削減」を、ITベンダー企業は受託による「低リスク・長期安定ビジネスの享受」というように、ウィンウィンの関係性が成り立っていました。

 しかし、新型コロナウイルスの流行に加え非常に不透明な世界情勢によりVUCA(※1)を超えたウルトラVUCAともいえる極めて不安定な時代に突入しました。デジタルそのものがインフラとなり、急激にこの既存の産業構造が崩れたのです。

 企業はIT・デジタルの領域を「守り」だけではなく「攻め」=売り上げ拡大となる顧客への価値提供の範囲、まさにビジネスど真ん中の必須要素として、「DX」つまりデジタルを使ってトランスフォーメーションしなければ生き残れない時代になってしまったのです。その大事な手段であるITを他社に丸投げするのは相当危険な状態であることは間違いないでしょう。

 しかしこのユーザー企業とITベンダーの低位安定での依存関係はなかなか闇の深い問題なのです。

 ※1 VUCA:Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取った造語で、社会やビジネスにとって未来の予測が難しくなる状況のこと

 

わかってはいるけどやめられないズブズブな“依存”関係

 

 次のグラフは、ドリーム・アーツが2021年11月にユーザー企業によるITベンダーヘの依存度を調査した結果です。大企業のITシステム決裁者1000人にアンケートを取りました。(※大企業の“ヤバい”ITベンダー依存の実態:https://www.dreamarts.co.jp/form/dair-wp5/

 「ズバリ! あなたはITベンダーに頼っていますか?」という質問に対して、6割の方が「頼っている」と回答し、さらにITベンダーに頼ることはプラスだと考えている人が6割いました。

 

【グラフ1:あなたはITベンダーに頼っていますか?】
【グラフ2:ITベンダーに頼ることはプラスか?】

 

といっても頼り方はさまざま。今のところ日本ではIT企業=「ITの専門家集団」なわけですから、専門家に頼ることは悪ではありません。しかし、その頼る「理由」を聞いてみると実態が明らかになってきます。

 「ITベンダーに頼るユーザー企業側のメリットはどこにあるか」の回答をご覧ください。

 

【表1:ITベンダーに頼るユーザー企業側のメリットはどこにあると考えるか】

 

 1位の「専門分野を超えてベンダーのアドバイスを受けられる」は健全な頼り方といえますが、2位がヤバいですね。「自社でIT人材を獲得・育成しなくても良い」。これはシステムやデジタル化の領域を外部のITベンダーへ“丸投げ”しているのと同じです。

 今、盛んに叫ばれている「DX」の本質的な意味とは「自社における提供価値の変革」であり、ビジネスそのものをデジタル前提で考えなければ変革などできないのです。その肝心のデジタルの部分を、自社の人間で検討せずにDXできるのでしょうか。ITベンダーはITの専門家ではありますが、お客さまのビジネスを変革させることに関しては素人です。

 ITベンダー依存の本当の問題は、今後ビジネスの必須要素としてIT・デジタルを取り入れなければ生き残れない状態であるにもかかわらず、その根幹であるIT部分をITベンダーに握られているため、変革しようにもスピーディーにできず、最悪のパターンは全て丸投げしている企業においては、そもそも何をしていいのかわからない状態にあることです。

 なにもユーザー企業側がITベンダーと議論できるほどにIT知識が豊富である必要はありません。「IT人材不足」は「IT知識が豊富にある人不足」ではなく、「ITを使ってビジネスを変革する人不足」ということなのではないでしょうか。

 本質を見誤ると、急にエンジニアだけを大量採用し始めたり、社員にプログラミング研修を推奨したりと、よくわからない「IT知識が豊富な人集め/育成」が始まるのです。(DXの本質を理解した上でエンジニアを大量採用している企業もあるとは思いますが…)

 

ユーザー企業の本音は?

 

 「ITベンダー依存」について実際はどうなのか? とある大企業のメーカーのお客さまに直接お聞きしたことがあります。

 基幹システムで2社のITベンダーさんと付き合いがあり、そのうち1社との付き合いはなんと40年、長い! 特に基幹システムはオンプレミス(自社内に構築したシステム)が多いですからハードウエア購入後5年以上のお付き合いは当たり前、40年という期間もザラにありそうです。

 お客さま(お聞きしたのはIT部門)は、このベンダー依存の状態が続けばDXは無理だと悩んでおられました。「開発期間が長い」「見積りが高い」「世の中の変化に素早く対応できない」、この辺りが課題であるという認識で、さらにこの現状について経営層は全く危機感を抱いていないことも大きな問題だとおっしゃっていました。

