記者会見した京大病院の松村由美氏、シミックホールディングスの中村和男氏、京大病院の高折晃史氏、harmoの石島知氏(左から)

服薬情報、スマホで管理しカルテに転記 京大病院とシミック、harmoが実証実験

 京都大病院、医薬品開発支援のシミックホールディングス(東京都港区)、同HD傘下のharmo(ハルモ、同区)は3月18日、患者が自分の服薬歴をスマホのお薬手帳アプリで管理し、入院の際に薬歴情報が医療機関に正確に伝わるシステムの実証実験を始めると発表、同病院で連携協定の調印式を行った。模擬データをスマホから病院側のシステムに送って電子カルテに転記し、医療従事者の作業量や心理的負担の軽減などについて検証する。6月下旬ごろまでに実証実験の結果をまとめ、有用性が確認できれば実際に導入したいとしている。

▽患者参加で服薬確認を

 実証実験は、服薬歴や健診・検診情報、予防接種歴、検査結果など生涯にわたる個人の保健医療情報(パーソナル・ヘルス・レコード、PHR)を患者自身が持ち、医療従事者に共有することで「薬剤安全」を向上させようという狙いだ。

 18日の記者会見で京大病院医療安全管理部の松村由美教授は「医療に起因する予期せぬ死亡事例の報告は国内で1日1件程度あり、薬剤関連が10%、薬剤誤投与は2.4%を占めている」と説明した。こうした事故を防ぐには、医療従事者が薬の効果や副作用を熟知し適正に処方することはもちろん、患者自ら服薬前に正しい薬か確かめる「患者参加型の服薬確認が重要」と松村教授は指摘する。患者が分からないことを医療従事者に安心して尋ねられるような環境づくりが欠かせないが「手元に薬の情報があり自分で確認できれば、患者は安心して薬物治療を受けられる」(松村教授)。

harmoおくすり手帳の画面(左)と2次元コード

 

▽電子版お薬手帳を活用

 患者と医療従事者の協働作業による「お薬確認」と並んで重要なのが、服薬歴の把握だ。医療機関は患者の服薬歴を、お薬手帳で確認している。紙の手帳だと、持参を忘れたりシールを貼り忘れたりして、記録が抜け落ちている恐れがある。スマホアプリの電子版は厚生労働省のガイドライン(23年3月)で「すべての薬局、診療所、病院で活用を推進することが望まれる」と推奨された。だが、22年3月の厚労省調査によると、導入している薬局は全薬局の約3分の1に当たる約1万9000で、医療機関は163止まりだったという。

 電子版が十分に活用されていない要因について、harmoの石島知代表取締役Co-CEOは「全ての薬局に普及しているわけではないので、情報の抜け漏れが生じる可能性があるから。病院に電子版を閲覧できる端末がないことや、データ転送用の仕組みの認知度が低いのも課題」と分析する。

 情報抜け漏れの解決策の一つは、マイナポータルから過去3年分の情報を電子版に取り込み、データの補完性を高めること。もう一つは、院内パソコンと電子版を連携し手間をかけずに情報を提示すること。後者が今回の実証実験の柱となった。

実証実験の概要

 

▽薬剤安全への一歩に

 実証実験では、手術のため入院する患者の休薬情報伝達を想定する。「harmoおくすり手帳」のシステムを京大病院のパソコンに導入し、模擬データを入力したスマホなどの端末で、病院の受付に置いた2次元コードを読み取ってデータをharmoシステムに転送、電子カルテに転記する。模擬データはアレルギー歴などの基本情報、調剤情報、服薬状況などを予定している。実際の患者は参加しない。

 期待される効果として、石島氏は①服薬データの収集や転送の正確性の向上②医療従事者の工数の削減③転記する際のヒューマンエラー発生に対する薬剤師の心理的負担の軽減──を挙げ、実証実験でこれらの有用性を検証することになる。京大病院では現在、電子版を利用している患者が来ると、医療従事者がスマホの画面を撮影し、それを見ながら手作業で入力しているが、手間が大幅に減る。また2次元コードを患者自身が読み取る方式なので、患者にとっても個人情報が詰まり財布代わりにもなるスマホを手放さなくて済むメリットがある。

 アプリにはOTC(薬局で処方箋なしで買える一般用医薬品)やサプリメント、副作用などの状況も記入できる。松村教授は「自分自身のお薬手帳を作っていく。得られた情報が医師や薬剤師に戻っていく仕組みを考えていきたい」と発展性を期待。石島氏は「薬剤安全の世界を実現する第一歩としたい」と述べた。

連携協定に署名する中村和男氏、高折晃史氏、石島知氏(左から)

 

▽パーソナルメディスンへ

 記者会見で京大病院の高折晃史病院長は「京大病院は一番大切にする品質目標として安全、安心な医療を掲げている。今回の協働事業は、患者のパーソナルレコードを、より安全な医療をするため、有効に活用するシステム。高度急性期医療と高度先進医療を両立し、地域に根ざしてつながりながら医療を展開するという意味で、事業は素晴らしいものになると考えている」とあいさつした。

 また、シミックHDの中村和男代表取締役会長CEOは「ヘルスケアに関する記録を自分で持ちながら、病気を医者と一緒に治していく時代が来た。患者の長期的安全性をフォローアップする重要性を感じており、関係者が安心、安全を保つことができるということで実証実験をすることになった。薬が適正に使用されたかなど、いろいろな情報が入り、新しい治療法や薬の導入がしやすくなる。将来は個人にどういう治療をしたらいいかというパーソナルメディスン(個別化医療)に近づけるのではないか。(今回のような実証実験は)大学では初めてだが、地域レベルで数件、立ち上がってくる可能性がある」と述べた。

電子版お薬手帳を基盤としたPHRの活用例

 

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