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「企業と企業をつなぐ仕事、『M&A』って何?」と題する出前授業を行った、日本M&Aセンターの竹内直樹氏

大きなお金とたくさんの人の心を動かす “企業どうしの結婚”  日本M&Aセンターが出前授業、「M&Aって何?」

 2つ以上の会社が一つになる「合併(Mergers)」と、ある会社が他の会社の株式を買う「買収(Acquisitions)」を意味する「M&A」。M&Aについてより多くの人に知ってもらおうという取り組みを、日本M&Aセンター(東京)が進めている。3月12日に東大附属中等教育学校(東京都中野区)で5・6年生(高2・3年生に相当)約35人を対象に、「企業と企業をつなぐ仕事、『M&A』って何?」と題する出前授業を行った。

 日本M&Aセンターは、1991年にグループ創業。中堅中小企業の支援に取り組み続け、累計8500件を超えるM&A成約実績を持つ。出前授業の講師は、同センター取締役で、4月に代表取締役に就任する竹内直樹氏。企業の成長を目的としたM&Aの必要性や有効性を、自らスタートさせ講師も務める「成長戦略セミナー」で多くの経営者に発信している。

 「M&A」について知らないという生徒が大半の中、まず竹内氏は、日本企業が抱える課題について、クイズ形式を取り入れながら説明。日本には370万社の会社がある中、経営者が70歳以上の会社は6割を超える245万社、そのうち約半数の127万社は後継者がいないという調査結果を提示。後継者がいない127万社のうち半数の60万社は黒字にも関わらず廃業を余儀なくされ従業員が路頭に迷う危機があることを説明した。背景には、少子高齢化や、後継者候補であるわが子に、無理に家業を継がせずに好きな道を進ませたいという中小企業経営者の持つ課題などがあるという。

 企業が「黒字」であることの理由を生徒たちに尋ねると、「需要があるから」という回答が挙がった。これに対し竹内氏は、会社として存続が難しくても、需要があるサービスを存続させたり、伝統的な技術やノウハウ、ブランドを継承したりするための1つの方法として、M&Aが大きな役割を果たすことを説明した。

 2つの会社が戦略的にタッグを組んで1つのグループになるM&Aは、売り手企業の株式を買い手企業が買うことで、「親会社」と「子会社」の関係になり、会社同士の“結婚”とも例えられる。竹内氏は、会社同士をつなぐ“M&Aコンサルタント”は、多額のお金と双方の企業に関わる多くの人たちの心を動かす仕事であると紹介した。

 実際に成立したM&A事例について、生徒たちが組み合わせや背景を考えるグループワークも行われた。「ふぐ屋」と「ウナギ屋」のマッチング成立事例について生徒たちからは、「ふぐとウナギをさばくには特別な技術が必要。それぞれの技術を持つ2社の合併で“総合魚屋”になれる」「インバウンド需要に向け、ふぐとウナギを合わせたのでは」などの意見が挙がった。実際にマッチングが行われた背景は、“夏に一番売れるウナギ”と“冬が旬のふぐ”により、夏冬の売り上げを安定させることだったが、竹内氏は、「マッチングに“正解”はない。マッチングの可能性について発想を広げることが大事」と伝えた。

 生徒や学校側から、M&Aに対する質問も出た。「売り手(買収された側)の企業の従業員の生活はどのように変わりますか?」「少子高齢化に対してM&Aはどのような役割を果たしますか」という問いに対しては、「企業同士の相乗効果が見えるM&Aを目指し、従来の従業員を解雇しないことをM&A制約条件にしている」「少子高齢化を止めることは難しいが、M&Aにより企業を集約することで売り上げが増し、個々の賃金が上がり、国が豊かになることにつながることが必要な取り組みではないか」と回答した。「企業同士が集結していった先には、いずれ限界が来ると思うが、その先の展望を聞かせてください」との問いには、「集約だけでは限界がくる中、皆さんが起業して新しい会社を作り、集約の循環を作っていくことが重要です」と回答し、経済産業省がスタートアップ企業の支援を展開していることも紹介した。

「売り手(買収された側)の企業の従業員の生活はどのように変わりますか?」など生徒からも質問が出た

 授業後、鈴木遙君(5年生)は、「進路や職業選択に関して、労働者側の立場で話を聞くことが多いですが、経営者側の経済観が聞けたのが新鮮でした」と話した。志賀瑠菜さん(同)は、「“心とお金が動くのがM&A”というお話がとても印象に残っています。業務提携は、会社の利益を上げるために行うものだと思いますが、会社を売るというところに“心”もついてくるのが印象的でした」。山口ゆいさん(同)は、「M&Aという言葉は聞いたことがなかったのですが、給料や日本全体のGDPなど、自分たちに非常に関わりのある身近なテーマ。もっとみんなが知っておいていいことではないかなあと思いました」。原田樹葉里さん(同)は「企業同士をマッチングすることでコンサルタントにも収益が出て、双方の企業も形を変えて業務の幅が広がっていくので、M&Aに良い印象を持ちました」と話した。

 竹内氏によると、国内で60万社が黒字廃業の危機を迎える事態に対し、経産省は10年間で6万社ずつ救っていこうという大方針を打ち出し、M&Aの仲介企業も400社ほどまで急増。日本M&Aセンターでは同業社と2021年に自主規制団体「一般社団法人 M&A仲介協会」を設立し、適正な取引ルールの徹底などを通じて、M&A仲介サービスの品質向上や業界全体の健全な発展に取り組んでいる。今回の出前授業について竹内氏は、「高校生対象の出前授業は初めてでしたが、生徒さんたちの顔を見ていても、しゃべっていても質問していても、自主性、クリエーティブな発想を感じました。幼少期や学生時代から良いM&A事例に慣れ親しんでもらいたいと感じているので、今日、この場に来られて非常にうれしかったです。今後も産官学の連携を進めていきたい」と振り返った。


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