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米価の高騰長期化から何を学ぶのか 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」

 米の店頭価格が去年の2倍に跳ね上がって消費者の憤懣(ふんまん)高まる中、「米は買ったことがない」「(米は家に)売るほどある」と高値に手の出ない庶民に「まさに喧嘩(けんか)を売るような」失言をした江藤拓農相が更迭された。国会の党首討論で米の市中価格を「(5キロ当たり)3千円台でなければならない」「(下がらなかったら)責任を取っていかなければならない」と“宣言〟した石破茂首相。参院選や都議選を控え、場合によっては米問題と運命を共にするかのような姿勢を国民の前に示してしまった。

 確かに物価高騰をそのままにして長続きした政権はない、との教訓を踏まえたかどうかはともかく「米問題は消費税減税より国民の関心が高い」(自民党内)との声を重視したのだろう。代わって国民への発信力を買われたか、後任に選んだ小泉進次郎新農相(44)に石破首相は「何としても米価を下げよ」の特別指令を発令。小泉氏は就任早々の記者会見で「最も力を入れなければならないのは米。とにかく米に尽きる」と米価引き下げを明言。早速、近く予定していた政府備蓄米の入札をいったん中止させ、随意契約を踏まえた対応などを担当者に指示した。首相の命運さえ賭けて、どうやって何が何でも下げるのか、その姿勢と手法に注目だ。

 特にこれまでは備蓄米を放出して一時は18週ぶりに下がったのもつかの間、実需者の在庫の不足感から翌週再び上昇、出口の見えない状態が続く。ところが自民党の小野寺五典政調会長が「政府がそんなに儲(もう)けてどうする」と驚いたのは農林水産省の備蓄米の放出価格。農家から買い入れた額が60キロ1万1千円台〜1万2千円そこそこなのに落札価格は9千円余りも高い2万2千円前後。「政府はこんな時にたんまり儲けるのか。農家に返せ」(東北の農家)との反発があった。財政法などのため入札が決まっているというが、国民に理解されるのか。卸し段階では小売りや外食業者に7593円(通常の1・6〜3・4倍)もの上乗せが農水省調査で分かった。調達に要した経費を上乗せしたとみられる。しかも4月27日時点での小売りや外食業者に届いた備蓄米は3月2回分の入札で落札した分のわずか12%で、実需段階への送りが極めて遅い。このへんに、備蓄米を放出しても価格が下がらない一因がありそうだ。

 農水省でかつて米行政に携わったOBは「稀(まれ)に見る失政だ。消費者に迷惑をかけ、輸入米を招き、米離れを招くかもしれない」と言い捨てた。

 なぜ高騰が収まらないのか。基本的には米行政への信頼の欠如、不信感がある。米の生産・流通を市場任せにし、低価格を放置し、農家の急減など生産基盤を毀損(きそん)し、今後の安定した米の生産、供給を業界が見通せない。主食であり食生活に深く関わる稲作、米流通に政府はもっと責任を感じるべきだとの強烈なシグナルではないか。政府はどう受け止めるのか。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.21からの転載】


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