カマコン・ブレスト

ブレインストーミングの潜在力

はじめに
本人の意志に基づかない行為、そんなことがあっていいのか? いやこれこそ組織が一体となり、仲良くなるにはなくてはならないもの、それはかつて存在した「する」でも「される」でもない中動態である。われわれは、行為に責任を問うということで中動態を失うことになった。ブレインストーミングには、われわれの記憶にあるこの中動態を呼び覚まし、その力を使ってチーム力を高める潜在力がある。

■カマコン
筆者は5年程前から鎌倉で生まれたまちづくり団体である「カマコン」の活動に参加している。
カマコンは2013年、面白法人カヤックはじめ鎌倉市内に本社をおく企業の社長たちが鎌倉のまちを元気にしようと始めた団体で、「ブレインストーミング」にその原動力がある。「ブレインストーミング」(以下ブレスト)はアイデア出しのための会議手法の一つで、提唱したのは、米国の実業家であり著作家でもあるアレックス・F・オズボーン氏。「ブレイン(頭脳)」と「ストーム(嵐)」からできた造語である。ちなみにカヤックはこのブレストを経営手法に取り入れて事業展開に成功しており、ブレストのツールとして「ブレストカード」を商品化しているほどだ。
カマコンでは毎月第3木曜に定例会が開催されている。毎回3~5組の鎌倉のまちを盛り上げるテーマでプレゼン、やりたいことの課題を100人程度集まったメンバーやゲストが、ブレストでアイデア出しを行う。さらにそのやりたいことの実現に向け、参加者から応援を募り、まちづくりにつなげる。カマコン定例会は、10年近く毎月欠かさず開催、コロナ禍でもオンラインで継続しており、現在プレゼン総数はおおよそ400、現在も活動しているプロジェクトは30~40件にも上る。

■カマコン・ブレストに組み込まれた「仕掛け」
一般にいわれるブレストもアイデア出しという点ではカマコンのブレスト(カマコン・ブレスト)と同じであるが、アイデアを出す量、そして単にアイデアを出すだけではなく、現実にプロジェクトが実施され、まちの活性化に影響力を持っているのはカマコン・ブレストが抜き出ている。そのようなことが評判を呼び、全国各地域からの体験参加希望が引きも切らない。カマコンではそのようなニーズにこたえるため地域展開専門チームを設けており、現在全国50以上の地域に「○○コン」として移植され、最近ではスウェーデン・ウメオ市にも「UMECOM」という名前でカマコン・スタイルの活動が移植されている。
ではこのカマコン・ブレストのどこにその原動力があるのか? ここではカマコン定例会を解説し、そこに組み込まれたいわば「仕掛け」を探ることにしよう。
カマコンでは夜7時に開始、午後7時から30分間は初参加の方にためのオリエンテーションを実施、午後7時半から午後9時まで本会(プレゼンテーション、ブレスト)が開催される。

仕掛け1 チェックイン
開会の冒頭、チェックインの時間をとる。チェックインとは参加者が少人数で今の意気持ちや期待を述べ合い、カマコン・ブレストの世界に入る(チェックイン)環境を整える作法で単なる自己紹介ではない。
次にカマコンではブレストに入る前に以下の点をカマコン・ブレストの注意事項として参加者に徹底している。

仕掛け2 カマコン・ブレスト・ルール「質より量」
・アイデアの数が勝負でアイデアの質は問わない
例えば15分間で最低で50個など、明確な数値目標を決める。そのためにはブレストの速度を早める必要があり、アイデアが自分の意志に関係なく出るようになる。

仕掛け3 カマコン・ブレスト・ルール「乗っかりOK」
・乗っかりOK
誰かが言ったアイデアにプラスαすることや、そのアイデアに関連したあるいは派生したアイデアも大歓迎。参加者同士が出されたアイデアを承認し合うことになり、特定の人のアイデアでなく、みんなで出したアイデアという意識がうまれ、仲良くなれる。

仕掛け4 カマコン・ブレスト・ルール「リズムに乗る」
・アイデアが出なければ「いいね」だけでもOK
チームから、おいてけぼりにならないために、ブレストのリズムに乗る。

仕掛け5 「いいよ」
カマコンではプレゼンテーマの実現に向けて、次へのステップを提案する「まとめ職人」という役割が存在する。まとめ職人は、出たブレストアイデアを「一緒にやってもいいよ」という表現で応援者を募る。この「いいよ」の表現が、私が「やります」「してあげます」でなく、「うっかり」手を挙げさせてしまう。

仕掛け6 チェックアウト
最後にブレストのチーム内2~3人1組で、参加してどうだったか感想を述べあう。これをカマコンではチェックアウトという。ブレストモードから、通常モードに戻す。


【図】カマコン・ブレスト例
コロナ禍で芸術家の活動を応援する鎌倉能舞台での「まちnoh舞台芸術祭」で、できるだけたくさんの方にオンライン中継を見ていただくアイデアを出すためのブレスト例

