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収穫時期を迎えたニュージーランドのキウイ

【キウイ、秘密を探る旅】<上> 厳しい品質チェック受け日本市場へ 新品種「ルビーレッド」に期待

 日本人が持つニュージーランド(NZ)のイメージは「羊」と「ラグビー」だろうか。意外と知られていないが、もう一つある。「キウイフルーツ」だ。

 春になり、スーパーマーケットの売り場にはキウイフルーツを見かけるようになった。国産は少なく、ほとんどがNZ産だ。広大な土地を持たず、日本と国土面積がさほど変わらないNZが、なぜ世界最大のキウイフルーツ輸出国なのか。どのように生産し、安全・安心な果物として各国に輸出しているのか。収穫が始まった秋の南半球に、キウイフルーツの秘密を探るため、4月のNZを訪ねた。

 ▼北島の南太平洋側が産地

 北島と南島に分かれているニュージーランドは、南半球のため北に行くほど暖かい。キウイは北島に生産者が多く、大規模農家というより多くの個人生産者が出荷基準に従って生産している。特に南太平洋に面した北島の北東地域で生産しているキウイは、日本にも多く輸出されている。
この地域にあるNZ最大都市オークランドから飛行機で約40分のタウランガは、一大産地でキウイフルーツの生産者を株主とする販売・マーケティング会社「ゼスプリ インターナショナル」の本社もここにある。

産地タウランガにあるスティーブンさんのキウイ農園
ブドウ畑のような棚が広がる農園

 タウランガ市内にキウイ農園を持つスティーブン・ミルンさん(57)の畑を訪ね、収穫時期を迎えた生産者としての思いを聞いた。マツダやホンダなど実業団チームでラガーマンだった経験を持つがっしりした体格のスティーブンさんは、2015年からキウイづくりを始めた。「1年のうち364日働いて365日目にキウイができる」と話すスティーブンさんにとって、収穫直前のこの時期は「最もナーバスになる」という。

「熟成度を確認したら1日ですべてのキウイを収穫する」と説明するスティーブンさん

 ▼「日本は大切なマーケット」

 農園ではポピュラーなグリーンキウイと、果肉が黄色くビタミンC含有量が多いゴールド(サンゴールド)を約10ヘクタールの畑で生産している。日本に約15年間住んでいたというスティーブンさんは「日本への輸出があるから今の生活ができる」と、ラグビーだけでなくキウイでも日本とのつながりの重要性を強調する。

 ただ、NZから日本に出荷されるキウイは「クラス1」といって最高品質なものに限られる。検査機関が畑からキウイを90個ランダムに刈り取り、大きさ、形、熟成度などをチェック。合格しないと収穫することができないのだ。

ゼスプリのリチャード・ジョーンズさん(左)から栽培の指導を受けているという

 ▼第三者機関が品質チェック

 この地域で生産されたキウイの熟成度など、輸出のための品質管理を担う第三者機関「Hills Laboratories(ラボ)」を訪ねた。ラボでは、収穫時期を迎えたキウイの形、重さ、色、糖度など数項目についてサンプリング検査を実施。海外向けとしての品質が守られているかを調べ、“お墨付き”を与えている。

検査のやり方を説明するブラッド・スティーブンスさん。「皮を1.3ミリ切り取って硬さ、糖度などを機械で測定している」=タウランガのHills Laboratories

 生産者からサンプリングの依頼を受けると、ラボの職員が検査内容により畑から40~90個を採取。訓練を受けた検査官が専用の機械を使って数値で確認する。この地域を担当するラボの支店長ブラッド・スティーブンスさんは「(公平性を保つため)検査官には、どの農園のキウイか知らせずに実施する。通常時のスタッフは6人だが、季節性があるので最大200人が携わる」と説明してくれた。「サンプルのうち基準を満たさないキウイが15%以上あると合格できない」という。

 検査費用は生産者が負担。合格して輸出できるのか、不合格で国内に流通するのかでは収入に大きな違いがあるため、訪れた生産者のスティーブンさんが「ナーバスになる」というのは実感できる。

 ▼新品種「ルビーレッド」登場

赤い果肉が特徴の「ルビーレッド」

 日本でラグビー選手として活躍していたスティーブンさんは「日本人はグリーンキウイとサンゴールドの違いが分からない人が多い」と苦笑いする。その中で違いがはっきりわかるのが新品種「レッド(ルビーレッド)」だ。

 レッドは2020年にゼスプリが販売を始めた新しいキウイフルーツ。色合いのきれいさだけでなく、抗酸化物質を多く含んでいるのが特徴で、近年の健康志向の高まりとともに注目されている。

 ▼20年かけ開発成功

 このレッドを開発したのが、ゼスプリとニュージーランド国営研究機関が共同設立したブリーディングセンターだ。キウイ原産国の中国を中心に、年間3万個の種をさまざまな組み合わせで交配させ、センター所有の約100ヘクタールの畑で新しい品種の開発を手がける。

中国から野生のキウイを取り寄せ、さまざまに交配させて新品種を開発するという

 レッドもここで約20年かけて研究し、商品化にこぎ着けたという。職員のサラ・ヒッキーさんは「レッドは熟成するのが早いので、輸送の関係でアジアにしか輸出できていない」という課題があると説明。「北半球と南半球では、いろいろな条件が違うので研究中だ。今後は北半球全体の市場に耐えうる新品種を開発したい」と話した。

新品種の開発には20~25年かかることもあるという。「次の新品種は秘密」と笑うサラ・ヒッキーさん=ブリーディングセンター

 ▼レッドは5月上旬まで

 ゼスプリの「ルビーレッド」は、日本にも輸出されているが生産量が少ないためスーパーの店先で見かける機会は少ない。熟成度の関係で販売も4~5月上旬という期間限定だ。レッドキウイはNZ産のオリジナル品種で、甘さに加えアントシアニンという抗酸化成分を含んでいる。ゼスプリ関係者も「これからは『レッド』に期待したい」と強調する。

 限定販売に敏感な日本人として、この時期だけのキウイを味わってみたい。これまでと違った“キウイ体験”ができるに違いない。


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