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コロナ禍で相続対策の賃貸物件に暗雲? 相続対策物件の売却について

 テナントビルやマンションなど賃貸不動産を購入することで相続対策ができますが、新型コロナウイルス禍においてはかえって負担になってしまう可能性もあることをご存知でしょうか。
今回は、相続対策としてテナントビルやマンションの売買を考えている方に向けて、コロナ感染による影響がどのように及びそうなのかについて解説します。

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テナントビルやマンションを購入することによる相続対策

 これからの文章の内容の理解を助けるために、なぜテナントビルやマンションを購入することが相続対策になるかについて、まずお話ししたいと思います。

路線価による相続税軽減効果

 テナントビルやマンションに限らず、不動産を購入すると相続税の軽減効果が期待できます。というのも、土地の相続税や贈与税の計算に用いられる路線価は「時価のおおむね8割程度を目安に定める」こととされているからです。
これは、路線価が1年に1回しか更新されないことが理由です。通常、路線価をはじめとする地価は、駅や買い物施設ができたことに伴う利便性の向上といったさまざまな要因を背景に常に変動します。しかし、路線価のように1年に1回しか変動がなければ、1年間に変動した地価を織り込むことができません。
路線価は主に相続税や贈与税の計算に用いられるものですが、先ほどの理由のため納税者間に不公平が生じてしまう可能性があります。路線価が時価のおおむね8割程度を目安に定められるのは、こうした納税者間の不公平を緩和するためとされています。

路線価で評価されることによる相続税軽減効果

 相続税や贈与税の計算において、土地は主に路線価を用いて計算されます。
このため、例えば1億円をかけて購入した土地は相続税や贈与税の計算において約8,000万円程度と評価されるのです。なお、相続税や贈与税の計算において、建物は固定資産税評価額などを用いますが、固定資産税評価額については時価の7割程度を目安に定められます。
これは固定資産税評価額が3年に1回しか更新されず、納税者間の不公平を緩和するため、という、先ほど触れた路線価と同じ理由です。固定資産税評価額は市町村により不動産一つ一つについて評価が実施されるため、マンパワーの問題で3年に1回の評価替えとなっています。

賃貸物件であることによる相続税軽減効果

 テナントビルや賃貸マンションは、賃貸の物件であることにより、相続税軽減効果を受けることができます。通常、自分の所有している土地のことを「自用地」と呼びますが、これを他人に貸していると「貸家建付地」としての評価を受けることができます。
要は、「他人に貸している分」について、相続税の評価減を受けられると考えるとよいでしょう。

貸家建付地としての評価

 貸家建付地としての評価は以下のような計算式で求められます。
貸家建付地の評価額=自用地としての評価-(自用地としての評価×借地権割合×借家権割合)自用地としての評価は、先ほどの路線価による方法で求められます。その時点ですでに時価からは8割減です。また、路線価ではエリアごとに「借地権割合」が定められています。
借地権割合は50~80%程度に設定されていることが多いです。最後の借家権割合は全国一律30%です。たとえば自用地としての評価が3,000万円、借地権割合70%の土地だった場合は以下のように計算できます。3,000万円-(3,000万円×70%×30%)=2,370万円賃貸物件であることを理由に21%(70%×30%)の評価減を受けられる計算となります。

貸家としての評価

 これまでの説明は土地の評価についてですが、建物は貸家としての評価を受けることができます。貸家の評価は以下の計算式で求めることができます。
貸家の評価額 = 建物の固定資産税評価額-(建物の固定資産税評価額×借家権割合)
先ほどお伝えした通り、借家権割合は全国で一律30%です。
つまり、テナントビルや賃貸マンションの建物部分は、賃貸物件であることを理由に30%の評価減を受けられると考えるとよいでしょう。また、建物の固定資産税評価額は時価の約70%ですので、比較的高い軽減効果を受けられます。

小規模宅地等の特例による相続税軽減効果

 小規模宅地などの特例とは、亡くなった方と不動産を相続した方が同居していた(生計を一つにしていた)といった、一定の要件を満たすときに受けられるものです。この特例を受けると、賃貸マンションなどの土地の面積200㎡までの部分について、50%分の軽減を受けられます。
前述の通り、路線価や固定資産税評価額による軽減や、賃貸物件であることによる評価減と併用できるため、組み合わせると相続税の課税額を大きく減らすことができます。

納税資金の準備

 賃貸マンションやテナントビルによる相続対策は、相続税軽減効果だけにとどまりません。
相続税は亡くなった方の資産額に応じて計算され、相続した方は相続額に応じて相続税を原則、現金で納める必要があります。
このため、特に不動産など現金以外の資産が多いケースでは、納税資金の準備に苦労してしまいやすいです。ただ、生前からの相続対策として不動産を生前に贈与した場合、不動産から生じる賃貸収入を納税資金として準備しておくといったことが可能になります。
贈与税は相続税より高額になるケースが多いため、計画的に進める必要があるでしょう。
しかし、相続税が財産すべての合計額に対して課税される一方、贈与税は贈与した財産のみが対象となるため、早い時期から相続対策を始めておくと、税金対策の効果を得やすくなるといえます。

法人設立による相続対策も可

 賃貸マンションやテナントビルを使って、法人を設立した相続対策も一案です。
具体的には、設立した法人に賃貸マンションやテナントビルを所有させて、そこから得られる賃料で相続人に給料を支払い、納税の準備資金とするといったことが可能となります。

