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合計特殊出生率が過去最低更新へ 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 連載「よんななエコノミー」

 6月上旬、厚生労働省から、わが国の合計特殊出生率や出生数などに関する2024年分のとりまとめである人口動態統計(概数)が発表されます。合計特殊出生率は、1人の女性が生涯に産む子どもの数に相当しますが、これが過去最低だった前年の1・20を大幅に下回る1・15となる見通しです。もちろん出生数も過去最低を更新することになるでしょう。

 合計特殊出生率が下がる要因として、若い世代が結婚をしなくなったためということがよく言われます。ほとんどの子どもが結婚した夫婦から生まれるわが国では、婚姻率の低下が出生率低下の最大の要因とみられがちです。実際、生涯未婚率と呼ばれる50歳時未婚率は上昇傾向にあり、20年は男性28%、女性18%でした。人生の選択肢が多様化し、かつては人を評価する尺度の一つだった配偶者の有無が問われなくなっている昨今、未婚率の高まりをおさえることは容易ではありません。一般論として、また政策当局者からも、夫婦が持つ子どもの数は以前と変わらないのだから、若い世代が結婚に前向きになってくれさえすれば、合計特殊出生率はある程度回復するはずだといった希望的観測が聞かれます。

 そもそも、「結婚はいいものだ」とか、「結婚するのが当たり前」といった固定観念が抜けきらない年配者から見れば、生涯未婚率がどんどん高まっていく現状が不思議でならないかもしれません。しかし、近頃は家族の在り方などに対する考え方が都市部に比べて保守的とされる地方でも、若い世代で非婚・晩婚が急速に進んでいることを踏まえると、この流れを食い止めるのは、容易なことではありません。

 加えて、近年「夫婦が持つ子どもの数は以前と変わらない」という通説に、疑義が生じる事態となっています。夫婦が持つ子どもの数に相当する有配偶出生率は15年以降、上昇から低下に転じました。出生数の変化を要因分解すると、10年代前半まで、有配偶出生率は出生数の押し上げ要因でしたが、15年以降は押し下げ要因に転じ、しかもその影響は徐々に強まっているようです。たとえ婚姻率・婚姻数の低下を止めることができても、有配偶出生率を改善できなければ、今後も出生率・出生数の低下に歯止めをかけることにはつながらないでしょう。

 また、有配偶出生率が低下しているにもかかわらず、子どものいる世帯の子どもの数に大きな変化は見られず、3人以上の子どもを持つ多子世帯の割合が低下している様子はありません。これは、結婚しても子どもを持たない選択をした、あるいは希望したが子どもができなかった無子夫婦が増えていることを意味しています。

 希望しているにもかかわらず子どもができない夫婦に対しては、近年不妊治療への公的支援が手厚くなるなど、支援策は徐々に増えています。しかし、人生の選択肢が多様化している現在、少子化問題を、公的扶助だけで解決することは不可能です。経済・雇用環境の改善はもとより、社会全体として普段の生活の中で若い世代が結婚・出産に前向きになりやすい環境や雰囲気を醸成していくことが大切なのではないでしょうか。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.21からの転載】


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