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あおぞら投信 橋本社長

「資産運用応援団を目指したい」 多くのお客さまに投資の成功体験を あおぞら投信、橋本社長インタビュー

 2024年1月に始まった、新しい少額投資非課税制度(NISA)は、「貯蓄から投資へ」を掲げる政府の資産運用立国を推進する看板政策として、個人投資家の増加につながった。オンラインで取引ができるネット証券などが普及する中、年間投資額の上限が拡大され、株式相場の環境も追い風になったことが背景にある。もちろん、相場の乱高下に個人資産が大きく影響を受けることもあり、投資にはリスクが伴う。

 あおぞら銀行(旧日本債券信用銀行)傘下のあおぞら投信(東京)は昨年2月、設立10周年を迎えた。同7月にあおぞら投信の社長に就いた橋本明美さんは、「特に投資初心者の方に、投資の成功体験を積んでいただきたい。お客さまの資産運用応援団を目指したい」などと意気込みを語る。「貯蓄から投資へ」と流れが大きく変わる中、米トランプ政権後の国際金融情勢の個人的分析や、今後の経営に取り組む姿勢などを聞いた。

インタビューに答える橋本社長

▼企業価値を高めていく

——米トランプ政権発足後の金融情勢と日本経済への影響をどのようにみていますか。

 「あおぞら投信の投資信託はそもそも、市場の動向を予想して短期間での収益を目指すようなものではありません。資産運用における公式な相場見通しを積極的に出している会社ではありませんので、個人的な感想を述べたいと思います」

 「アメリカのトランプ政権発足後、100以上の大統領令に署名するなど、矢継ぎ早に政策を進めています。『相互関税』など、トランプ大統領の真意がよくわからないように見えている部分もありますが、米国に有利になるための外交上の交渉材料に使っているのではないか、と見ています。トランプ大統領が推し進める経済政策によって、米国経済にとって少しずつマイナス要因になってくる部分もあるのでは、と考えます。現時点(2025年2月25日)では、インフレ進行に伴い政策金利を下げざるを得ないような状況になってきているほか、NYダウ平均株価、ナスダックなど米国の株価もやや調整局面に入っているようにみえます」

 「『米国の黄金時代』を掲げるトランプ大統領の目標とは逆に、米国景気が冷え込んでしまうと、政権内の関係者がトランプ氏の進める経済政策に対し、『調整』をかける場面も想定されるでしょう。日本経済に目を転じると、関税などで、マイナスの影響を受けてしまうでしょう。それを見越して、日本のマーケットも少し元気がないと感じています。東京証券取引所が上場区分を見直し、国内外の多様な投資家の支持をえられるように狙った『東証改革』では、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上が期待されています。この2点が今の日本企業に求められていると考えます。企業への期待感が大きすぎて株価が上がりづらい一方、期待値も高く、結果も出している企業が堅実に株価を上げています。そういう企業に引っ張られる形で、マーケット自身がしっかり底堅くなっていくのでは、と期待しています」

——実質賃金の下落基調が続いていますが、個人消費の喚起にはなにが求められていますか。

 「2024年は全般的に、多くの大手企業が賃上げを実現されました。新入社員の初任給を上げる企業も出ている中、今年も大手企業では昨年同様の傾向になるでしょう。これに日本企業の大半を占める中小企業がどれだけついていけるかが注目点の一つだと思います。人手不足がここまで進むと、多くの中小企業も、賃金を上げないと人材が確保できないという状況になっています。何が求められるかといえば、大手企業、中小企業のすべての企業体が、人手不足の解消のためにも、しっかりと『賃金を上げよう』という行動を取ることが、国内景気のよい循環をつくることにつながるのではないか、と思います」

設立10周年イベントの模様

 