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コロナ禍による問題1:賃料収入の減少

 先ほども説明しましたが、賃貸マンションやテナントビルには相続税の対策においてさまざまな効果が期待できますが、コロナ禍によりかえって相続人に負担となりかねない事態に陥ってしまう可能性もあります。
一つ目は賃料収入が減少してしまう可能性があるということです。
賃貸マンションやテナントビルを相続対策として購入して、実際に相続すると確かに相続税が軽減されるでしょう。しかし、相続した後は相続人が賃貸マンションやテナントビルの経営者として切り盛りしていかなければなりません。コロナ禍により家賃を下げたり、空室が増えたりすることで賃料収入が減ってしまうと毎月赤字が生じてしまう可能性があるのです。毎月の賃料収入は定期的な修繕に用いられますし、相続物件にローンが残っていた場合にはその支払いもしていかなければなりません。
資産として相続したものの、赤字続きでは相続人の負担は大きくなってしまいます。

コロナ禍による問題2:本業の給料減

 またコロナ禍により本業の給料が減ってしまったという方もいらっしゃるでしょう。
相続した賃貸マンションやテナントビルについてローンが残っている場合、赤字分は相続人の手持ちの資金から支払わなければなりません。しかし、本業の給料が減ってしまい、赤字分を負担する余力がなくなってしまうことも考えられるでしょう。
なお、賃貸マンションやテナントビルの経営で赤字になってしまった場合、赤字分については損益通算ができます。
損益通算とはたとえば、賃貸マンションやテナントビルの1年間の赤字額が500万円だった場合に、給与所得から500万円分差し引いて、すでに納めた税金の還付を受けたりこれから納める予定の税金の軽減を受けたりできるものです。損益通算は税金の還付や軽減を受けるものなので、給与所得が高いほど効果を得やすくなっています。
ただ、コロナ禍により本業の給料が減ることで、損益通算の額も減ってしまう可能性があります。

コロナ禍による問題3:路線価は高止まりしたまま

 冒頭でお伝えした通り、賃貸マンションやテナントビルの土地の評価は主に路線価により算出されます。
路線価は時価の約8割程度を目安に定められますが、評価替えが行われるのは1年に1回です。しかも、1月1日時点の地価を基準とするとされており、2020年7月に発表された路線価は今回のコロナによる影響を織り込んでいないものでした。路線価を発表するのは国税庁です。国税庁は今後の動向次第で改定も検討するという異例のコメントもしていますが、順当にいくと来年7月までは路線価が高止まりしたままとなってしまっています。
特にここ数年はインバウンド(訪日外国人客)効果により観光地を中心に地価が上昇しており、こうしたエリアでは実態とかけ離れた評価となっていることも注意が必要です。

相続対策物件の売却について

 相続対策としてすでに購入した不動産についても、場合によっては売却を検討しなければならないこともあるでしょう。ここでは、そうした相続対策物件の売却について見ていきます。

赤字に転落した物件は早めに売却を検討しよう

 コロナ禍の影響で、家賃減少や空室増加などにより赤字に転落した物件については、早めに売却を進めなければ、損失が膨らんでいきます。このため売却を進める方が増えるという可能性もあるでしょう。
一方、コロナ禍で、物件購入を考えている側は、慎重になっていることも予想されます。
こうした中、買い手市場となると相場より安い価格で買い叩かれてしまう可能性が出てきます。このようなことを防ぐためにも、資金に余裕のあるうちに計画を立てて売却を進めるとよいでしょう。

5年以内の売却だと税金が高くなる点に注意

 不動産を売却するとその利益額に応じて税金が生じます。このときの税率は、不動産の所有期間に応じて変わる点に注意が必要です。

   所有期間  所得税  住民税  合計 

短期譲渡所得 

5年以下  30.63%  9%  39.63% 
長期譲渡所得  5年超  15.315%  5%  20.315% 

 上記通り、所有期間が5年以下の短期譲渡所得の場合に適用される税率と、5年超の長期譲渡所得の場合に適用される税率とでは約2倍の開きがあります。いわゆる「土地転がし」を防ぐために、短期間での不動産売買には高い税率がかけられているのです。従って、赤字や収益減少を理由に賃貸マンションやテナントビルの売却を考える際には、その所有期間に注意しなければなりません。
なお、短期譲渡所得や長期譲渡所得の所有期間の算定は「売却した年の1月1日時点」が基準となります。
例えば、2015年4月1日に購入した不動産を2020年5月1日に売却した場合、実際の所有期間は5年1カ月なので長期譲渡所得のように思えます。しかし、所有期間の算定基準は売却した年の1月1日時点ですので、2020年1月1日時点の所有期間は4年9カ月で5年以下と判定されてしまうのです。
特に所有期間が5年以下なのか、5年超なのか、を慎重に計算した上で売却時期を決めるのがよいでしょう。

まとめ

 賃貸マンションやテナントビルなど賃貸物件を購入し、相続対策とすることはさまざまなメリットがあります。一方で、賃貸経営は簡単にはいかないことも多く、コロナ禍のような経済ショック時にはかえって相続人の負担となってしまう可能性もある点に注意が必要です。同じように賃料収入や給料減を理由として賃貸物件の売却を検討する方が増えていくと、買い手市場となり売主側に不利になってしまうことも考えられます。

 将来的に売却を検討しているのであれば、早いタイミングで検討を始めるのがよいのではないでしょうか。

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