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供給不足に目をつぶる 不十分な「米騒動」の検証 アグリラボ編集長コラム

 小泉進次郎農相の登場によって、「米騒動」は「米改革」にモードが一変した。江藤拓前農相の失言による「けがの功名」なのか、水面下で十分に練り上げてきた戦略なのかは判然としないが、「5キログラム2000円」の意外性や、店頭に並ぶまでのスピード感は、衝撃的だ。

 ただ、随意契約による政府備蓄米の放出は緊急対応だ。価格の決め方や販売の公平性などさまざまな課題を含んでいる。最大の問題は、米騒動の原因究明がまったく不十分なことだ。これでは抜本的な改革どころか、再発の防止もできない。

 石破茂首相は6月5日に、「米の安定供給などに関する関係閣僚会議」を招集、価格が高騰した原因や備蓄米放出の効果などの検証を始めたが、順序が逆だ。政府は「価格を落ち着かせるのが最優先」(小泉農相)と緊急性を訴えるが、これは言い逃れだ。後述するように、米不足は2年前から始まっており、検証する時間は十分にあった。農水省は数カ月ごとにコメの需給バランスを公表しており、客観的なデータもそろっている。

 茨城大学の西川邦夫教授は、2023年秋の段階で供給不足を指摘し「流通の滞りは結果であって原因ではない」と主張していた。日本国際学園大学の荒幡克己教授は、農水省が公表している「需給計画」を基に、約28万トンの供給不足と約13万トンの需要増(インバウンド需要約3万トンと、先行して値上がりしたパンからの転換による需要約10万トン)が生じており、備蓄米の放出前の段階で合計約41万トンの需給ギャップがあったと試算している。

 米不足と米価の高騰には、さまざまな要因が絡んでいる。もちろん流通にも問題がある。しかし、「小泉放出」をきっかけに、検証作業が「流通改革」にすり替わり始めている。このままでは「供給は十分になされている」(6月2日の参院予算委員会の農相答弁)という、従来の政府の見解が正当化される。

 政府は、「27年度から根本的な改革に取り組む」(同)と、減反政策の見直しを掲げ、増産に転じる姿勢を示しているが、これは中・長期的な課題であり、目下の米不足の検証作業とは時間軸がずれている。

 供給側には政策ミスを含め、再発を防止する上で重要な検証テーマが山積している。23年産と24年産の猛暑による不作、コロナ禍による消費の減退による米価の急落、その警戒から24年産の供給を減らしすぎた需給調整の失敗、パンからの転換を伴う急激な需要回復の見誤りなどだ。

 ところが、政府には本気で検証する姿勢がない。例えば、5月31日に閣議決定して国会に提出された「食料・農業・農村白書」(24年度版、422ページ)は、わずか1ページのコラム「夏の米の品薄と米の円滑な流通の確保のための対応」を掲載しただけで、まともに検証していない。「品薄」という表題自体に「不足」を否定する当局の強い意思さえ感じる。

 白書は、「8月の端境期において、南海トラフ地震臨時情報などにより、スーパーでの米の購買量が前年の約1・5倍まで増加し、小売店等で米の品薄状況が発生した」と分析、「地震=主犯説」を展開しているが、臨時情報を受けた需要増は、同年末までにほぼ解消している。荒幡教授らが指摘している2年前から持ち越されてきた需給ギャップにはまったく触れていない。

 わずか数人の関係閣僚による検証では、農水省が供給責任を問われる「不都合な真実」には目をつぶり、流通の改革だけが焦点になる恐れがある。価格高騰が長期化している因果関係を厳密に解明するには、閣僚ではなく専門家を招集して学術的な検証を急ぐ必要がある。

(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)


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