日々変動する株価

▼投資初心者向けの商品を

——大学では数学を専攻されたとのことですが、就職は金融機関にすると考えていたのですか。

 「当時は、総合職で女性を採用する企業は多くない中で、女性の採用を積極的に行っている銀行でしたので、それもあり、入行を決めました。職場では、男女の関係なく、色々な仕事を経験させてもらいました。最初に入ったマーケット部門のときには、入行3年目で比較的大きな企業のお客さまを担当させてもらいました。その後、大阪支店に転勤になり、希望していた融資部門に配属してもらうなど、挑戦する機会を与えてくれる銀行です。そのあたりが、ここまで働き続けてきた理由ではないか、と感じています。先輩、上司の方たちからの評価については、男女関係なく公平にみてくださっていた、と思います。社風としては、上司の皆さんが、自分達のやっている姿を若手に見せて、そこから一緒に学んでいこうという雰囲気が強かった。その結果、チャンスをたくさん与えてもらったと、しみじみ感じます」

——あおぞら投信の社長に就任した2024年は、会社設立10周年の節目だったのですね。

 「去年11月、10周年を記念して、販売会社さま含め、関係者のみなさまを集め、『お客さま感謝の集い』という催しを行いました。会場には200人近くのお客さまに来ていただき、これまでの10年の歩みを振り返るセッションも行いました。あらためて思ったのは、あおぞら投信は、お客さまの大切な資産を守り、育てることを最優先に考えてきた会社だということです」

 「具体的な商品でご説明すると、当社が生み出した、投資信託『ぜんぞう』シリーズ(=あおぞら・新グローバル分散ファンド(限定追加型)のシリーズ)があります。これまで40ファンド近くを設定しているのですが、投資信託の購入時から5年で15%上昇するという達成目標を過去設定した1ファンドを除き、クリアしている商品です。ただ、必ず15%上昇することを示唆あるいは保証するものではありません。また、現在運用途中のファンドもございます。『ぜんぞう』シリーズは、特に投資信託の初心者や、銀行に預金しかしていらっしゃらなかった方々に、初めて投資信託に投資いただくことを目的に生み出した商品で、そういう方々に投資の成功体験を積んでいただくことができたと思います」

 「『ぜんぞう』シリーズがお客さまに受け入れていただけたのは、投資にそれほど積極的ではなかった方や、投資初心者の方たち向けの商品だった点が一番の要因だったと思います。販売後のお客さまサポートも、販売会社さまを通してしっかりとさせていただいております。相場の動向を予想して、短期間での収益を目指すという商品ではありませんので、価格が上がったり下がったりは当然します。投資の内訳は、海外のグローバル株式が6割、先進国債券が4割のいわゆる『バランスファンド』となります。ご存じのように、株式の部分で株価が上がっている時は投資信託の価額は上がりますし、逆に株価が調整局面に入っている時は、一般的に金利は下がり、債券価格が上昇することになり、バランスの良いファンドといえます」

 「しかも、投資信託の価額がどこまで上昇したら、一旦投資を見直すのかという目標が決まっている商品です。上がれば利益確定の売りをするとか、下がれば損切りをするとかという行為に慣れていない投資初心者の方には、最初からゴール(目標)があるという意味では、悩んだりすることがありません。しかも、『ぜんぞう』という商品は、設定当初から1年かけて、株式を全体の6割まで、毎月、毎月、少しずつ購入していくというファンドです。それは当社(ファンド設定者)が購入していきます。ファンドの中で商品性として株式部分を増やしていきますので、時間分散が図れるメリットがあります。株価が落ちた時にも下がったところで買い増しをしますので、ファンド設定直後は株価が落ちたからといってあわてる必要がありません。コロナ禍の時に大きく株価が下がった際にも、株式の買い増しを行っていましたので、コロナ禍の時期に設定した『ぜんぞう』が、これまでの商品の中で一番早く目標を達成しています。個人投資家の基本はやはり、一喜一憂することはせず、積立で長期運用を行い、そして分散投資を行うに尽きるかと考えます」

——金融経済教育の機会を官民一体で全国的に拡充することを目的とした金融経済教育推進機構が昨年4月に設立されました。金融教育への取り組みを教えてください。

 「金融教育としては、投資信託の販売会社向けの商品セミナーや、個人投資家向けのセミナーなどを実施しています。それを繰り返し行うことで、最終的に投資家の皆さんの金融リテラシーが上がっていくことを目指したいと思っています。特に私が強調したいのは、投資は〝当てもの〟ではなく、100%当てにいくことは不可能ということを理解していただきたいということです。ですから、〝当て〟にいかなくても、投資においては、時間分散と資産分散を図っていくような投資信託や、資産運用のプロが選ぶ割安の株式に投資をしているような投資信託を個人投資家の皆さんには選んでいただきたいと思います。どこの投資信託を選ぶかは、投資家ご自身で判断していただくしかありませんが、投資信託の選び方や、基本理念のような部分をセミナーでお伝えしています」

