日総EVテクニカルセンター関西の外観(提供:NISSOホールディングス)

成長する蓄電池分野に人材供給 3月、戦力育成の研修施設を開所 NISSOホールディングス傘下の日総工産

 リチウムイオン電池に取って代わるかもしれない、次世代型の「全樹脂電池」をご存じだろうか。これまでの蓄電池の世界を変えてしまう「ゲームチェンジャー」になる可能性もある。しかも、その技術は「日本発」で、今、高い注目を集めている。

 その大きな変化の流れをとられて、成長が見込める蓄電池分野に着目し、製造工場などに即戦力の人材を供給しようとする企業がある。NISSOホールディングス(プライム上場9332)傘下で、製造業現場への人材派遣を手がける「日総工産」(横浜市)だ。同社は3月、滋賀県内に「日総EVテクニカルセンター関西」を開所する。その狙いを探ってみた。

「全樹脂電池」のイメージ(提供:APB)

 

福井県越前市にあるAPB本社の外観(提供:APB)

 

▼EV向けにも活用

 そもそも全樹脂電池は、リチウムイオン電池の主要な構成物質を「樹脂」に置き換えたものだ。このため、製造工程の短縮化が図れるほか、コストの軽減が見込める。さらに、異常時の発火のリスクが低く抑えられるという。

 そのような特性を持つことから、海中設備を点検する無人の潜水機、太陽光・風力発電の蓄電池に加え、国内外で需要拡大が見込まれる電気自動車(EV)向けにも活用が期待される。

 世界は、地球温暖化の主な原因とされる二酸化炭素(CO2)の排出量を抑制する「脱炭素社会」を目指す動きが加速する。そんな中、自動車の「脱ガソリン」が広がり、EVへのシフトが進むが、その際、車に搭載する蓄電池が不可欠になる。

 この全樹脂電池の開発、製造、販売をしているのが、「APB」(福井県越前市)だ。代表取締役CEOの堀江英明氏は、日産自動車でEVの開発などに携わり、2018年に、次世代型リチウムイオン電池となる全樹脂電池を扱うスタートアップ企業を立ち上げた。21年5月、福井県越前市で、全樹脂電池の生産工場「APB福井センター武生工場」をオープン、26年には大規模な量産化を目指すという。

 EV向けの電池は、従来のリチウムイオン電池メーカーが、自動車メーカーからコスト削減を求められ、厳しい競争になっている。しかし、全樹脂電池の場合、低コストで長い寿命という特性があり、今後、EVの普及を加速させるかもしれない

 APBは23年4月、サウジアラビアの国営石油会社・サウジアラムコと、全樹脂電池素材の共同開発で、連携協定を締結し、技術開発や生産態勢のスケールアップを図っている。

NISSOホールディングスの藤野氏(提供:同社)

 

▼大きな可能性

 そのAPBに、大きな可能性を評価し、トヨタグループの豊田通商など国内の名だたる大手企業が出資し、全樹脂電池の開発、量産化で事業連携を進めている。

 その中の1社が、冒頭にでてきた、人材派遣業などの「日総工産」の持ち株会社NISSOホールディングスだ。昨年12月、金額は明らかにしていないが、APBに出資を行った。

 NISSOホールディングス・取締役専務執行役員兼最高執行責任者(COO)の藤野賢治氏は、出資の狙いについて「APB社は、日産自動車出身の堀江社長をはじめ、非常に高い技術を持っておられる点を評価した」と述べた上で「従来のリチウムイオン電池は安全性の面から社会インフラへの実装が難しいとされることに対し、全樹脂電池は安全性が高く、社会インフラへの実装が期待されている」としている。

 そのような経営戦略の下、子会社の「日総工産」は近畿経済産業局が設立した、「関西蓄電池人材育成等コンソーシアム」に参画し、蓄電池にかかわる人材育成、確保により取り組む姿勢を明確にするとともに、今年3月中旬に滋賀県近江八幡市に「日総EVテクニカルセンター関西」をオープンさせる。

 「日総工産」にとって国内10カ所目の教育訓練施設、「日総EVテクニカルセンター関西」は、製造現場の基礎となる安全教育をはじめ、EV・電池製造に特化した教育ができる施設になっている。EV・電池製造に特化した施設としては、同社では初めてで、20人~40人規模で同時に研修が可能だ。同社によると、APBとは既に人材の派遣契約を締結済みで、現時点では少数だがAPBにて就業中だ、という。

 藤野COOは「今後計画されている、全樹脂電池の量産工場稼働時に人材面でも、パートナー企業として確固たるポジションを得たい」と話すとともに「需要が見込まれる蓄電池の分野で事業を拡大させ、日本のものづくりに貢献していきたい」と強調している。

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