日本全国には約3000カ所の温泉地があります。全ての都道府県に温泉が湧いているため、どこを旅行してもそれを楽しむことができる恵まれた国ですね。その中で四国エリアは、愛媛県の道後温泉のような全国区の知名度を誇る温泉はあるものの、あまり温泉のイメージがない方も多いのではないでしょうか。とはいえ、四国各県にも温泉が存在し、お湯の良さが自慢のところも点在しています。
今回はそんな温泉の一つ、高知県の「土佐龍(とさりゅう)温泉 三陽荘」をご紹介します。こちらは穏やかな海沿いにたたずむ、濃厚な濁り湯を掛け流す温泉宿です。

「土佐龍温泉 三陽荘」は、高知県土佐市に湧く温泉地の宿。景勝地の横浪(よこなみ)半島入り口に位置し、目の前に砂浜「竜の浜(ドラゴンビーチ)」が広がり、バックは山に囲まれた風光明媚(めいび)なロケーションです。近くには、甲子園の常連校で今年の選抜高校野球にも出場した明徳義塾高校や、四国八十八カ所お遍路の「三十六番札所 青龍寺」があります。ちなみにこちらの青龍寺は、大相撲元横綱の朝青龍が明徳義塾高時代に、毎朝お寺の階段で鍛錬していたことでも知られています。


景色に溶け込むように建つ三陽荘は、館内を2023年夏にリニューアルしたばかり。食事処はきれいで落ち着いた雰囲気で、宿泊した和洋モダン室も清潔で明るく、ゆったりくつろげるお部屋でした。
お風呂は男女別で、「弘法の湯」と「弁天の湯」の2カ所。どちらも内湯と露天風呂があり、深夜に入れ替わります。
内湯は、それぞれ10人ほどが入れそうな大きさの浴槽が一つ。「弘法の湯」の露天風呂は、庭園風の敷地に大きな湯船を備えた、広々とした空間。土佐「龍」温泉にちなみ、湯口には迫力のあるドラゴンがあしらわれ、新鮮な源泉を投入しています。


一方、「弁天の湯」の露天スペースは少し小ぶり。そこに1人用の「壺湯」が二つ並び、40度で湧出する源泉を加温も循環もせず、そのまま掛け流しています(その他の浴槽は、加温しての掛け流し・循環併用)。フレッシュでぬるめの源泉のあふれる壺湯を独占し、プカプカと漬かる時間は至福のひととき。夜中に空を見上げながらの湯浴みは、まどろんでしまうような夢心地でした。


宿の敷地内から湧出する源泉の泉質は、カルシウム・ナトリウム-塩化物温泉。成分総計は約17グラムと、海水を思わせる濃さで、高知県内で1番の濃度だそうです。お湯は黄金色に濁り、軽く鼻を抜けるような金気(かなけ)の香りが爽やか。舐(な)めてみると、煮詰めたみそ汁のような塩辛さを感じます。温泉に身を沈めると、その濃厚な成分が全身を包み込むような感覚。湯上りは、体の芯まで温まり、ずっとぽかぽか。温泉成分のコーティング作用で、お肌ももっちりとしていました。



夕食は、土佐の豊富な食材を生かした料理が一品一品丁寧に出されました。
私が訪れたのは、11月の初め。ギンナン、クリ、ニンジン、ダイコンなどの前菜からスタートし、銀皮付き戻り鰹(がつお)、乙女鯛、カンパチ、イカのお造り、ウツボの鍋、四万十鶏の桑焼き、秋野菜の天ぷら、栗ご飯などが順番に食卓を彩りました。せっかくなので、高知県の日本酒「安芸飲み比べ3種(美丈夫、安芸虎、土佐しらぎく)」を注文。秋の食材とともに、地元のお酒を堪能するひとときは、とてもぜいたくなものでした。

温泉のイメージがあまりない高知県の「土佐龍温泉 三陽荘」。山と海に囲まれたロケーションも気持ちよく、土佐の季節の料理を味わえる食事も絶品です。冬も温暖な気候で過ごしやすく、目の前が砂浜なので夏は海水浴もいいですね。どの季節に訪れても違った楽しみがあります。そして、高知県ナンバーワンの高濃度で高温の濁り湯を掛け流しで堪能できることは、温泉好きとして何よりうれしいですね。
【土佐龍温泉 三陽荘】
住所 高知県土佐市宇佐町竜504-1
電話番号 0120-15-4592
【泉質】
カルシウム・ナトリウム-塩化物温泉(高張性 中性 温泉)/泉温40.1度/pH:7.2/湧出状況:動力/湧出量:180リットル/加水:なし/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆完全掛け流し(他加温循環浴槽あり)
【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)