最近は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」「AI(人工知能)」「プログラミング」「情報通信技術(ICT)」「ポッドキャスト」「インフォグラフィック」といったデジタル関連の言葉に触れない日はない。
中でも、単語そのものは比較的容易な組み合わせである「データサイエンス」は、意味が分かるようで分かりにくい言葉の一つだろう。
「データサイエンスとは何か」「なぜ、データサイエンス関連の学部新設が相次ぐのか」など、この新しい学問について、関西の大阪成蹊大学(大阪市)、滋賀大学(滋賀県彦根市)、兵庫県立大学(神戸市)の3大学の最先端の研究者が一堂に介したシンポジウムが8月2日午後、大阪成蹊大学の駅前キャンパス(大阪市東淀川区)で開かれた。参加者は約330人で、会場はほぼ満席だった。
この日は、各大学のデータサイエンス系学部の紹介や、国内の大学で初のデータサイエンス学部の立ち上げに関わった滋賀大学の竹村彰通学長の基調講演、生成AIの課題や可能性を探るパネル討論が行われた。
▽“準”理系
今年4月にデータサイエンス学部を発足させた大阪成蹊大学の中村佳正学長はシンポ冒頭、文部科学省の「大学・高専機能強化支援事業」に伴い、全国の公立、私立大学でデータサイエンス系の学科や学部が新設される動きについて「国の大学などへの支援政策が転換期にあるのではないか」と指摘。その上で中村学長は今回のシンポの意義について「関西におけるデータサイエンス研究の大きな一歩にしたい」と強調した。
中村学長は、同学部の説明のため大阪府内の高校を訪問した際、生徒から「データサイエンスはどんな分野なのか」「データサイエンスは理系なのか」という素朴ながら本質を突く質問をしばしば受けたことを紹介した。
科学技術と比較しながら、データサイエンスの役割について、高校生にこう解説するという。「科学技術は真理の探究や課題解決につながる新たな知の獲得を目指す。一方、データサイエンスは価値創造、つまり社会に役立つことまで目指すものだ」と。
また、理系なのかどうかについては「理学、工学が理系とすれば、データサイエンスはちょっと違います。農学・食品、建築・デザイン、心理学などと同じよう“準”理系と言うべきかもしれない」と答えているという。
▽人を幸せにすること
次に滋賀大学データサイエンス学部の椎名洋学部長が、同大学の現状について報告した。滋賀大学には日本初となったデータサイエンス教育研究拠点があり、2017年に学部(定員100人)を設置し、21年3月に1期生を世に送り出した。大学院データサイエンス研究科も早期に設置され、修士課程の定員が20人から40人に倍増されるなど、人材輩出の拡大傾向が続く。
併せて、教員の数も増え続け、データサイエンス系の教員のうち、約4割は外部資金の採用で、椎名学部長は、「多くの企業などとの連携を拡大することで、国内最高水準の拠点を形成したい」と意気込みを語った。
一方、滋賀大学の考え方としては、という前置きをしながら、椎名学部長は、データサイエンスの定義について、「統計学、情報学という理系の領域に、データが生まれる現場となる『ドメイン』『知識』が交わり、そこで得られる『データ』から価値創造する、つまり、社会の役に立つこと、人を幸せにするものではないか」と説明し、前述の大阪成蹊大学の中村学長の考え方と共鳴していた。
その後、兵庫県立大学社会情報科学部の笹嶋宗彦副学部長が登壇。笹島副学部長は同部が理想とするデータサイエンティストの必要なものとして「IT系スキル」「分析系スキル」に加え、社会の問題を発見し、どのようにしたら解決できるかをデザインする「課題発見力」、社会やビジネスに関する知識を生かし、現場が抱える課題の解決に役立てる「ビジネス系スキル」の計四つをあげた。
兵庫県立大学のデータサイエンス関連の教育では、多くの企業と連携しながら、実践的な取り組みに軸足を置いているという。実践的教育の例としては、1年生のうちから、企業から提供される「生きたデータ」を用いて、問題の発見から解決までを目指す「課題解決型演習」を取り入れている。
笹嶋副学部長は社会情報科学部として育てたいデータサイエンティスト像について、「データサイエンスを武器に世の中をよくしていくのが使命だと理解していると同時に、データサイエンスやAIが万能ではないことも知っている」などと指摘し、「冷静な頭脳、されど温かい心」を身につける必要性を強調した。
シンポ開催後のアンケート結果について大阪成蹊大学の中村学長は、「来場者の約9割が満足できる内容だったとの回答をいただいた。データサイエンスへの興味や関心が高いことをうかがわせる。来年もぜひ、データサイエンスを多面的に深掘りする、3大学合同によるシンポジウムを開催したいと考えている」と話している。