b.[ビードット]

SBNRの観光商品化 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授  連載「よんななエコノミー」

 「SBNR」という言葉をご存じだろうか。Spiritual But Not Religiousの略語で精神的・霊的ではあるが宗教ではないとの意味だが、多くはマインドフルネスや深い精神性を追求する人々を指すことが多い。ストレス社会を背景に欧米の比較的若い世代を中心に増えていると言われ、観光でも海外のSBNR層をターゲットとした商品化の動きが出ている。デジタル疲れやオーバーツーリズムの忌避もあり、近年、世界の旅行者の間では旅行目的として「自己変革」「メンタルウエルネス」「そこでしか得られない体験」などをあげる人たちが増えており、このうちの相当数がSBNRの要素を持つと考えられる。

 一方、日本には歴史ある神社仏閣とその精神性を背景とした文化が数多く残っており、SBNR層への訴求基盤がある。例をあげると、宿坊体験、お遍路、滝行、座禅といった宗教行為のほか、武道体験、精進料理、霊山といわれる山のトレッキングなどもあり、これらはスピリチュアルで「自己変革」「メンタルウエルネス」にもつながる。以前から高野山の宿坊や熊野古道などには多くの外国人が訪れていたが、じつは日本全国にこうした文化を持つ地域は多く、それをもとに各地のDMO(観光地域づくり法人)や自治体がSBNR層をターゲットとした高付加価値の観光商品を作ろうとしている。

 先日、筆者も修験道の聖地である山形の羽黒山を訪れ、山伏と共に出羽三山神社を参拝したが、ここでも外国人の参拝者は増えており、さらには山伏の修行体験を希望する人たちも増えているという。出羽三山には民間事業者が主催する1、2泊から修行体験ができるプログラムもあり、英語対応のできる山伏もいる。筆者が訪れたタイミングでもイタリアの若い女性が修行体験を行っており、彼女はもう何度目かの来訪ということだった。

 他方で宗教行為を観光化することへの批判もある。本来は信仰のための神聖なものであり、意味を理解しないままつまみ食いをするような行為はいかがなものか、それを商品化するのはいかがなものか、というものである。

 もちろん観光化による文化の毀損はあってはならないが、旅行者にとっては本物の地域文化や宗教に触れる第一歩、地域や宗教にとっては旅行者が自らの世界観に触れ、それを広げるきっかけとなる可能性も大きい。特にSBNR層は地域文化などに敬意を払うマインドを持ってるほか、滞在日数が比較的長い、価値を感じたものへの消費額が高いなどの特長があり、単なる物見遊山の旅行者とは一線を画す。

 こうした旅行者に本来の意味をどう伝え、どう取り込んでいくのか、お互いが誠実に向き合う意思と知恵が必要だ。
(東洋大学国際観光学部教授 森下晶美)

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.21からの転載】


関連記事

スタートアップ

スポーツ

ビジネス

政治・国際

食・農・地域

株式会社共同通信社