 幸いにも、この企業さんはITベンダーにお任せしている内容も範囲も全て把握済み、なおかつもともとExcelやAccessなどのツールを使って業務を改善する自律的な文化があったそうです。その流れもあってドリーム・アーツのノーコード(※2)製品を導入してくださいました。この流れに乗って、業務システムだけではなく基幹システムに関してもベンダー依存を脱するために、相当な時間はかかるが当該ITベンダーと交渉を始めているということでした。

 このお客さまはDXを見据えて自律しようとITベンダー依存からの脱却に動き始めています。が、このような危機感を全く感じていないユーザー企業がまだまだ多いという実情があります。

 ※2 ノーコード:ソースコードを使わずに(プログラミングすることなく)システムを開発する手法、または開発を実現するツール

 次にこちらの表をご覧ください。ITベンダーとお付き合いする上で得したことがあるかどうかを聞いてみました。

 

【表2:あなたはベンダーとお付き合いする上で得したことがあるか】

 

 1位が「基本的に全てお任せで仕事を進められるのでラク」でした。これが危機感のない方々の本音なのでしょう。

 「ラクしたい」と思うのは人間の性ですが、ラクの方向を間違えると「依存」になり泥沼にハマります。

 しかしその辺りのことを全く認識せず、「すべて丸投げ」状態の企業は5年後、10年後すでにこの世から消えているかもしれません。

 逆に、危機感がなくすべて丸投げしているお客さまに対して、元大手ITベンダーの私がITベンダー側の本音を代弁すると、「この会社は全部丸投げだなー。まだまだ末長くお付き合いできそうだぞ(=まだまだ搾り取れそうだぞ…)」です。(全てがこうとは言い切れませんが、こう思っているITベンダーは多いと思います)

 

あなたもなれる! IT人材、もとい「デジタル人材」!

 

 今回の調査でさらに面白い結果が出ました。「あなたが頼りたいITベンダー像は?」と聞いてみたところ、なんと「自社の自律を促してくれる」が1位となりました。

 

【表3:あなたが頼りたいベンダー像は?】

 

 依存を認識しつつも、心のうちは「自律しなきゃヤバいな…」という、なんとも言えないジレンマを抱えたITシステム決済者の心のうちをのぞいてしまった気分になりました。

 しかし逆に私はこの結果を見て希望が持てました。

 みなさん密かに気づいているのですね。「このままではヤバい」ということを。

 どうすれば「自律」できるのか。「ITを使ってビジネスを変革する人」を外部から大量採用? いえいえ、実は「内部」にそんな人材がいるのです。もしかしてこれを読んでいるあなたもその1人かもしれません。

 そう、それはIT知識を持たずとも、ビジネス、業務に精通した業務部門の方々なのです。

 DX時代にはITの専門家ももちろん重要な役割を担いますが、専門家でなくともテクノロジーが操れる現代では業務部門の方々こそ主役になり得るのです。

 業務部門の方がいきなり「IT使ったビジネス変革」することはさすがに難しいので、それを支援するIT企業と優れたツールを使って取り組んでいきましょう。仕組みを変えれば人や企業文化も変わっていきます。

 IT部門だけではなく業務部門がデジタルという武器を手に立ち上がる。これが「デジタルの民主化」です。

 

 プログラムが書けずともシステムを開発できるノーコードツールは日々進化を遂げています。私たちのお客さまもプログラミング経験ゼロの方々が、どんどん自分たちの仕事をデジタル化しています。ご自身の業務をデジタル化することで、デジタルのすごさに気づき、自分でも変えられるのだ!と自信を持ち、デジタルを前提にしたビジネスのアイデアがひらめき、いつの間にか「ITを使ってビジネスを変革する人」に育っています。

 これは本人も楽しいでしょうし、ユーザー企業が一気にデジタル企業へと変革する可能性を秘めています。

 自律的に業務をデジタル化しているお客さまにインタビューをすると、その生き生きとした表情から充実感が伝わってきます。ビジネスに変革を起こすのはこのような方々ではないでしょうか?

 次回は変革に奮闘する方々に焦点を当てて行こうと思います。

 

【この記事の執筆者】

金井 優子(かない ゆうこ)

株式会社ドリーム・アーツ 社長室 コーポレートマーケティンググループ ゼネラルマネージャー
大手SIer出身。データ分析・活用をきっかけにシステムエンジニアからマーケティングに職種をチェンジ。現在はコーポレートマーケティング業務で自社のブランディング確立に奮闘中。

企業サイト: https://www.dreamarts.co.jp/

【前回の記事】

第1回 「デジタルの民主化」の世界へようこそ! 家族のコロナ騒動で気づいたデジタルのすごさ

https://b.kyodo.co.jp/business/2022-04-01_7699390/

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