森の中にある「白州蒸溜所」の蒸溜棟

サントリー白州蒸溜所、10月にリニューアルオープン “森林公園工場”で伝統製法を復活、さらなる品質向上へ

 近年、国産ウイスキーの評価が世界的に高まっている。スコッチ、アイリッシュ、アメリカン、カナディアンの4大ウイスキーに「ジャパニーズウイスキー」を加え「世界5大ウイスキー」といわれるようになった。

 ジャパニーズウイスキーの評価を高めた大きな要因に、サントリーのシングルモルトウイスキー「山崎」「白州」がある。サントリーは、京都郊外に「山崎」を生んだ「山崎蒸溜所」の建設に着手した1923(大正12)年から100年となる今年を「サントリーウイスキー100周年」と位置付ける。また、1973年に完成した「白州蒸溜所」(山梨県北杜市)の50年目にも当たる。

▽「天然水」工場も併設

 サントリー(東京)は、50周年を迎えた白州蒸溜所を大幅リニューアルし、10月2日からの一般公開を前に施設を公開した。南アルプス甲斐駒ケ岳の麓、標高約700メートルにある同蒸溜所は、約82万平方メートルの森にあり、敷地内に「サントリー天然水」の工場も併設している。

白州蒸溜所・天然水工場の共通玄関となる花こう岩を使った「ビジターセンター」

 

 リニューアルは、両工場共通の玄関になるビジターセンターを新たに建設。“森林公園工場”をコンセプトに「バードサンクチュアリ(野鳥の聖域)」を整備したほか、ウイスキーのテイスティングができる「セントラルハウス」も造った。

セントラルハウスのテイスティングラウンジでは、“白州の森”を感じながらウイスキーを味わうことができる

 

▽「山崎」と違うテイスト

 セントラルハウスで行われた施設説明会で、サントリー常務執行役員の栗原勝範・原酒開発生産本部長は「日本中を探して、適度なミネラル分を含む良質な地下水があるこの場所に決めた」と白州の地を選んだ理由を説明した。

ウイスキー造りは「水が最も大事だ」と話す栗原勝範・原酒開発生産本部長

 

 白州蒸溜所では「山崎」とは違うウイスキーを目指したという。栗原氏は「気候と水が違うので『山崎』と『白州』は違った味になる」とした上で「『山崎』は華やかで芳醇(ほうじゅん)。重厚感がある」「『白州』は軽やかですっきりした味わいが特徴だ」と話した。

▽「原酒つくりこみ」へのこだわり

「今まで以上にウイスキー造りを体感できる」とリニューアルについて説明する有田哲也・白州蒸溜所工場長

 

 白州蒸溜所の有田哲也工場長は、今回の改修に合わせ、さらに品質向上を目指す姿勢を強調した。具体的には、2024年7月から稼働予定の伝統的製法「フロアモルティング」復活と「酵母の自製化」だ。フロアモルティングは、大麦を床の上で発芽させて麦芽をつくる伝統的製法で「香味に厚みが出る」利点があるという。アルコール発酵に必要な酵母は、これまで外部から購入していたというが、ウイスキー造りに最適な酵母にするよう培養条件を制御するなどして一部自社製とする計画だ。

 製造過程での「原酒のつくりこみ」を重視し、品質向上を目指すことが狙いで、こうした取り組みについて、栗原氏は「造り手がプロセスを感じることができるウイスキー造りだ」と強調した。

リッチな香りが期待できるという伝統的製法「フロアモルティング」。山崎蒸溜所でも2023年に復活した(写真は山崎蒸溜所)

 

▽貯蔵庫でテイスティング

 リニューアルのため、休止していた見学ツアーも10月から再開する。新たに設定した「白州蒸溜所ものづくりツアー」(1人3000円)は、白州の森を体感したり、新テイスティングルームで試飲したりすることができる。「同プレミアム」(1人5000円)は、たる詰め作業を近くで見学できるほか、貯蔵庫でのテイスティングが体験できる(価格はいずれも税込み)。

白州蒸溜所には18カ所の貯蔵庫がある。標高が高いため、熟成がゆっくり進むという

 

 ブレンダー室の野口雄志室長は、シングルモルトウイスキー「白州」について「色=明るい黄金色、香り=すだち、ミント」などの特徴があり、海外でのコンペティションで受賞歴がある「白州25年」は「色=赤みがかった琥珀(こはく)色、香り=熟した柿、マンゴーなど」といった違いを教えてくれた。

ブレンダー室の野口雄志室長。「長く熟成すれば、おいしくなるとは限らない」とウイスキー造りの難しさを話した

 

 今後のウイスキーづくりについて、野口氏は「まだまだ品質を高める余地がある。フロアモルティングなどの製法に隠れているものがあるのではないか」と語った。「ジャパニーズウイスキー」のさらなる深化が期待できそうだ。

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