米の高騰が食を揺るがしている。店頭価格は2月上旬、農林水産省が全国のスーパーで調査したところ前年同期比約90%高だった。勤労者の実質賃金が3年連続マイナスではひとり親家庭などから「子どもに十分米を食べさせられない」との悲鳴が出るのも無理もない。農水省は硬直的な備蓄米の放出規定を改め、柔軟に機をみて放出する作戦に切り替えた。この放出で店頭や業者間価格(スポット価格)を下げようという狙いだ。「業者間価格が下がれば、民間輸入の動きも抑えられる」(政府筋)との思惑もある。だが政府の思い通りになるか。備蓄米入札がかなり安くなっても1月の相対価格は5カ月連続過去最高の60キロ約2万6千円(前年比70%高、全銘柄平均)。その上、民間在庫が昨年以上に少なく今夏も米騒動かとの観測もある。
昨夏の騒動は投機か目詰まりかはともかく予想外に米流通の脆弱(ぜいじゃく)さと日本の米市場がビジネスになりうる可能性を国内外に気付かせてしまった。石破茂首相は甘く考えてはならない。「歴史上、食料高騰を放置して長続きした政権などない」(柴山桂太・京大大学院准教授)というのだ。
米騒動は当初、一時的なものとみられてきた。が、騒ぎが進むうちに主食を支える生産現場が予想以上に疲弊した実態が分かってきた。昨年11月、食料・農業・農村審議会企画部会で2020年から30年までの10年間で耕作面積の35%(92万ヘクタール)が不耕作に、農家(経営体)も108万から半減する試算が提示された。30年までにはわずか5年。92万ヘクタールは東北地方の農地面積を上回る。
これには昨年の党総裁選時、「水田の持続可能な安定経営と十分な所得確保」を訴えていた石破首相にはショックだったはずだ。「食料安全保障も防衛面の安全保障も安全保障という観点で一緒だ」(昨年12月6日参院予算委)とし、農地や農家の激減を「亡国の道だと思っている」(2月28日衆院予算委)という首相。今月末には食料安全保障の確立に向けた基本計画(次期食料・農業・農村基本計画)を決める。そこには食料自給率や農地面積の確保など約30項目の農政目標を並べる。1月末、首相の施政方針演説への各党代表質問で森山裕自民党幹事長は「市場原理のみに価格形成を任せていては農業者の収入が安定せず生産基盤の弱体化につながる」と長年の農政の失敗をあげ転換を求めた。
質問は離農の動きを早める農家を立ち止まらせたい首相の思いを共有したものだっただろう。すでに政府内では生産コストを考慮した商取引に向け適正な価格形成の仕組みの対象に米も入れる方向が固まっている。しかし、十分ではない。本心から亡国への道を断ち切りたいなら、思い切った所得補償など、今こそ石破氏が長年温めた信念を政策に打ち出す時ではないか。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.11からの転載】