「サケについてもっと知りたい」。長くそう思っていたところ、シロザケ(以下サケ)の遡上(そじょう)が本格化する10月初旬、北海道東部の網走漁業協同組合を訪ねる機会をいただいた。
世界有数の漁場、オホーツク海に面した網走漁協の漁業生産額は年間120億円(2023年)。ホタテガイとともに事業の柱であるサケの水揚げ量も、全国で1、2を争う有力漁協だ。
女満別(めまんべつ)空港から車で北へ30分。色づき始めた山々を背景に広大な農地を抜け、南北に長い網走湖、そしてその先の網走川に沿って下れば北の海が広がる。
翌朝、定置網漁船に乗せていただいた。出港は深夜2時。網の設置場所を船で順に巡り、10人ほどが力を合わせて網の端をたぐり寄せる。最後にクレーンを使って引き揚げ、中に入ったたくさんのサケを、一気に、かつなめらかな動きで漁倉に流し込む様子は圧巻だ。
さて、日本のサケ漁業は、人工孵化(ふか)・放流した稚魚が3〜5年後に母川回帰するのを待って漁獲する方法が中心だ。孵化放流は明治時代に始まり、1951年に制定された「水産資源保護法」でも国を挙げて推進した。60年代後半に年間500万尾だったサケの来遊数は、90年に6千万尾を超える。だがその後、2004年をピークに減少に転じ、近年は2千万尾程度と低迷を続けている。
そんな中、ここ網走が属するオホーツク海区(宗谷岬〜知床岬)だけは、他地域と様相が異なる。北海道全体の回帰率が2・2%なのに対し、オホーツク海区は5・6%。5年間の道内累計サケ漁獲量5万8千トンのうち、オホーツク海区は4万3千トンを占めている。
サケ回帰の減少理由に関しては、国立研究開発法人水産研究・教育機構や北海道立総合研究機構、地元のさけ・ます増殖事業協会などで議論がされているが、いまだはっきりとした結論は出ていない。水温上昇など海洋環境の変化は明らかな前提で、それ以外の可能性も含め研究が進んでいる。これまでは川に上るサケを原則全て捕獲・採卵していたところ、わずかずつながら、自然産卵させるサケを残す試みもなされている。
温暖化の進行が今後も確実な中、サケの未来はどうなるのか。今年はさらにいくつかのサケ産地を巡り、学びを深めたいと思っている。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 44からの転載】