K-POPや韓国ドラマ、ウェブトゥーンなど、世界で注目を集める韓国コンテンツ。その背景には、独自の文化と、それを支える産業基盤がある。この連載では韓国コンテンツビジネスの最前線を取材し、それを支える文化や制度、人材に迫る。第1回は韓国コンテンツ産業の輸出を牽引するゲーム産業を取り上げる。
▽世界を目指す開発者
世界最大級のインディーゲームイベントの一つとして知られる京都のBitSummit(ビットサミット)。その開幕前夜、京都市内のホテルで、韓国コンテンツ振興院(KOCCA)が主催する韓国インディーゲーム開発企業とのネットワーキングイベントが開かれていた。
来日したのは10組の開発チーム。アクション、推理、アドベンチャー、パズルなど多彩なジャンルのゲームを携え、日本のパブリッシャーやゲーム会社、メディア関係者に向けてピッチを行った。印象的だったのは開発チームの若さだ。平均年齢20代半ばというチームも珍しくない。また、多くが創業間もないスタジオでありながら、パソコン向けゲーム配信プラットフォームSteam(スチーム)やニンテンドースイッチなどを通じた海外展開を見据えていた。
なぜ韓国では、こうした若い開発者が次々と生まれ、最初から世界市場を目指すのか。その背景を探った。

▽遊ぶ文化
K-ドラマが世界的な人気を集める一方で、実は韓国コンテンツ産業の輸出を最も支えているのはゲームだ。文化体育観光部(MCST)・韓国コンテンツ振興院(KOCCA)の「2024年基準コンテンツ産業調査」によると、2024年ゲームの輸出額は約85億ドルで、コンテンツ産業全体の60.4%を占める。ドラマや映画、音楽など他のコンテンツ分野を大きく上回る最大の輸出産業なのである。
その背景には、長年育まれてきた独自のゲーム文化がある。その代表例が「PC房(バン)」だ。1998年に発売されたPC向けリアルタイム戦略ゲーム「スタークラフト」が爆発的にヒットすると、高速インターネット網の普及と歩調を合わせるようにPC房が全国に広がり、放課後や休日になると若者が友人と連れ立って集まる光景が日常となった。
PC房は日本のネットカフェと似た施設と紹介されることが多いが、その様相は少し異なる。大阪韓国文化院のチャン・ユンジョンさんによると、PC房はゲームをするためだけの場所ではなく、友人同士が集まり時間を共有するコミュニティー空間として発展してきたという。
日本でも友人同士でゲームを楽しむが、家庭用ゲーム機を用いたりオンライン上で対戦したりすることが多い。一方、韓国ではPC房というリアルな場に人が集まり、同じ空間でゲームを楽しむ文化が長く続いているというのだ。
高性能PCが並ぶ店内で、若者たちがゲームを楽しみながら会話を交わす。チャンさんに聞くと、最近ではラーメンや軽食だけでなく、ピザやサムギョプサルなど本格的な食事を提供するPC房や、大手食品メーカーが手掛ける店舗も誕生しているという。恋人同士や子連れで利用する人も少なくない。ネットカフェというより、ゲームセンターやファミリーレストラン、カラオケなどの要素を併せ持った「たまり場」に近い存在といえそうだ。

