関東の梅雨明けが発表され、いよいよ夏本番ですね。連日、最高気温が35度を超える猛暑の日々が続いています。炎天下の中、少し歩くだけでも毛穴という毛穴から汗が吹き出し、体はベタベタでドロドロになります。そんな時は早く家に帰り、冷たいシャワーを浴びて、スッキリサッパリしたいですよね。
温泉は温かい、または熱いため、冬に入るものというイメージをお持ちの方も多いと思います。しかし、全国には湯温35度以下のぬるい温泉も数多く存在し、夏の暑い時期にこそピッタリなものもあります。猛暑日に浴びる冷たいシャワーのように、涼感を味わえる温泉なのです。今回は、そんな「ぬる湯」を堪能できる温泉の一つ、山梨県の「下部(しもべ)温泉 不二ホテル」をご紹介します。
山梨県身延町の山あいに湧く下部温泉は、十数軒の宿や施設が点在する静かな温泉地です。都内から車で2時間半ほどのアクセスで、温泉街にはJR身延線「下部温泉駅」があるため、鉄道利用でも気軽に訪れることができます。開湯は836年と長い歴史を持ち、戦国時代は武田信玄の影響下にあったため「信玄の隠し湯」と呼ばれ、現在も古き良き湯治場の風情を残しています。
「不二ホテル」は、そんな下部温泉街から少し離れた田園風景の中にポツンとたたずむ和風旅館。昭和12年創業の老舗宿で、木のぬくもりを感じる落ち着いた建物は、山の緑に溶け込むような外観です。
お風呂は、男女別内湯と混浴の露天風呂の2カ所。内湯は「源泉掛け流しの湯」と、「源泉あたため湯」の二つのお風呂があります。こちらの源泉は約27度と「ぬる湯」のため、そのまま掛け流す湯船と、40度前後の適温に加温して提供する湯船に分かれています。まずは身体を温めて、ひんやりとするぬる湯に漬かり、それをループする温冷交互浴を楽しむことができます。
露天風呂は、緑豊かなお庭に作られた岩風呂です。湯治で訪れる人も多いことから、療養者の介助ができるよう、今でも「混浴」のスタイルを残しています。こちらは約27度の源泉を、加水や加温、循環することなく、そのまま掛け流しで利用。広々と開放的な雰囲気の中、涼を感じる「ぬる湯」を堪能することができます。真夏の太陽の下、プールより少し温かいくらいの温泉に浸る爽快感は極上。灼熱(しゃくねつ)の砂漠でやっと見つけたオアシスのような気分でした。
泉質は、アルカリ性単純温泉。先述の通り、源泉は約27度の「ぬる湯」です。鮮度が良く、甘く軽やかな硫黄の香りが爽やかで、無色透明なお湯の中には玉子スープのような湯の花が舞っています。アルカリ性の湯質は石鹸(せっけん)のような効果があり、肌の余分な皮脂や汚れを取り除いてくれる「美肌の湯」。肌触りも石鹸で身体をなでるようにツルツルスベスベで、心地よいです。湯上りはお肌スベスベで、身体はすっきりさっぱり。清涼感が気持ちよいですが、だんだんと身体の芯からポカポカとしてきて、しっかり温まっていることも実感できます。
夕食は地元で採れた川と山の幸をふんだんに使った和風家庭料理です。この日は、川魚の塩焼き、湯葉のお刺し身、山菜などが食卓を彩りました。食事の後半は揚げたての天ぷらを、揚がった順番に一品一品熱々のまま提供。お宿の畑で採れたナス、レンコン、地元産のシイタケ、エビなどなど、見た目でも味でも楽しませてくれました。
夏本番の灼熱の日々の中、私たちは自然と涼を求めてしまうものです。温泉好きとしては、夏にこそ涼しい温泉「ぬる湯」で涼を感じてほしいと思います。クーラーの効いた部屋の中でゆっくり過ごす夏もいいものですが、少し遠出をすれば、アクティブにリフレッシュできる温泉のオアシスに出会えるかもしれません。温泉は冬の寒い時期に入るというイメージの方も多いと思いますが、夏こそ「ぬる湯」で極上の癒やしを味わってほしいなと思います。
【下部温泉 不二ホテル】
住所 山梨県南巨摩郡身延町上之平1525
電話番号 0556-36-0219
【泉質】
アルカリ性単純温泉(低張性 アルカリ性 低温泉)/泉温27.2度/pH:9.6/湧出状況:ジフン/湧出量:25.6リットル/加水:なし/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆完全掛け流し
【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。