・5人でブレストした場合
・乗っかりを矢印で表示
(実際のブレストから筆者作成)

■中動態
中動態とは「する」でも「される」でもない世界。この第一人者である國分功一郎氏によると、意志というものが大きくかかわってくる。以下に國分氏の論文(注)を要約し紹介しよう。

(注)「精神看護」vol17 no1 2014.1 『連載 中動態の世界第1回 「する」でも「される」でもない世界』、vol17 no2 2014.3 『連載 中動態の世界第2回 消えた中動態の謎』

・「する」つまり「何事をなす」は能動態的、「される」つまり「何事かをされる」は受動態的と形容されるが、実際の行為はその二つのどちらに整然と分類できるものではない。この分類の難しさは意志という概念にかかわっている。何事かをなす私が能動に分類されるのは、私がそれをなす意志を持っている、あるいはもっていないとみなされる場合であるが、この意志という概念が極めて曖昧なものである。たとえば、「歩く」動作は身体の各部が意識からの指令をまたず、各部で自動的に連絡を取り合い、連携し、意志を行為の開始点にある主たる原動力と考えることはできない。
・意志の「ある」、「ない」は行為の責任に関わってくる。つまり行為の責任をその行為者に負わせてよいと、判断されたとき、その行為は「意志をもっていた」とみなされる。

このように意志のない行為は能動でも、そして誰かの意思によって動かされた行為である受動でもない。こうして意志のない行為を「中動態」という態であらわれることになった。國分氏によると、実はさまざまな言語において何千年も前から存在し、ある時点からこの中動態が、受動態に置き換わっていったという。それがヨーロッパの世界では宗教的な理由によるものなどの説があるが論証はされていないようだ。確かなことは、責任がだれにあるのか?という問にこたえるために、意志という概念が生まれたことだ。古代には意志という概念は必要なく、つまり責任が問われる必要がなかったといえよう。
いずれにしても責任を問うことで中動態を失うことになった。

■カマコン・ブレストの肝は中動態
中動態の言葉は「自分ではその気や、つもりがないのに、自然と勝手にそうなってしまう」。先の言葉では「意志がない行為」をいうが、実はカマコン・ブレストは自分が意識せず自然にアイデアが出てくる。カマコンでは、意図せずして、過去に失われたという「中動態」の世界を持ち込む仕組みを作り上げてきたといえよう。我々は通常、主体・客体が明確な能動、受動の世界に生きている。学校の授業で先生が生徒に「これを答えなさい」という世界と、「カマコン・ブレストでアイデアを出す」という世界の違いである。前者は能動・受動の世界、後者は中動態の世界で、知らないうちに応えるといった違いである。
そのポイントはチェックインからの仕掛けである。チェックインで能動・受動という自由意志で発語する世界、つまりこの発語には「発言したものが責任を持つ」世界から、「発語は個人の意志ではない」世界に入る、まるで結界を超えるような作法である。次に続くブレストは、高速で反射的なアイデア出し、この行為はもはや能動や受動の世界ではない、中動の世界に入っている。アイデアはチーム全体の共有物であり、誰の責任でもない。だからたくさんのアイデアが出される。誤解があってはいけないのは、中動態は無責任かというとそうではない。ブレストした人たちがそのテーマの応援団になって実際に実行してゆく。応援を募集する「いいよ」という呼びかけ方も、中動態の状態にある心に響き「うっかり」手を挙げてしまう。
そして、中動態的なままだと、通常モードに戻ってしまい、アイデアを出しただけになってしまうので、チェックアウトをもうけ、中動態の世界での「やってもいい」を保存し、能動、受動の世界に戻し「やってもいい」を再生し、アイデアを実行に移す。いわばパソコンの操作で保存してシャットダウン。これがカマコン・ブレストに組み込まれた仕掛けであった。

■カマコン・ブレストが示唆するもの
中動態で考えるとなぜチームワークが良くなり、仲良くなり、応援してしまうのか? 何故そのような行動に出てしまうのか? 本人の意志に基づかない行為、主語がなく、出たアイデアはチームの共有財産、そしてそのアイデを実践したくなる。これがポイントである。カマコン・ブレストはこの意志に基づかない世界に人為的に引き込んでゆく仕組みがある。それが中動態の力である。ぜひ一度アイデア出しをカマコン・ブレストで試してみよう。そして、中動態のもつ力を経験してはいかがだろうか。


【筆者略歴】
植嶋 平治 (うえしま・へいじ)
前青山学院大経済学部非常勤講師
学校法人臨研学舎東北メディカル学院専務理事、東北医療福祉事業協同組合理事。
社会福祉法人しばた会理事長、医療法人M&Bコラボレーション常務理事
1976年、大阪市立大商学部卒


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