▽観る文化
韓国ゲーム文化のもう一つの特徴が、「ゲームを観戦する習慣」だ。その原点もやはり、「スタークラフト」にある。PC房に集まってオンライン対戦に熱中した若者は、やがて、トッププレイヤーの対戦を見て楽しむようになった。世界初のeスポーツ専門チャンネルが開局すると、「スタークラフト」を競技タイトルとするリーグがテレビ中継され、大企業がスポンサーについたプロゲーミングチームも結成された。人気選手は芸能人並みの知名度を獲得し、サイン会やファンイベントが開かれ、ゲームは「遊ぶもの」であると同時に「観るもの」として社会に浸透していったのである。
2009年にリリースされた5人対5人のチーム戦オンラインゲーム「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」は、新たな潮流を生んだ。韓国チームはLoLの世界大会(World Championship)で優勝を重ね、多くの世界的スター選手を輩出。LoLの韓国プロリーグ「リーグ・オブ・レジェンド・チャンピオンズ・コリア(LCK)」は世界有数のリーグの一つとされ、多くのスポンサー企業が参入してプロ競技として成長し、プロゲーマーが憧れの職業とされるきっかけにもなった。
そんな韓国eスポーツを象徴する存在が、LoLの世界的スター選手であるフェイカー(イ・サンヒョク)だ。彼は世界大会で数々の優勝を重ね、2026年1月には韓国の体育勲章で最高等級となる「青龍章(体育勲章1等級)」を受章した。同勲章はフィギュアスケートのキム・ヨナ選手やサッカーのソン・フンミン選手らにも授与されてきたもので、eスポーツ選手では初めてだった。eスポーツが従来のスポーツと同様に社会的評価を受ける時代になったことを示す出来事といえる。
韓国eスポーツが社会に定着する過程で、大きな役割を果たしたのが、企業が支えるプロチーム。中でも、フェイカーが所属するT1は、世界大会で数々の優勝を重ねる、韓国を代表する強豪チームだ。韓国では通信大手などの企業がチームを保有し、選手育成や競技環境の整備を支えてきた。企業がチームを支え、ファンが選手やチームを応援する姿は、まさに従来のプロスポーツに近い構造となっている。
近年は、競技スポーツとしての認知もさらに広がっている。eスポーツは2022年杭州アジア大会(コロナウイルス感染拡大の影響により2023年開催)で正式競技として採用され、韓国代表選手たちは、国を背負って戦うアスリートと同様の注目を集めている。


▽遊ぶ文化から作る文化へ
では、こうしたゲーム文化は、若い開発者をどのように育んできたのか。京都に集まったゲーム開発者たちは、まさにPC房でゲームを楽しみ、プロリーグを観戦し、スター選手に憧れて育った世代。こうした文化的な土壌が、韓国ゲーム産業の厚い開発者層を支えている。
もちろん、文化だけでなく、韓国では若い開発者を支える制度も整備されてきた。韓国コンテンツ企業の日本進出を支援する韓国コンテンツ振興院(KOCCA)大阪ビジネスセンターのベック・スンヒョックセンター長によると、韓国政府は、青年創業やインディーゲーム開発会社に対し、制作支援や金融支援、インキュベーションのためのオフィス空間提供、コンサルティングなどを積極的に進めてきたという。
ネットワーキングに参加した韓国のゲーム開発者たちからは、世界展開の足掛かりとして日本企業との連携を期待する声が多く聞かれた。Steamやニンテンドースイッチでの展開を見据え、日本語対応や日本市場向けのマーケティングを進める企業も少なくなかった。
一方、日本側からは韓国企業の作品について、「海外展開を意識した設計」や「高い完成度」を評価する声が聞かれた。少人数の開発体制ながら、最初から世界市場を視野に入れた企画やローカライズを進める姿勢に関心を寄せる参加者もいた。
韓国企業が早い段階から海外市場を目指す背景について、ベックセンター長は「韓国は人口約5000万人という限られた国内市場しかなく、特に競争の激しいゲーム分野では、最初からグローバル市場を視野に入れる必要がある」と説明する。
韓国企業の日本進出を支援する先に、ベックセンター長が見据えるのは、日韓企業が互いの強みを生かし、共同で世界市場へ挑戦するパートナーシップづくりだ。日本企業に向けて、こう呼びかける。
「まずは企業間の交流イベントやビジネスミーティングへ積極的に参加いただくことから、そこから第一歩が始まるのではないか。」

韓国は、オンラインゲームやeスポーツを中心に、世界市場で存在感を持つゲーム産業を築いてきた。今回、韓国ゲーム産業の底力として見えてきたのは、遊ぶ文化・観る文化・作る文化が循環する厚い土壌。PC房でゲームに親しみ、eスポーツを観戦して育った世代が、世界を目指すゲームを生み出している。
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