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技能実習生の費用負担額を減らす仕組み作りで合意したインドネシア政府の担当者ら=インドネシア・ジャカルタ、2022年10月19日

悪評高い技能実習から育成就労へ移行 「選ばれる国」になるには外国人負担額の適正化が必要

 国内産業を支える「外国人人材」の確保をうたう入管難民法・技能実習適正化法の改正法が6月、国会で成立した。外国人の権利保護が不十分と批判されてきた既存の「技能実習制度」を廃止し、新たに外国人人材の育成と確保を掲げる「育成就労制度」を3年以内にスタートさせる。

 法改正は、国内の人手不足を踏まえ、育成就労制度を「魅力ある制度」として海外にアピールし、外国人から「選ばれる国」になることを目指す。そのためには給与など待遇面の向上はもちろん来日時に技能実習生が負担する高額費用の適正化をはじめ、日本に来た外国人が仕事と生活に明るい展望を見通せる環境づくりが欠かせない。

 「育成就労への“移行宣言”は、人手不足に直面する日本経済の起死回生策になると期待するが、移行の趣旨を海外の現地にきちんと伝えることが大事だ。外国人が実際に来てくれなければ、法改正はキャンパスに描いただけ(の絵に描いた餅)になる」。技能実習生の監理事業を行う監理団体「JOE協同組合」(東京都港区)の代表理事・北沢智子さんは言う。

JOE協同組合代表理事の北沢智子さん=東京都新宿区、2024年7月12日
 

▽暗部

 技能実習生を帰国後母国で活躍する人材に育てる――。1993年創設の技能実習制度の目的は、高額費用負担や実習先の賃金不払い、暴力事件などの報道の前では画餅に帰し、これまでの30年余り目的と実態との間に“暗部”が横たわっていた。

 暗部の一つ、技能実習生の高額費用負担問題を2017年末の報道で知った北沢さんは翌18年、単身ベトナムに行く。当時は監理事業開始の準備を進めていたころで、多額の借金などを負った技能実習生が実習先からいなくなる、いわゆる「失踪」問題などの課題を意識していた。法務省の発表によると、23年末時点の技能実習生は40万4556人。22年の失踪者数は9006人に上る。

 北沢さんは「高額費用負担は技能実習生の失踪原因の一つ。多額の費用を借金で賄った実習生が、母国への仕送りや借金返済を実習先での収入だけではやり繰りできず、高収入を求めて実習先職場から失踪することがある」と失踪の背景を指摘する。

法務省発表の技能実習生数
 

 ベトナムで北沢さんは、技能実習生を日本に送り出す現地の機関約50カ所を訪ね歩き、高額費用の背景事情などを探った。当時ベトナムにはおよそ200のいわゆる「送り出し機関」があったといい、調査対象は4分の1程度だったが、この送り出し機関や、いわゆる「ブローカー」(仲介者)らに技能実習生が支払う費用には、かなりのばらつきがあったという。百数十万円を超える高額な費用負担の例も間接的に伝え聞いたという。

 北沢さんは「費用負担額のばらつきに不透明感を感じ、まずはこれを透明化する必要性を痛感した。仲介者への支払いも、実習をあっせんした地域の有力者への謝礼の意味合いもあり、実態をきちんと把握しないと適正化は難しい。また事態の改善には現地政府など公的機関の関与が不可欠と思った」と話す。

▽借金額の実態調査

 技能実習生の費用負担問題を巡っては、法務省などが実態把握に乗り出している。技能実習生約2000人に聞き取り調査した法務省は22年7月に調査結果を発表した。

 それによると、技能実習生の平均借金額は国籍別ではベトナムが67万4480円で最も多く、カンボジアや中国、ミャンマー、インドネシア、フィリピンを合わせた計6カ国の技能実習生の平均借金額は54万7788円に上った。技能実習性が来日前に現地の送り出し機関・仲介者に支払った総額費用の平均額は54万2311円で、最多平均額はベトナムの68万8143円。

▽現地政府関与

 費用負担額の適正化に向けた現地政府の関与に関してはすでに、一部海外で前向きな取り組みが始まっている。

技能実習生の費用負担額を減らす仕組み作りで合意したインドネシア政府との調印式に臨んだJOE協同組合代表理事の北沢智子さん(中央)=インドネシア・ジャカルタ、2022年10月19日
 

 北沢さんが代表理事を務めるJOE協同組合は22年10月、インドネシア政府(労働移住省)や現地の送り出し機関の団体と、技能実習生の費用負担額を減らす仕組み作りで合意した。

 これは、インドネシア政府が7万5000円(教育補助費)、JOE協同組合が10万8000円を負担。そのほか送り出し機関の協力も得て、技能実習生本人の費用負担額を5万円程度以下に減らす試みだ。この仕組みの恩恵を受けたインドネシアの技能実習生は400人を数える(6月25日時点)。この中から失踪者は1人も出ていないという。

 北沢さんは「この仕組みは22年10月から試行的に始まり、23年からインドネシア政府の正式事業に位置付けられた。インドネシア政府側も費用負担の問題を改善したいと模索していた時期だった」と説明する。

 また「現地政府の関与はベトナムなどでもさまざまな機関が協議を重ねている」と述べ、現地政府関与の動きが他国に広がることを期待する。

 だが一方で、円安傾向や世界経済に占める日本経済の比重低下などで「働きに行くところは日本だけではない」という日本に対する認識変化の兆しも最近感じるという。北沢さんは「海外の大学などで日本語学科が減り、オーストラリアなど他国に目を向けるアジアの若者が増えた」と語る。ただ「日本で働きたいという人は依然として少なくない。日本のアニメや漫画文化が日本人気に寄与している」として、外国人を日本に引き付ける経済指標以外の「文化的魅力」の重要性も指摘する。

 法改正のもくろみ通り、これから日本は外国人に「選ばれる国」になるのか。日本が他国を上回る魅力を発信して外国人に選ばれる国になるには、政府をはじめ関係者が取り組むべき課題は少なくない。


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