【ポイント】 富山県滑川市は、株式会社バカン(東京都中央区)やLINEヤフー株式会社(東京都千代田区)と災害時の情報発信・情報提供に関する協定を締結。LINEヤフーの仕組みを使って災害時に市のホームページへアクセスが集中したときのつながりにくさを和らげ、バカンのシステムで避難所の混み具合をスマートフォンで確かめられるようにして、市民の安全な避難を支援する。

滑川市は、災害時の市民への情報提供を強化するため民間企業との連携を加速させている。2020年9月には当時のヤフー(現LINEヤフー)と「災害に係る情報発信等に関する協定」を結び、2024年9月にはバカンと「災害時避難施設に係る情報の提供に関する協定」を締結した。
背景には、いざという時に市の情報が適切に伝わらないという地域課題があった。災害時は市ホームページにアクセスが集中し、つながりにくくなるなど負荷がかかるリスクがある。また、市民からは「避難所がどこにあるか、どの避難所が開設しているか分からない」という切実な声が上がっていた。行政の力だけで情報インフラを強化し、刻々と変わる避難所の状況をきめ細かく周知することには限界がある。そこで市は、広く普及している民間のプラットフォームや専門システムを導入し、災害時の確実な情報伝達体制の構築に踏み出した。
▽混み具合を4段階で表示
LINEヤフーとの連携では、災害時に市ホームページの内容を写し取った複製サイト(キャッシュサイト)をLINEヤフーの検索結果に掲載し、閲覧が市のサイトだけに集中しないようにして、アクセス集中による負荷を軽減する仕組みを取り入れた。さらに、同社の「Yahoo! JAPAN」および「Yahoo!防災速報」の2つのアプリなどを通じ、緊急地震速報や避難情報などの即時性の高い防災情報を、利用者の現在地に応じて配信する役割を担う。

バカンは、避難所の混雑を見える化するシステムを提供する。同社のサービス「VACAN(バカン)」を活用し、避難所開設時にはスマートフォンなどの画面上に「空いています」「やや混雑」「混雑」「満」の4段階で状況を表示し、その時々の混み具合を伝える仕組みだ。
▽二次元コードで周知、分散避難へ
事業を進める契機となったのは、2024年の能登半島地震に関するアンケート結果だった。市民から避難所の開設状況や情報発信について声が寄せられ、市は包括連携協定を結ぶ企業などから情報提供を受けて庁内で導入に向けた調整を重ねた。
導入後は、システムを実際に活用してもらうための住民説明や周知が不可欠となる。市は広報誌や防災パンフレットに二次元コードを掲載し、スマートフォンで読み取ればすぐに使えるようにして、利用を促している。並行して、日常的な備えとして、家族がいつ何をするかを前もって時間順に決めておく「マイ・タイムライン」の作成や総合防災訓練への参加を呼びかけ、災害時の適切な行動を啓発している。
スマートフォンを通じて、避難所の場所や開設状況、混み具合を市民自身が随時確認できるようになったことで、特定の避難所に人が集中するのを避け、安全な場所への分散避難を促す効果が見込める。民間のデジタル技術をまちの防災インフラに組み込む滑川市の試みは、災害に強いまちづくりに向けた一歩となっている。

▽能登の教訓 通信途絶でも使える仕組みに
滑川市にシステムを提供するバカンは、2016年設立のスタートアップ企業。すでに全国約300の自治体にサービスを導入した実績を持つ。混雑の見える化から、避難者全体の包括的な管理システムへと開発を進めている。背景には、能登半島地震での厳しい教訓がある。同社執行役員の五十嵐則道氏は、地震発生の1週間後に被災地に入った。そこで目にしたのは、これまでのデジタルの仕組みが働かない現場だった。
「通信も電源も途絶えていました。しかも、職員の皆様自身も被災者で、バカンのような仕組みを動かす方もいらっしゃらない状況でした」
この課題に対応するため、新システムを開発。通信が途絶えたときでもアプリを通じて避難所単位で避難者の名簿を作れるローカル(オフライン)運用機能を実装し、インターネットにつながっていなくても、その避難所の中だけで使えるようにした。また、高齢者などがスマートフォンを使えない実態を考慮し、従来通りの手書きの避難者カードをスマートフォンで撮影し、自動で文字を読み取り(OCR)、データ化するアナログとデジタルの融合的な手法も採用している。さらに、多言語対応で外国籍住民の受付負担を軽減するほか、集まったデータを基に避難所ごとの必要物資を推計する機能も備える。
この新しいシステムは2025年末に提供が始まり、38自治体で採用または導入準備が進んでいるという。通信や電源が途絶え、職員の手も足りない現場でも、誰もが簡単に使えることを追求したシステムといえそうだ。
【滑川市 コメント】
滑川市では、他市町村や民間企業などとさまざまな分野において協定を締結し、応援協力の確保・充実に努めています。応急対策において情報発信は避難行動の基本となる重要な分野であり、民間企業などと連携し、既存のプラットフォームを活用させていただくことで、円滑な避難の実施につなげてまいりたいと考えております。
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