企業の製品や商品を社会にPRしたり、会社としての考えを対外的に説明したりするといった重要な仕事を担っているのが「広報」だ。ただ、生産現場などと違い、業務内容は意外と知られていない。担当者にとっても他社はどうしているか知る機会が少ないのが実情だ。
企業広報の支援事業を手がける、りえぞん企画(東京)は、そうした広報業務に携わる担当者向けに「他企業広報参加型ディスカッションセミナー」を企画。2月9日、共催したウェブサイト・アプリ多言語化ソリューション開発・運営のWovn Technologies本社(東京都港区)で第1弾セミナーとして開催し、金融関係や化学メーカーなどの広報担当者が参加した。
▽従業員エンゲージメント
企業広報には、対外広報と社内報制作など社内広報がある。この日参加したのはインターナルコミュニケーション(IC)といわれる社内広報の担当者。ICコンサルタントの山下和行氏が講師となり、参加者が日頃抱える悩みや課題についてアドバイスする流れで進められた。
輸送機器メーカー社員として海外駐在の経験もある山下氏は「欧米などと比べ、日本では社内広報が認められていない現状がある」と指摘。山下氏によると、地味な仕事と思われがちな社内報づくりだが、働く人が会社への共感や当事者意識を示す「従業員エンゲージメント」を高めるために重要な役割があるという。「従業員がその会社で働きたいと思うかどうかが大事で、それが会社の成長性につながる」と説明した。
▽ウェブ社内報
セミナーでは参加者が二つのグループに分かれてワークショップを実施。付箋で社内報づくりの悩みを書き出し、課題を共有することから始めた。近年はウェブで読むことができる社内報が広がっており「閲覧率が低い」という共通の悩みがあることが分かった。そのほか「社員間の情報格差がある」「グループ会社とのコミュニケーションが取れていない」「自社で働く誇りが低下しているのを感じる」といった意見がホワイトボードに貼り出された。
このほか、参加したSMBCコンシューマーファイナンスの担当者3人が事例紹介で登壇した。2010年に社内報を紙からウェブに移行したという同社は、月に一度の役員ブログで経営層の考えを発信しているほか、社員紹介、他企業との対談といった取り組みを説明した。そうした工夫で22年度の平均閲覧率61.5%が、23年度(4―9月)は68.4%になったというが「閲覧しない層にどうアプローチするかが課題だ」と打ち明けた。
▽社内広報の目的、明確に
山下氏からは「どうしても読まない人はいるが、そうした人を社内報に出す」「誰もが読むコンテンツを持つ」といったアドバイスがあった。その上で山下氏は「ただ読まれているか、いないかだけでなく、そもそも社内広報は何を目的にしているかを社内で擦り合わせておくのが大事だ」と強調した。
セミナー後、参加者からは「少し不安が解消された」という声が聞かれた。山下氏は「悩みが共通しているのがわかった。広報は終わりがない仕事。目標設定が大事だ」と締めくくった。
終身雇用は過去のものになりつつあるが、Z世代を中心に数年で会社を退職する人も後を絶たない。社内報は会社のことをより深く理解することができるコンテンツだ。あらためて見直してみたい。