2024年1月1日午後4時10分ごろ。自宅の台所でおせち料理を作っていたかもしれない・・・。都会から帰省した息子、娘と一緒に近所の神社に初詣に行っていたかもしれない・・・。お年玉を握りしめた子どもたちが家族に連れられて郊外の大型スーパーのおもちゃ売り場で商品を選んでいたかもしれない・・・。輪島朝市の初売りに向けた商品を準備していたかもしれない・・・。
最大震度7を観測した能登半島地震。あの日あの時間から、すべての日常の風景が暗転した。石川県の発表によると、住宅被害が3万棟を超えたという(1月20日時点)。被害が大きい石川県輪島市や珠洲市の被害状況の全容は分かっておらず、今後さらに増えることは間違いない。
地震の影響で長く住んでいた自宅が倒壊、損傷を受け、避難生活を余儀なくされている多くの人々にとって、水や食料、トイレ、生活空間のプライバシーとともに、これまで通りの生活に戻ることにつながるための「将来の見通し」が何よりも求められるだろう。
▼「生活再建のめどが立つ」
被災地の各県に比較的多くの契約者を持つ、全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)は地震発生とほぼ同時刻に、柳井二三夫・代表理事理事長を本部長とする災害対策本部を立ち上げた。被災した契約者らの家屋などの被害状況の早期把握と、損害の査定を速やかに行うためだ。損保保険会社の火災共済と地震保険に相当するのが、JA共済の「建物更生共済」。共済金(保険金)の支払いに当たっては、被害の状況を確認するため、現地調査が必要になる。
1月4日、JA共済連は「迅速な共済金の支払い」を掲げ、建物損害調査の態勢、損害調査方法などの取り組み方針をまとめた。損害調査にあたっては、石川のほか、富山、新潟など被災県の農業協同組合(JA)とJA共済連県本部の査定員のほか、全国各地からも招集し、被災県域以外の都道府県本部、全国本部から査定員と鑑定人を加え、約140人規模の態勢を築いた。
こうした対応について「迅速かつ適正な損害調査を実施するため、JA職員、JA共済連の職員が契約者らの立ち会いの下、被災家屋を一軒一軒、訪問することを基本とした」という。
1月4日以降、時おり雨や雪が降る中、JAやJA共済連の職員たちは立ち入りが可能な被災地を訪ね回った。
損害調査に立ち会った、石川県内の被災者からは「断水が続き、トイレは井戸水で対応したものの、風呂に入れない状況が続いている。そんな中、共済金を受け取れると聞いて安心した。今後の生活再建のめどが立つと、心にも余裕ができる」との声が聞かれた。
また、別の被災者からは「JAはなにかあればすぐに駆け付けてくれる。JAの職員からの励ましの言葉をかけてもらい、とても勇気づけられた」と感謝の言葉が届けられたという。
▼人工衛星・航空写真も活用
しかし、地震直後に大規模な火災が発生した石川県輪島市の一部や、津波の被害が大きかった同県珠洲市の一部などは、立ち入り困難な地域で、「一軒一軒回る」という現地調査ができない状況が続く。
このため、JA共済では、立ち入りが難しい地域を対象に、現地での損害調査や写真撮影を省略し、人工衛星・航空写真などの画像と地図システムの位置情報のマッチングを行った。建物の焼失、流失などが確認できた場合、現地での損害調査や、写真撮影を省略し、全損(損害割合100%)と認定する取り扱いをしているという。
JA共済ではこのほか、共済契約上の特例措置も実施している。共済掛金の払い込み猶予のほか、入院共済金に関連し、地域の病院が被災し、必要な入院ができないケースも想定されることから、一定の条件で、共済金の支払いができるようにした。
JA共済連の広報担当者は「今回の地震で亡くなられた方々に哀悼の意を表すとともに、いまだ避難生活が続く方々にお見舞い申し上げます。私たちは地域に根ざした組織として、共済金の支払いを迅速に行うことで、1日も早い復旧、復興のお役に立ちたい」と述べ、被災契約者らの「将来の見通し」につなげたい、という思いを強調した。