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自動運転社会の建物・都市イメージ(提供:大成建設株式会社)

なぜゼネコンが自動運転に挑むのか――大成建設が見据える「建物」という最後のピース

 大成建設といえば、超高層ビル開発、大規模な都市開発など日本を代表するゼネコンとして、数々の大型プロジェクトを手掛けてきた企業だ。その大成建設が今、自動運転の社会実装に取り組んでいる。

 自動運転というと、自動車メーカーやIT企業による車両開発、あるいは道路インフラ整備を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、自動運転車が実際に利用者を建物から建物へとシームレスに送り迎えするためには、車と道路の開発や環境整備だけでは足りない。

 オフィスビルや商業施設の車寄せ、地下駐車場――。人が乗り降りする「建物」との接続が欠かせないからだ。

 そうした視点から、大成建設は自動運転ソフトウェア開発企業ティアフォーへの出資や共同研究を進めている。建設会社が自動運転に取り組む背景には、都市開発の現場で培われた問題意識があった。

 

■都市開発の現場で見えた課題

関電トンネル内での自動運転バス走行実証(提供:大成建設株式会社)

 

 大成建設都市開発本部プロジェクト開発第一部部長の原田憲雄氏は、入社以来30年以上にわたり都市開発に携わってきた。大成建設が自動運転サービスに関わるきっかけとなったのは、2020年に西新宿エリアで行われた自動運転の実証実験への参画だったと、原田氏は振り返る。「当初は当社他4社が事務局を務めるエリアマネジメント団体として、ティアフォーさんと西新宿で自動運転タクシーの実証実験を始めました。それをきっかけに、当社としてティアフォーさんとの親交が深まり、別の実証実験や技術開発を進めるようになったんです」。

 自動運転の議論では、車両やソフトウェア、道路インフラに注目が集まる。しかし、自動運転車両は道路を走るだけでは完結しない。利用者を乗せ、降ろし、目的地へ届ける。その先には必ず建物が存在する。「自動運転技術の実装に向けて、車は自動車メーカーやシステム開発会社が開発を進めている。道路インフラの整備には行政や自治体が取り組んでいる。しかし建物について考えている人は意外と少ないのではないか。これは大成建設としてやるべきことだと思いました」。

 

■欠けているピースは建物だった

 日本の都市部では、地下駐車場や車寄せを備えたオフィスビルや商業施設が数多く存在する。一方、自動運転車にとって地下空間は決して容易な環境ではない。GNSS(全地球測位衛星システム)の電波が届きにくいうえに、駐車場やトンネルのような景色の変わらない単一な構造では、自己位置の把握が難しい。狭い通路や柱、歩行者や一般車両が混在する環境への対応も求められる。

 自動運転の社会実装に向けた議論は、車両や道路インフラに集中しがちだ。しかし乗降時の車寄せから車寄せまで途切れなくつなぐという視点に立てば、道路と建物の境をどうつなぐかという課題が浮かび上がってくる。

 原田氏は、その課題を「欠けているピースは建物だった」という言葉で表現する。建設会社として長年、都市や建物をつくってきた経験があったからこそ見えた視点だった。

 原田氏によれば、自動運転分野に参入できた背景には、都市開発事業で培ってきた行政や関係機関との調整ノウハウもある。ビル開発では、車両の出入口の設置や地下駐車場の整備、工事に伴う道路使用などを巡り、警察や道路管理者との協議が不可欠だ。大規模開発では、交通量や歩行者動線への影響を検証し、行政や警察の理解を得ながら計画を進めていく。

 「道路を使わせてもらうためには、さまざまな許可や協議が必要になる。それは都市開発では日常的な業務です」。

 自動運転の社会実装においても、車両やシステムだけでなく、道路や建物、行政との制度調整が欠かせない。原田氏は、そうした経験が今回の取り組みの強みになっているという。近年はロボタクシー事業者からも、建物側への支援ニーズが寄せられているという。「車両側だけではどうしても自動運転を実装できなくて困っている。建設側で支援してほしいという声をいただくことも多いのです」。

 

■建物と自動運転をつなぐ挑戦

損保ジャパン本社ビル(東京・西新宿)の地下駐車場での走行実証(提供:大成建設株式会社)

 

 同社では近年、「TAISEI VISION 2030」を掲げ、中期経営計画で新規事業創出を支援する制度を整備している。原田氏らはその制度を活用し、都市開発の現場で感じていた「建物が最後のピース」という問題意識を提案したところ、社内で事業化に向けた検討が進んだ。

 現在、同社はティアフォー、損害保険ジャパン、日本信号と共同で、自動運転車両が建物内外を安全かつシームレスに移動できる環境づくりを進めている。実証フィールドとなっている損保ジャパン本社ビルの地下駐車場では、その実現に向けた技術検証が行われている。

 地下空間ではGNSSが利用しづらく、歩行者や一般車両も混在する。4社はこうした環境での自動運転実装に向け、位置推定や路車協調、リスク評価などの技術検証を進めている。

 「車は頑張っている。道路も頑張っている。残るピースは建物だ」というシンプルな提案が受け入れられた。その発想は社内でも共感を集め、自動運転時代の都市インフラを見据えた新規事業として検討が進んだ。原田氏は、社内提案の際にこう語ったという。

 「うちがやらなくてどうするんですか」。

 同社が目指すのは、単一の建物に閉じた仕組みではない。将来的には、建物単体にとどまらず、複数のビルや施設をつなぐエリア、さらにはスマートシティー全体への展開も視野に入れる。

 

■自動運転が変えるのは「街」そのもの

 大成建設が見据えるのは、自動運転によって、人の移動と都市空間の関係がどう変わるのかという未来だ。ロボタクシーが利用者を乗せ、街を走り、建物の車寄せまで送り届ける。地下駐車場を経由し、目的地へシームレスに移動する。そうした社会が実現したとき、建物の設計や都市のあり方も変化を迫られることになる。

 自動運転の未来を語るとき、人は車に目を向けがちだ。しかし原田氏が見ていたのは、その車がたどり着く先にある建物だった。建物が変われば、人の移動のかたちも変わる。そんな新たな街の姿が、少しずつ現実になろうとしている。

 


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