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都内で開催された「東京水辺再生シンポジウム」

都心の水環境「外濠」を市民の憩いの場に 「東京水辺再生シンポジウム」

 都心の貴重なオープンスペース「外濠」。かつての江戸城の外側の堀で、現在、皇居の周りを一周する都道、通称「外堀通り」が通っている。JR市ヶ谷駅あたりで目に入ってくる外濠の緑色の水は、水中の植物プランクトンが大量に増殖した「アオコ」によるもの。流入する水が少なく、水が滞留しやすい外濠は、気温の高い季節や、大雨などの要因が加わると、アオコが大量発生して緑色によどんでしまう。

 豊かな水と緑を持つ都心の貴重な空間でありながら、道路やビルに囲まれ、市民が容易に水辺に近づくことができず、水質改善が課題――そんな残念な存在になってしまっている外濠と道路空間を融合させ、美しい水辺やオープンスペースを創出し市民の憩いの場として再生させようという動きが出ている。東京の水辺と公共空間のあり方を考え直そうと、日本プロジェクト産業協議会(JAPIC・東京)主催の「東京水辺再生シンポジウム」が5月24日、都内会場とオンラインで開催された。関東地域づくり協会(さいたま市)、建設コンサルタンツ協会(東京)の共催。

パネルディスカッション

  基調講演では、建築家・東京理科大学嘱託教授の宇野求氏が、「東京の修復と更新 土と木と水と」をテーマに講演し、宇野氏が携わってきた街の設計などを紹介。その1つとして、東海道新幹線が停車する愛知県・豊橋駅東口駅前広場の設計に携わり、広場で音楽を演奏した高校生たちが後片付けや掃除をしたことがより人々が集いやすい場となった事例を挙げ、「場所ができると人の行動が変わる」。都心の各現場で小さな都市再生を提案し、街の修復に携わってきた同氏。「1つ1つの取り組みは小さなことだが、その取り組みを知っている子どもたちが、街を大切にする大人になっている。いつ起こるかは分からないが遠くないうちに予測されている大地震について備える必要もある。東京にも、さまざまな災害などを乗り越えてきた前向きな気風がある。膨大な社会資本をどのようにサステナブルに活用するか。外濠の整備を地域エゴではなく快適な生活環境を作る活動の象徴として進めたい」などと話した。

 基調提言では、JAPIC国土・未来プロジェクト研究会外濠WGリーダーで建設技術研究所(東京) 顧問の吉川正嗣氏が、「外濠(市ヶ谷~飯田橋)地区再生プロジェクト」の概要を説明。外濠の課題として、「街を分断する大きな通りが走っている」「水辺に近づけない」「劣悪な水質」「地区が文化財指定されているため、保存管理に関してさまざまな法規制がある」などを挙げた。その上で、ドイツ・デュッセルドルフ市のライン川河岸プロムナード整備や、韓国・ソウル市の清溪川の復元、札幌市の創成川環境整備などの事例を紹介。「外堀通りの地下化」「遊歩道や自転車道の整備」「地下貯留槽で人工の親水空間を作る」ことなどで、想定される首都直下型地震の一時避難場所、帰宅困難者の支援機能など防災機能を備えたスペースを目指すことなどを説明した。

 事例紹介では、南北線建設工事に携わったメトロ開発(東京)の技術部部長・安藤太氏が、南北線建設工事で出土した多数の遺跡に関わる対応を中心に説明。「江戸城石垣調査への対策」「発掘調査にかかる時間や費用」「遺跡調査会との調整や交渉」「さまざまな法令との関係」などの課題を挙げた上で、「外濠の環境改善で東京の魅力が倍増するのでは」と期待を寄せた。

 札幌市スポーツ局招致推進部長の小泉正樹氏は、創成川環境整備における、「水と緑をつなぐ」(水辺にアプローチする階段・水の流れへの飛び石設置など親水性を高めるデザイン)・「東西市街地をつなぐ」(パブリックアートなどで人を引きつける仕組み)・「歴史をつなぐ」(札幌の歴史を表現する建築物の復元やデザイン)などの取り組みを紹介した。

 東京都市大学都市生活学部川口研究室の学生たちからの研究報告も。江戸時代の水辺は整備されていたが、現代は「川に背を向けた建物」「濠ごとに水路が分断されている」「護岸が高く緑との調和がとれていない」「自動車道や遊歩道が整備されていない」「外濠と河川部に高低差があり船が往来できない」などの課題を指摘。防災機能を備えた親水ネットワークの実現による、より世界に誇れる東京を目指す意欲が提言された。

 パネルディスカッションのコーディネーターは、東京都市大学都市生活学部の川口英俊教授。遺跡の出土対応について、さまざまな課題の下、地域の歴史を地下の展示で見せる場を作ったり、教育の場で活用したりしていくことはできないか、などの意見が寄せられた。札幌市の創成川環境整備では、市民へのアンケート・勉強会・懇談会・ワークショップなどでさまざまな形で市民のコンセンサスや機運を醸成していったことも紹介された。都心の水環境整備について、外濠WGリーダーの吉川氏は、「課題は多いが、水がきれいになればなんとかなる、という前向きな話に勇気づけられた。出土遺跡等についても、地域の歴史を見せる、教育に使うという観点について勉強していきたい」などと話した。


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