「中国恒大集団」の危機が意味するもの 3期目の習近平政権、計画経済が加速か

 経営危機の不動産大手の「中国恒大集団のトップはかつて、中国富豪ランキング1位だった。代表を務める許家印(きょ・かいん)主席は、相次ぐ苦難にさらされている。 11月3日、許主席が香港に所有する邸宅が、中国建設銀行に差し押さえられたことに続き、11日には、深圳にある1万平方を超える土地の使用権を売りださなければならなくなった。 この土地はもともと、恒大集団の本部を建設する予定で、基礎工事が始まっていた。完成すれば、許主席の夢である黄金色の輝かしいビルになるはずであった。しかし、習近平政権が3期目に入ることで、許主席の夢ははかなく消えたといえよう。その上に、恒大集団そのものの存在も先行きが不透明とみられている。

 習近平国家主席が、異例の3期目の政権を手に入れた後、中国は「計画経済」に一直線で突き進み、その取り組みは加速されている。そのような経済政策を背景にすれば、民間企業の恒大集団のような存在は、政権にとって目障りであろう。これまでに遠慮がちだった、政府幹部も、計画経済の推進という流れをみるにつけ、民間企業などの併合や没収に乗り出すに違いない。冒頭にあった、恒大集団はその格好の標的の一つだ。

地元政府の贈り物?

 本来、恒大集団が所有する39棟の高層マンションが所在地を管轄する地方政府に没収され、商業用施設に建設された。中国・海南島の海花島にある高層マンションの建築面積は約43万4941平方メートルで、全39棟のビルはすべて、個人の住宅になるはずであったにもかかわらず。

 2010年10月、高層マンション計画があった、海南省の儋州(だんしゅう)市政府が投資を呼び込むプロジェクトを打ち出し、恒大集団と開発面での協定を結んだ。その後、恒大集団が協定に従い、2015年から土地の権利などを買い、開発を進めた。しかし、恒大集団の債務危機が爆発した後の2021年12月30日、儋州市政府が政令を出し、「恒大集団が開発中の39棟の建設許可は規律違反をした」として、10日間以内に全部自ら壊すように、と命じたのだ。

 その時点で恒大集団からの投資総額はすでに810億元(約1兆6055億円)になった。恒大集団が不服申し立てを行った結果、処罰対象とされた39棟は壊されずにすんだが、所有権は地元政府が没収し、取り上げられた。

 習近平政権が3期目に入った直後、儋州市政府は没収した39棟について、ビジネスパークに改造する計画を公表した。単なる住宅ではなくビジネスパークに変更させるというのだ、まさに、3期目入りした習近平政権を祝って、贈り物をするかのようだ。

民営企業の取り締まり

 そもそも恒大集団の許主席は2022年の年始、個人資産などを売却しても企業の存続が危ぶまれることから、電気自動車(EV)といった新開発に力を注ぎ、債務危機に陥った自社を救うよう頑張ってきている。それは、尋常ではないスピートで資産を手放し続けたのだ。このような取り組みの背景には、習近平新政権が企業家に対する態度と関係しているではないだろうか。さらに、いつ許主席が当局に逮捕されてもおかしくない、と見る同業も出ている。

 3期目に入ったばかりの習近平政権にとって、当面の急務はコロナ禍で落ち込んだ経済の立て直しだ。ただ、コロナ禍によるダメージで中国経済は消耗され、政府も財政難に直面している。

 今年1月から9月までの中国地方政府の財政収入は、前年の同じ時期と比べ4.9%減少した。上海財経大学の劉元春校長は「収入の悪化で地方財政がこれまでにない高い圧力を受けている」と指摘している。それゆえ、習近平政権は、恒大集団をはじめ、富を持っている民営企業を取り締まり、「併合」するようにしむけ、昔の「計画経済」への回帰を打ち出したのではないか。 それを裏付けるような動きがある。

 11月2日、ネット起業の大手テンセントと中国聯通(チャイナ・ユニコム)が共同出資会社を新設する、と中国政府が公表した。唐突な発表に、世間をあっといわせた。周知の通り、中国聯通は中国政府が設立した国営企業で、テンセントは政府と関係がなく完全な民営株式会社だ。共同出資企業とはいえ、政府が主導になると決まっている。異例な出来事だ。テンセントは国に「吸収」されたと見る専門家も少なくない。「将来の市場でもっと多くの類似企業が現れるだろう」と中国「証券日報」が伝えている。これは始まりにすぎないだろう。今後はもっと多くの民営企業が国有企業に「併合」されるかもしれない。

 1956年に、社会主義革命をスローガンに中国にいる民族資本家や私営個人労働者に対して社会主義改造と称して、強制的に企業併合を行い、民営経済を消滅させた。それから中国政府は市場経済を捨てて、計画経済になり、さまざまな政治運動を経て、貧しい国に直行した。

 いま、中国で起こったことはまさにそのときと同じではないか?日本のマスコミも取り上げたように、中国政府は農産品販売や商店の運営を担う「供銷合作社(供銷社)」を各地で設立させている。すでに19万2460軒(中華全国供銷合作総社の公表デター)を超える店が各地で営業をしている。

 また今年の10月31日、中国民政部が通達を出して、住宅区に総合サービス施設をつくるようと指示した。それで各地で国営食堂は雨後の竹の子ように作られて、個人の店や民営レストランと競合する態勢を整えた。これから中国の個人企業と民営企業家の「冬」が来るであろう。

 この原稿をまとめている時、中国で有名な民営企業家でeコマースを展開する創業者や、ネットビジネスの「ゴットファザー」と称する人物らは、日本に滞在し、経営ビザをとることを考えているとうわさされている。

 もしかして、習近平政権による計画経済への回帰の動きは、多くの中国の有能な民営企業家たちを海外に「いざなう」ことにつながるのかもしれない。

(文・中国ウオッチャー 龍評)

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