サントリーウイスキーといえば、かつては「オールド」が定番だったが、今は「山崎」と「白州」が代名詞だろう。シングルモルトウイスキー「白州」を造るサントリー白州蒸溜所(山梨県北杜市)は、2023年に50周年を迎え、リニューアルを進めてきた。第2期となる新設備や見学施設などの工事がこのほど完成し、概要が公開された。
▽森の中の“ライブ感”
サントリーは、京都郊外の山崎蒸溜所の建設に着手した1923(大正12)年から100年となる2023年を「サントリーウイスキー100周年」と位置付け、山崎、白州両蒸溜所でさまざまな改修を実施してきた。
白州蒸溜所のリニューアル説明会で登壇した奈良匠(たくみ)ウイスキー部長は「山崎蒸溜所はウイスキー造りの聖地としての『ソウル』、白州は森の中で品質向上の取り組みを感じてもらえる『ライブ』がコンセプトだ」と強調した。
▽伝統製法「フロアモルティング」を見学
今回の白州蒸溜所リニューアルの特徴は、「ものづくりが体感できる」新たな蒸溜所見学ツアーだ。新ツアー「白州蒸溜所ものづくりツアープレステージ」は、これまでの見学コースに加え、さまざまなウイスキー造りの“こだわり”を見学・体感することができる。
“こだわり”の一つは「フロアモルティング」といわれる麦芽づくりの伝統製法。原料の大麦を床の上で発芽させて麦芽をつくる技術で、サントリーはウイスキー造りを始めた1924年から導入し、1960~70年代ごろまで実施していたという。その後は機械化が進み、途絶えていたが、「自然の恵みに理解を深める」という意味もあり復活を決めた。
山崎蒸溜所では2023年2月ごろから本格稼働し、白州蒸溜所でも24年8月から実施を始めた。フロアモルティングで製麦した麦芽を使うことの利点について、サントリーは研究開発段階としながら「ウイスキー原酒の品質が向上することが分かりつつある」と指摘。白州蒸溜所の中島俊治工場長は「香味が増し、骨格がはっきりしたウイスキーになるのでは」と期待を込めた。
▽特別テイスティング
フロアモルティングによる麦芽を使用したウイスキーを発売する時期について、中島工場長は「3年とか5年とかではなく、もっと先になる」とした。フロアモルティングの作業風景はツアープレステージの見学コースに入っており、担当者とやり取りする“作り手との会話”でウイスキー造りのノウハウを知ることもできる。
ツアープレステージでは、貯蔵庫の中で約2万個の樽(たる)に囲まれて、樽出し原酒ウイスキーのテイスティングを実施。さらに窓
から森が見え自然を感じる部屋で、地元食材とともに白州ハイボールや「白州12年」を味わうテイスティングも体験できる。新ツアーは9月20日から週2回実施(定員10人、事前抽選制)。130分で1万円。
また、リニューアルではレストラン「Hakushu Terrace(白州テラス)」を新設。9月1日にオープンした。
▽森林公園工場
1973年に南アルプス甲斐駒ケ岳の麓、標高約700メートルの約82万平方メートルの森に開設した白州蒸溜所は、サントリー天然水の工場も併設し「森林公園工場」をコンセプトに掲げる。蒸溜所と天然水工場の共通玄関「ビジターセンター」が第1期リニューアルで完成し、今回新たにビジターセンターからバードサンクチュアリ(野鳥の聖域)につながる「バードブリッジ」を設置。森の中の蒸溜所を体感できるのが特徴だ。
奈良ウイスキー部長は「天然水工場もあるので子どもなど家族連れでも森の蒸溜所を体感できる」と“聖地”山崎蒸溜所と違ったウイスキー蒸溜所だと強調する。見学コースは、ツアープレステージだけでなく、天然水の見学ツアーや白州の森ミニツアーなどもあり、「白州の森」で“ライブ感”を感じることができそうだ。