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(秋田県仙北市 蟹場温泉)

湯の花舞う新鮮な硫黄泉を堪能! 日本屈指の温泉郷の一軒宿 「乳頭温泉郷 蟹場温泉」 【コラム:おんせん! オンセン! 温泉!】

 

 厳しかった残暑も落ち着き、さらっとした爽やかな気候の気持ち良い日が増えてきましたね。秋は行楽の季節ともいわれますが、夏の暑さでたまった心身の疲れを温泉で癒やしたいものです。

 緑豊かな山あいにたたずむ素朴な温泉宿。そこでゆっくりと温泉や地元の食材を使った食事を楽しむ。古き良き日本の温泉のステレオタイプは、こんな感じではないでしょうか。今回はそんな日本の温泉のイメージを体現している、秋田県「乳頭温泉郷 蟹場(がにば)温泉」をご紹介します。

「乳頭温泉郷 蟹場温泉」外観

 秋田県仙北市に湧く乳頭温泉郷。さまざまなメディアに登場し、全国的な知名度を誇る「鶴の湯」をはじめとした七つの一軒宿で形成される温泉地です。それぞれの宿が数百メートルずつ離れているため、源泉も宿の個性もさまざま。「蟹場温泉」は、温泉郷の最奥に位置します。開湯は1846年、長らく農閑期の湯治場として親しまれたことから、今でもその風情を残しています。ちなみに、付近の沢に多くの蟹がいたことから「蟹場」と名付けられたのだそうです。

 アクセスは、秋田新幹線の停車駅「田沢湖駅」から車で30分ほど。駅発のバス利用なら約1時間の道のりです。田沢湖八幡平国立公園内の山深い森の景色に溶け込む外観は、昭和の山小屋を思わせる素朴な雰囲気です。宿の右側には、レトロな木造の湯小屋が見え、温泉旅情を高めてくれます。

「木風呂」全景

 浴室は、男女別内湯「木風呂」と「岩風呂」に、混浴露天風呂「唐子(からこ)の湯」、女性専用露天風呂「ひなざくら」の4カ所。それぞれ趣が異なり、宿泊して館内の湯めぐりをするのが楽しいです。

 内湯の木風呂は、床も壁も湯船も秋田杉で作られ、木の良い香りがただよう浴室。昔ながらの素朴な湯治場風情を感じさせる雰囲気です。10人以上が一度に入れそうな広々とした湯船には、熱々の源泉がとうとうと流れ、湯の鮮度は抜群です。この空間の中、フワッと甘い硫黄の香る源泉に身を浸すと、日常から隔絶されたような不思議な感覚に。心身が癒やされていました。

 混浴露天風呂「唐子の湯」は、宿の建物から50メートルほど歩いた先にあります。ブナの木々に囲まれ、風に運ばれた緑の香りが気持ちいい空間。日中、夕方、夜と時間帯によって雰囲気が変わり、そのたびに違った魅力が現れる露天風呂です。混浴はハードルが高い、と感じる女性の方も多いと思いますが、宿泊すれば女性専用時間も設けられているため、心置きなく堪能することができます。

「唐子の湯」全景

 泉質は、単純硫黄泉。いくつか源泉がありますが、すべて自家源泉で、加水・加温・循環・消毒のない「完全掛け流し」の状態のまま湯船へ提供されます。無色透明なお湯には、玉子スープのような白く大きい湯の花がひらひらと舞っています。甘くて濃厚な硫黄の香りが鼻孔をくすぐり、舐(な)めると甘い玉子のような味わい。ツルツルスベスベのやさしい肌触りが極上でした。源泉の特徴は以上のようなものですが、浴室によって香り・味・肌触りが微妙に変わり、その違いに触れながらの湯浴みは、喜びの時間でした。

夕食一例
きりたんぽ鍋

 夕食は、山菜など地元の食材をふんだんに使った料理が並びます。秋田名物「きりたんぽ鍋」に、お米は「あきたこまち」など、見た目は素朴ですが、一つ一つ丁寧に作られ、五臓六腑(ごぞうろっぷ)に染みわたるおいしさでした。

本館から唐子の湯へのアプローチ

 ポストコロナ期に入って数カ月たった現在。都心や人気観光地は、たくさんの人々でにぎわっています。たまにはそんな人込みを避けて、山あいの素朴な温泉宿でゆっくり湯めぐりをする休日はいかがですか。心と体に蓄積された疲れがスーッと溶けていく、いとおしい時間を過ごせると思いますよ。

 

【乳頭温泉郷 蟹場温泉】

住所 秋田県仙北市田沢湖田沢先達沢国有林

電話番号 0187-46-2021

【泉質】

単純硫黄泉(低張性 弱アルカリ性 高温泉)/泉温53.3度/pH:8.0/湧出状況:自然湧出/湧出量:58.8リットル/加水:なし/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆完全掛け流し

【筆者略歴】

小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。


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