【ポイント】神奈川県厚木市は2026年1月、株式会社ゼネラル(旧富士通ゼネラル、川崎市)と協定を結び、同社のAIシステム「GRANTOWN」を使った実証実験を実施。Hmcomm株式会社(東京都港区)の技術も組み合わせ、避難所の確認など防災に関する問い合わせにAIが24時間応答する体制と、災害時の緊急通報をAIが自動判定する機能を検証した。

災害の発生直後といえば、市民などの問い合わせで役所の電話は鳴りやまなくなる恐れがある。命に関わる通報と一般的な問い合わせが混在するなか、限られた職員が優先すべき一本を取り逃がせば、初動の遅れに直結する。
医療の現場では、けがや病気の重さに応じて治療の順番を決めることを「トリアージ」と呼ぶ。厚木市はこの考え方を災害時の電話対応に持ち込もうと挑戦している。人口減少が進み、すべての市民サービスを自治体単独で担うことは難しいこの時代、民間のAI技術を公共の窓口に取り入れ、対応の優先順位を瞬時に振り分ける。単なる業務の効率化ではなく、テクノロジーの力で地域の危機管理を再設計する試みだ。
命を救う一本を探す
自治体の窓口には日々多くの電話が寄せられるが、受付時間という平時の「壁」があった。さらに災害時には着信が殺到し、緊急の通報がほかの問い合わせに埋没してしまうという有事の課題も抱えていた。限られた人員で優先すべき電話を見つけ出す仕組みが求められていた。
厚木市はこの課題解決に向け、2026年1月にゼネラルと協定を結び、同年2月9日から3月9日にかけて実証実験を行った。同社は同じ時期に東京都八王子市とごみや税など幅広い分野で実験を行ったのに対し、厚木市では分野を防災に絞った。
24時間の電話対応は、行政だけでは整えにくい。一方で、災害時の初動も速めたい。この二つをどう両立させるか。厚木市はほかの地域とは異なるアプローチで、災害時の「電話のトリアージ」という新たな領域を切り開くための検証に踏み出した。
民間の専門的知見を重ねる

実験を技術面で支えたのが、ゼネラルとHmcommだ。ゼネラルは旧富士通ゼネラルとして知られ、防災行政無線などで培った知見を持つ。同社は、自治体にかかってくる電話への対応をAIが担うシステム「GRANTOWN」を開発し、その基盤を提供した。
Hmcommは「音声×AI」の技術を持ち込み、話し言葉を聞き取るAI音声認識と自動応答の開発に加わった。
このシステムでは、住民からかかってくる避難所の確認や、感震ブレーカー(地震の揺れを感じると自動で電気を止め、火災を防ぐ装置)の補助についての質問などに、会話をしながら対応するAI (AIエージェント)が自然な言葉で24時間応答する。通話の内容は自動で文字に起こされる。特別なアプリを入れる必要はない。
実戦を想定し効果検証
市が特に注目したのは、通報の緊急度をAIが自動で見分けるトリアージ機能。人命に関わる通報や家屋の損壊などをAIが検知し、危機管理課へ即座に自動で転送できるかが焦点となった。限られた人員を有効に配置できるかを確かめる、重要な検証作業だった。
有事にも機能するのかを確かめるため、厚木市は実証期間内に行われた災害対策本部の訓練内でもAIエージェントを実際に使った。本番の災害を想定した環境で緊急度の自動判定などを検証し、課題を洗い出した。
厚木市は今回の実証結果を踏まえ、将来的な市役所全体への導入の可能性を探る。平時は自動応答で平時の窓口業務を効率化し、職員が専門的な対応に時間を充てられるようにする。災害時の電話を見分けるための仕組みが、平時の市役所の働き方を変える一歩にもなっている。
【厚木市コメント】
災害時における「電話のトリアージ」は迅速な初動対応につながります。本システムは平常時から全庁的に活用できるフェーズフリーな点が非常に優れており、職員アンケートでもAI活用を望む声が多く寄せられています。今後はさらに電話応答の精度を高めていただき、将来的な実装に向けて取り組みを進めていきたいです。
【ゼネラル コメント】
住民の安心・安全を守る自治体の取り組みをAIの力で支え、住民の皆さまへより迅速で確実な対応につなげたいという思いから、GRANTOWNを開発しました。今後も現場の声に耳を傾けながら自治体との共創を深め、より質の高い住民サービスと誰もが安心して暮らせる地域社会の実現に貢献してまいります。
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