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利益分配と公正価格への意識は(筆者画)

公正価格への意識 鬼頭弥生 農学博士 連載「口福の源」

 コメを巡る情勢や、生産費上昇に伴う食料品価格上昇を背景に、食料品の適正価格や公正価格が意識される機会が多くなった。適正価格と公正価格を並べて示したが、それぞれに明確な定義があるわけではない。しかしながら、価格形成や価格判断に関する諸研究において適正価格と公正価格は、近しいが異なる概念として取り扱われている。

 「適正価格」は、英語ではjust priceと呼ばれ、概して、品質等を参考にその製品に支払われるべき(と考えられる)価格として位置付けられている。市場での品質等に対する評価に基づく価格と考えられるのだが、「適正」の指し得る範囲は幅広い。昨今のコメ価格のように、供給量不足から高騰した価格も、消費者の経済的アクセスを考慮して低めに設定された価格も、それが支払われるべき相応の価格と判断されるならば、適正価格の範疇(はんちゅう)に入り得ると言える。

 一方、「公正価格(fair price)」は、品質の評価等を参考に、コストを考慮して公正である(と考えられる)価格として位置付けられている。新山陽子・京都大学名誉教授に基づけば、「競争的な市場で形成され、かつ各段階の生産や事業が継続できる価格」「少なくとも労働報酬を含むコストがカバーできる価格」と捉えることができる(3月24日発行号「口福の源」参照)。

 「適正価格」に比べて「公正価格」は、コストへの考慮や公正さの視点を含むことから、何をもって正当とするのかの基準がいくらか明確なように見受けられる。しかし、消費者や事業者の価格認識においては、いずれの価格を考える場合にも価値判断が伴う。同じ「適正価格」・「公正価格」という言葉で議論していたはずが、相手の考える「適正価格」・「公正価格」は、自分のそれとはまったく異なっていた、ということがあり得る。また、それらの価格判断のための基準や指標はさまざまである。例えば、ゲッティンゲン大学(ドイツ)のGesa Busch教授らが2016年に発表した論文によれば、取引や価格の公正さの判断には、三つの次元があるという。利益・負担のバランスの取れた分配という結果の公正さの次元、結果に至る手続き・方法の公正さ(取引方法の公正さ)の次元、手続き・方法についての十分な説明や誠意を指標とする次元があるとされる。

 生活必需品たる食料品の価格は、人々の経済的なアクセスがかなうという意味での「適正価格」であるべきだが、農業や食品関連産業の存続を考慮すると、バランスの取れた利益分配がかなう公正取引を経た「公正価格」の視点が欠かせない。報道等では、どちらかといえば前者の視点に重きが置かれるきらいがあるが、消費者が意識しにくい後者への意識を醸成するようなコミュニケーションと、どのような適正・公正価格を目指すべきかの議論が必要なのではないだろうか。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.22からの転載】


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