 「弊社が考える金融教育活動は、基本的な買い方や、投資への向き合い方をお教えすることだと思っておりますので、マーケットが上がったり下がったりというところを〝当て〟にいくという買い方をお教えするのは神様でない限りできません。ただ可能性で言えば、先ほどもお伝えしましたが、買う株式の銘柄分散、買うタイミングの時間分散というのがセオリーです。このセオリーにのっとった商品として、あおぞら投信が世の中に送り出している一つが、『ぜんぞう』シリーズになります」

 ▼「ありがとうと言われる業界」 

——設立時の社員は11人でスタートされて、現在は38人ですが、男女の比率はどうなっていますか。

 「38人のうち14人が女性で、1/3強です。運用部、営業担当、事務部門など各部にまんべんなく配置されています。資産運用業界の役職員が交流することを通じ、業界全体で女性が活躍できる環境やネットワークを整備する、AMWF(Asset Management Women‘s Forum)の理念に共感し、会員として入っております。ただ、弊社として特別なことをしているわけではなくて、本当に適材適所で働いてもらっている結果として、色々な部署の責任あるポジションに女性が就いています。これは普通のことをやっていると考えており、弊社で働く女性社員たちが、結果を残すという形で応えているのだと思います」

——あおぞら投信の将来の「青写真」を教えてください。

 「経営理念であります『お客様の大切な資産形成の役に立ち、豊かな人生を過ごすための投資信託を提供する』ということを、これからもぶれずに実践したい。そして、本当にお客さまのためになる商品サービスを開発し、提供する力を磨いていこうと思います。お客さまの資産形成応援団として、頼りになるような、身近な運用会社でありたいと考えています」

 「弊社は、投資初心者の方々に、投資してよかったと感じていただける、成功体験をまずは積んでいただく商品を提供してきました。先ほども言いましたが、それが『ぜんぞう』シリーズです。資産を大きく増やすという商品ではありませんが、まずは1つの目標として購入時と比べ15%の上昇を目指すという形で、成功体験を味わっていただきたいです」

——資産運用業界ではたらく面白さと、この業界を目指す学生たちにメッセージをお願いします。

 「今、この業界はすごく注目をされています。全国銀行協会で統計を取っていますが、全国の金融機関が貸し出しているローン残高が、約606兆円(2024年12月末、全国銀行協会調べ)あると言われています。一方、資産運用業界の運用残高については、厚生労働省所管の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などを含めますと、約999兆円(2024年12月末)と推計されています。銀行業界のローン残高よりも、資産運用業界の運用残高の方が、圧倒的に上回っており、年々拡大している業界だといえます」

 「言ってみれば、資産運用業界という勢いのある世界で働くということは、とてもエキサイティングなことだと感じます。欧米の場合、銀行業界に入るよりも資産運用業界に入る方がステイタスは上だとみられるようです。日本でも、欧米のように資産運用業界の位置づけが上がっていくことを期待します」

 「そもそも、お客さまの大事な資産をお預かりし、大きく育てていくという責任のある仕事ができるのが、資産運用業界です。お客さまから資産を増やしてもらってありがとうと言われること、それがやりがいにつながります。命の次に大事なお金ですから、それを増やして、お客さまから、『ありがとう』と言われる業界は他にはないでしょう。また、投資の戦略は今後も進歩していきますので、日々の勉強を怠らず継続することが求められます。その努力の積み重ねを前提に、お客さまの大切な資産を守っていきたい、大きく増やしたいと考える方は、ぜひこの業界に入ってきてください」

〈はしもと・あけみ〉1990年、津田塾大卒業後、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)入行。2022年7月常務執行役員などを経て2024年7月にあおぞら投信代表取締役社長就任。富山県出身。57歳。


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