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「書評」 『土』の本 土壌研究の実用化に期待 共同通信アグリラボ

 アジサイが見頃を迎えた。さまざまな色の花を見ると、「青だと土壌は酸性、赤だとアルカリ性」と習ったことを思い出す。肥料の設計・普及に携わっていた宮沢賢治が「それでは計算いたしませう」という詩を残しているように、土壌分析は植物を育てる上で決定的に重要だ。

 特に最近は、地球の限界を示すプラネタリーバウンダリーや地球温暖化に対する危機感が強まり、環境政策と農業政策の融合が進んでいる。日本も欧米を追うようにして2021年に「みどりの食料システム戦略」を策定し、化学肥料や農薬の使用量などの大幅削減を目指しており、比較的地味な研究分野だった土壌分析や微生物の研究は、いまや「最前線」の技術として期待が高まっている。

 著者の農学博士・金澤晋二郎氏は、鹿児島大学や九州大学で半世紀以上にわたって研究を重ね、独自の有機肥料「土の薬膳」を開発、鹿児島では実際に約60アールの茶畑を購入して有機肥料で茶の栽培を始めるなど、研究成果を実用化する姿勢を貫いてきた。

 東日本大震災の後、放射能で汚染された使用済みの防御服を処理するため、ポリエチレンではなく生分解性の素材で作る研究を進め「土に還る防護服」を開発した。2011年からは、宇宙食の開発にも関わっている。タンパク源として最有力の生物はカイコだそうだ。日本で蓄積されてきた土壌や微生物研究の実用面での可能性を感じる。

 対談形式で書かれていて、土壌の専門的な解説も読みやすい。本書は、株式会社Pヴァインから発行された。2420円(税込み)。

(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)


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