今年の夏も昨年同様、連日35度を超える猛暑日が続きましたね。ピークを過ぎたとはいえ、まだまだ暑いです。なかなか終わらない残暑には、毎年うんざりする気持ちになります。どこか涼しいところに行きたくなるものですね。例えば川沿いの温泉とか…。
今回は、そんな渓流沿いに湧く温泉、福島県の「二岐(ふたまた)温泉 柏屋旅館」をご紹介します。涼しげな風に吹かれながら入る温泉は、残暑払いにぴったりです。
二岐温泉が湧くのは、福島県南部の天栄村の渓谷沿い。山奥の緑濃い川沿いに、数軒の宿が建ち並ぶ静かな温泉地です。諸説ありますが、開湯は969年までさかのぼり、1000年以上の長い歴史を誇ります。標高800メートルの高地に位置するため、都心から車を走らせ、二岐温泉に到着すると、気温も数度低く、風も爽やかで、それだけで涼しさを感じられます。ちなみに、都内からは車で片道3時間ほどと、1泊2日のちょっとした旅行でもアクセスしやすいエリアです。
今回ご紹介する「柏屋旅館」は、二岐温泉の最奥に位置しています。タイル張りのシンプルモダンな建物は、谷底から崖沿いに建てられ、地下1階から4階の5階建て構造。エントランス・フロント部分は、最上階の4階に当たります。
お風呂は、時間帯で入れ替わる男女別内湯・露天風呂の「滝の湯」、「檜風呂」と、予約貸し切り制「自噴巌(いわ)風呂」の計3カ所。すべて渓流沿いの地下1階部分にあります。源泉が湧いているところにお風呂をつくっているため、湧きたての源泉をフレッシュなまま、堪能することができます。
どのお風呂も個性があり、それぞれ魅力的ではありますが、ハイライトは貸し切りの「自噴巌風呂」です。貸し切り時間は40分ごとで、館内廊下にあるホワイトボードの予約表に、マグネットを貼って空いている時間を押さえる、セルフ予約システム。予約時間になったら、建物を出て、川沿いにつくられた外回廊を進んだ先に、「自噴巌風呂」の湯小屋が見えてきます。
こちらは、崖沿いの温泉が湧出するところを、タガネを使ってくり抜いた手作りのお風呂。それを4代にわたり守り続け、昔ながらの姿を残しているのだそうです。湯船には、透き通って青くも見える源泉が、いたるところからポコポコと湧き出しています。いわゆる「足元湧出泉」と呼ばれ、湧きたての新鮮な源泉を味わえる、全国的にも貴重なスタイルの温泉です。木のぬくもりを感じられる湯小屋も風情があり、眼前を流れる川からは、爽やかな涼風が感じられ、都会の暑さや喧騒(けんそう)から一線を画しています。
柏屋旅館で使用している5本の源泉は、すべて自然湧出の「自家源泉」。泉質は、カルシウム―硫酸塩泉で、キチキチと肌をやさしく包み込んでくれるようなやさしい湯ざわりです。そんな源泉を、どのお風呂でも「掛け流し」で提供してくれています。無色透明のお湯からは、芳ばしいミネラルを感じる香りが漂い、舐(な)めてみるとほんのり薄塩ダシ味。肌に潤いを与えるといわれる泉質のため、湯上りは温泉の感触がそのまま肌に乗り移り、しっとりプルプルを実感することができました。
楽しみにしていた夕食は、周辺で採れる山菜やきのこ、山の湧水で育ったイワナ、地元天栄村村のお米など、福島産の食材を中心とした料理が魅力でした。
この日のメニューは、イワナの塩焼き、タケノコやフキなどの山菜、豚肉のせいろ蒸し、馬刺し、福島牛ステーキなど。よくありがちな、温泉旅館特有のとにかくボリューム重視の夕食ではなく、一つ一つ丁寧に作られた料理は、じっくり味わいたくなる美味(おい)しさで、心まで豊かになれました。
盛夏は過ぎ、9月に入ろうとしていますが、この暑さはまだまだ続きそうですね。夏のダメージや疲れが、心身に出てくるのもこの時期です。涼風感じる緑豊かな川沿いの環境は、そんな残暑払いに最適ではないでしょう。
こちらのお宿では、地元福島産の食材を使った食事と、自家源泉を惜しげもなく掛け流した温泉が待っています。食事と温泉、ダブルの「地産地消」を堪能することができますよ。
【二岐温泉 柏屋旅館】
住所 福島県岩瀬郡天栄村湯本下二俣22-6
電話番号 0248-84-2316
【泉質】
カルシウム―硫酸塩泉(低張性 アルカリ性 高温泉)/泉温50.2度など/pH:8.8など/湧出状況:自然湧出/湧出量:149リットルなど/加水:なし、あり/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆掛け流し
【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。