(岐阜県中津川市 渡合温泉)

夜はランプのみのデジタルデトックス空間! 岐阜の秘境の一軒宿「ランプの宿 渡合温泉」 【コラム:おんせん! オンセン! 温泉!】

 コンクリートジャングルのオフィス街で働く私は、休日は少しでも都会の喧騒(けんそう)から離れ、大自然に癒やされたい、と考えてしまいます。スマホや交流サイト(SNS)の普及で、24時間いつでも誰かとつながっている時代。平日の夜や休日に仕事の連絡があったり、メールを見てしまったりで、せっかく休んでいたのに気分が台無し、なんて経験をされている方も多いのではないでしょうか。

 今回ご紹介する温泉は、岐阜県にある「ランプの宿 渡合(どあい)温泉」。山奥にたたずむ一軒宿で、周囲には宿以外の建物が一切ありません。館内にはテレビも冷蔵庫もなく、携帯の電波も届かない、日常から隔絶された空間の中で過ごすことのできるお宿です。

 

「ランプの宿 渡合温泉」外観

 宿は岐阜県の中津川市街から車で1時間ほどの距離、景勝地として知られる付知峡(つけちきょう)の近くに位置し、後半30分は未舗装で細い砂利道をひたすら進んだ末に到着します。秘境という言葉がよく似合う山奥の景色に溶け込むように、木造の素朴な一軒宿がたたずんでいます。館内に入ると、ランプのコレクションがずらりと並び、壮観。こんにちは、と声をかけると、明るく気さくなご夫婦が出迎えてくれます。

館内に並ぶランプ

 渡合温泉の歴史は古く、源泉の発見は江戸時代末期から明治時代初期とのこと。そのころから山仕事や湯治客の方に利用されていました。現在、この一帯は渡合温泉の建物のみ残りますが、昭和30年代までは木材運搬用のトロッコ列車「木曽森林鉄道」が通り、林業を中心とした500人ほどの集落だったのだそうです。渡合温泉まで30分ほど続く林道は、その線路跡。なんだかロマンがありますね。

 

「客室」全景

 案内されたお部屋は、木のぬくもりを感じるシンプルできれいな和室。テレビも冷蔵庫もコンセントもなく、携帯の電波も入らない、現代文明から隔絶されたデジタルデトックス空間です。電気の照明はありますが、夜22時以降は自家発電が止まり、ランプのみの明かりで過ごすことになる本物の「ランプの宿」です。縁側からは緑深い山々の絶景を望みます。旅行先でもついついスマホに手が伸びてしまいがちですが、ここでは強制的に使用できないため、気持ちよく割り切って、何もしない贅沢(ぜいたく)と、大自然を味わうことができます。お部屋にトイレはありませんが、共用のトイレは男女別の水洗で、とても快適でした。

 

「男女別内湯」全景

 お風呂は男女別の内湯のみ。二つある湯船は、それぞれ温泉と湧水を沸かしたもの。タイル張りの床に木の湯船と、素朴でレトロな雰囲気です。大きく開いた窓から見える緑の景色が美しく、風や川の流れる音を聴きながらの湯浴みは、心の底からゆったり過ごすことができ、時間の感覚から解き放たれたようでした。浴室にもランプが設置され、夜はその温かくほのかな灯(あか)りの中で、湯浴みを堪能することができます。

 

ランプの灯りが美しい夜の浴室

 温泉の泉質は、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉。源泉温度は10度と冷たいため、薪で沸かして湯船に提供。貴重な源泉を加温のみの掛け流しで楽しむことができます。お湯はミネラルを感じる鉱物の香りで、舐(な)めるとほんのり塩ダシ味。水道水とは明らかに異なるなめらかな肌触りは、ツルツル感とトロトロ感の中に、キュッキュと引っかかるような感触で、温泉の濃厚さを感じさせてくれます。湯上りは心なしか肌がしっとりと仕上がり、いつまでも体がポカポカとしていました。

 

夕食一例

わらじ五平餅

 山の宿の夕食は早く、17時半から。山の幸がこれでもかと食卓を彩ります。この日のメニューは、イワナのお刺し身、アマゴの塩焼き、コイの甘煮、唐揚げ、山菜の天ぷらなどなど。20センチほどの巨大な「わらじ五平餅」も登場し、お腹がはち切れそうなほど大満足なボリュームでした。イワナはご主人が育てていて、直前までいけすで泳いでいた鮮度抜群のものをいただくことができます。

 

縁側からの眺め

 夕食後はその日の宿泊客全員がエントランスに集まり、ご主人の「ランプの使い方」講習会に参加。一通り説明が終わると、ご主人が用意してくれた様々なゲームをしながら、皆さんと談笑の時間です(ゲームの内容は泊ってからのお楽しみ)。BGMにはご主人セレクトのサザンオールスターズ、佐野元春、大瀧詠一など80年代の懐メロがレコードで流れ、ランプの灯りとマッチした癒やしの雰囲気。あの時間がとてもかけがえのないものだったな、と後からしみじみと感じました。

 都会で過ごす毎日に疲れたら、こんな山奥のランプの宿で「非日常」に癒やされてみませんか。日常の喧騒から一線を画す強制デジタルデトックス空間は、大自然と人間本来の温かみに触れることができる「良い時間」でした。

 

【ランプの宿 渡合温泉】

住所 岐阜県中津川市加子母渡合

衛星電話番号 090-1092-8588

【泉質】

ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉(低張性 弱アルカリ性 冷鉱泉)/泉温10.6度/pH:8.1/湧出状況:自噴/湧出量:0.84リットル/加水:なし/加温:あり/循環:なし/消毒:なし ◆掛け流し

【筆者略歴】

小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。

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