名古屋大の大学院生による岐阜県高山市内での人流調査

データの〝地産地消〟で地域を活性化
「Digi田甲子園2022」優良事例紹介〈2〉 名古屋大学 安田・遠藤・浦田研究室

 デジタル技術を活用して地域の課題解決に成果を上げている地方自治体や民間企業・団体を表彰する「Digi田(デジでん)甲子園」。政府の「デジタル田園都市国家構想」実現に向けた取り組みの一環として2022年度からスタートした。23年度の募集が始まったのに合わせ、22年度「Digi田甲子園 2022冬」の優良事例を紹介する。

 事例紹介の第2回は、ベスト8を受賞した名古屋大学 安田・遠藤・浦田研究室(以下、研究室)の「産学官民連携による観光DX~岐阜県高山市におけるデータの地産地消〜」の取り組みを紹介する。対象地域は岐阜県高山市。

AIカメラを活用した人流計測の様子

 

▽閉店時間延長で売り上げ増

 岐阜県北部に位置する高山市は、国内外の客が訪れる観光地だ。国の重要無形民俗文化財と国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に指定されている「高山祭」の開催や、市内を流れる宮川沿いの朝市、飛騨牛、朴葉みそ、みたらし団子など食の魅力でも知られる。

 観光のDXを推進しようと高山市は2020年10月、名古屋大学、NECソリューションイノベータと産学官連携協定を結んだ。市内の商店街付近などに計14台(現在は計12台)のAIカメラを設置し、時間帯別、性別、年代別、通行人数などのデータを収集し、そのデータを基に人の流れを予測し、市のまちづくり施策や、飲食店、土産店といった地元事業者の売り上げ増に役立ててもらう狙いだ。

 NECソリューションイノベータがAIによる顔認識カメラを設置し、研究室は、異なる種類のAIカメラの設置のほか、計14台から集まった人流データを分析する。

 実際、通行量のデータを名古屋大学が分析し、市内の飲食店に「土曜日の閉店時間を現在よりも30分延長してみたら」と提案したところ、延長した時間帯の売り上げが最大で27%も増えたという。

 研究室の浦田真由さんは「飲食店付近のAIカメラによる人の流れの分析に基づき、最適な閉店時間を提案させてもらった。その結果、お店の売り上げ増につながった。地元で得られた情報を基に、地元で活用し、地元に貢献するというデータの〝地産地消〟を目指したい」と話す。

今年8月の人流データのグラフ(高山市提供)

 

地域でのデータ地産地消

 データの地産地消に向けて課題もあった。一つは、データの利活用について、地元住民の協力を得なければならなかったことだ。浦田さんは「AIカメラの設置にあたっては、市の担当者とともに、市内に四つある商店街振興組合の理事長さんらに丁寧なヒアリングを行い、データを集めること、活用することに理解をいただいた」と振り返る。

 採集したデータの取り扱いは「顔認識カメラで撮影された個人の顔データは、性別、年齢などが推計された後、ただちに消去される仕組みになっている」と、プライバシー対策は万全だと説明した。

 データの地産地消の実現のため、AIで集められた人流データなどは、市のホームページで閲覧ができ、「高山市提供」などと引用先を明記すれば、だれでも活用できる。

 高山市は「公共データを活用し、官民協働による地域課題の解決や地域経済の活性化などを促進するため、オープンデータの推進に取り組んでいます」(市ホームページ)としており、これらのデータを基に、行政担当者、研究者、地元の商工関係者、学生らがまちづくりについて議論するワークショップを毎年、開催している。今年は11月に開く予定だ。

 このほか、研究室の大学院生が、岐阜県立飛騨高山高校のビジネス科の生徒らに出前授業を行っている。今年9月に開催した出前授業では、オープンデータとなっている人流データを生徒が自分たちのパソコンにダウンロードし、表計算ソフトを活用してデータ分析を行い、どのような年齢層の観光客が来ているのか、などを把握してもらう。その上で、観光の閑散期にどのようにしたら来客数が増えるのか、アイデアを出し授業の最後に発表する。それを市の担当者から講評してもらう、という流れで取り組まれた。

 浦田さんは「自分たちのまちの生データに触れ、それを分析するという機会はあまりなく、高校生のみなさんには好評を得ているようだ」と手応えを示す。

 ワークショップ、高校生への出前授業などは、今後を見据えたイベントだ。将来は、データの分析を地元の若者が担い、まちづくりのアイデアに生かしていく、そんな好循環を形作りたいという。

 浦田さんは「今、私たちがやっている活動を、ゆくゆくは、地元の学生さんたちが自主的に地域に根ざした活動としてやってくれる日を心待ちにしている。商店街の方々の高齢化が進む中、オープンになっている情報を基に、高校生ら若者が、人生の大先輩たちと、まちづくりの課題を話し合う、そんな活動の場に発展させたい」と述べた。

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