9月も終わりに近づくと、昼間にはまだ夏の名残を感じても、夕方の風には少しずつ秋の気配が混じるようになります。暑さに追われるようだった夏がひと段落すると、今度はゆっくり温泉へ出かけたくなるものです。
せっかくなら、温泉につかるだけでなく、窓の外に広がる景色や、その土地ならではの味覚も一緒に楽しみたいところですね。今回ご紹介するのは、静岡県浜松市、浜名湖のほとりにある「舘山寺温泉 旅館ふじや」。湖畔の景色と温泉、浜松らしい味覚を楽しめる宿です。
浜名湖の東岸に広がる舘山寺温泉は、1958年に開湯した温泉地。温泉街の名前の由来でもある舘山寺は、810年に弘法大師によって開創されたと伝わります。リゾート型遊園地の「浜名湖パルパル」やロープウエーなどの観光施設が集まる一方、湖畔を歩けば穏やかな水面と山並みが広がり、のんびりとした温泉地らしい時間も流れています。


今回泊まった「旅館ふじや」は、そんな浜名湖のすぐ目の前に建つ全6室の小さな宿です。館内は昔ながらの気取らない造りで、客室も畳敷きの和室。部屋へ入ると、窓の向こういっぱいに浜名湖が広がり、夕方には傾いた太陽が湖面に長い光の道をつくります。目の前には舘山寺サンビーチ。道路一本を隔てて湖という近さで、波の音も聞こえてきます。全室が湖側なのもうれしいところです。

館内には二つの内湯があり、空いていれば貸し切りで利用できます。湯船の温泉は掛け流しで、循環や消毒は行っていません。加水・加温はありますが、舘山寺温泉の湯そのものの個性をじっくり堪能することができます。
泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物強塩温泉。お湯は薄い黄土色を帯びた濁り湯。浴槽の底まで見通せる程度の透明感を残しながら、少し離れると湯の中がふわりと霞んで見えます。鼻を近づけると、鉱物を想わせる香りに、潮のような塩気を感じる香りが重なる独特のニュアンス。華やかな香りではありませんが、温泉らしい存在感は十分です。なめてみると、うっすらとした塩味とうま味があり、お吸い物を薄めたような味わいでした。

肌触りも個性的。入った瞬間はツルツル、スベスベ。それだけかと思って肌をなでると、ヌルッと滑ったあとにキュッと指が止まり、時折キシキシとした感触も混じります。一つの湯の中に、いくつもの感触が重なるところが印象的でした。
湯上がりの肌はスベスベしながら、しっとり、もっちり。それでいて時間がたつとサラサラとして、体にはぽかぽかとした温かさが残りました。


温泉を満喫した後は夕食です。食卓には浜名湖のコノシロなどの酢の物、ヒラメやマグロ、エビ、タイラガイの刺身、ズワイガニ、サワラの西京焼き、茶碗蒸し、天ぷらなどが並びます。そして最後に登場するメインディッシュが、ウナギです。しかも白焼きとかば焼きの両方をいただきました。
まず白焼き。表面には軽く焼き目が入り、箸を入れるとふっくらとした身がほどけます。タレをまとわせない分、ウナギの脂と身そのものの味わいがよく分かります。
続いてかば焼き。こちらは一転、自家製のタレがかかり、表面が艶やかで、焼けた皮目の香ばしさが加わります。夕食のクライマックスとして申し分ない味と存在感でした。

夏の暑さが少しずつ遠ざかり、温泉が恋しくなってくる9月の終わり。浜名湖を眺め、個性豊かな強塩泉につかり、夕食にはウナギ。次の休日はこんな1泊旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。
【舘山寺温泉 旅館ふじや】
住所 静岡県浜松市中央区舘山寺町2268
電話番号 053-487-0204
【泉質】
ナトリウム・カルシウム-塩化物強塩温泉(高張性 弱アルカリ性 低温泉)/泉温29.0度/pH:7.8/湧出状況:動力/湧出量:66.6リットル(毎分)/加水:あり/加温:あり/循環:なし/消毒:なし ◆掛け流し
【筆者略歴】
小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は3,000以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)
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