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IoTを活用した駐車場・カーシェア事業を展開するパーク24が内閣総理大臣賞 第7回「技術経営・イノベーション賞」の表彰式が開催

 日本発の優れた新規事業を発掘し、イノベーション(技術革新)を促進することが急務だ。かつては世界で認められた日本の技術と産業競争力だが、今では欧米やアジア諸国と比較して影が薄い分野も増えてきている。そのような中、イノベーションを興して独自技術の事業化を実現しようとしている日本企業を応援することは、経済成長や産業競争力の強化につながるはずだ。

 一般社団法人科学技術と経済の会(以下、JATES)は、2月12日に都内で第7回「技術経営・イノベーション賞」の授賞式を開催した。JATESは、イノベーションの推進と事業化を図った企業やその取り組み事例を社会に広く伝えることで、日本におけるイノベーションの促進と、産官学を連携させた技術産業の活性化を狙う。

 「技術経営・イノベーション賞」は、大企業、中小・ベンチャー企業を問わず、経済の発展や社会の変革、競争力・福祉の向上、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献などを実現した事業に贈られる。過去には、ミドリムシの大量培養に成功し、機能性食品や化粧品を商品化。バイオ燃料の製造にも挑戦する「ユーグレナ社」、2015年末から欧米で販売を開始し、昨年末に日本にも納入された小型ビジネスジェット機“ホンダジェット”を開発した「ホンダエアクラフトカンパニー社」らが受賞。

 7回目を迎えた今回の表彰では、内閣総理大臣賞が創設された。2018年6月に募集を開始したところ100を超える応募案件があり、「社会、生活、産業、文化を大きく変えるか」「科学技術の活用(技術経営)が優れているか」「画期的な変化を生み出したか」「大きな事業、雇用を生み出すか」といった観点で厳正な審査が行われ、内閣総理大臣賞にパーク24(株)、文部科学大臣賞にCYBERDYNE(株)、経済産業大臣賞に富士フイルム(株)の各事業が選出された。

 受賞事業などを簡単に紹介しよう。

■既存の駐車場運営の再定義及びシェアリングエコノミーの実現と事業化に成功 IoTを駆使するパーク24【内閣総理大臣賞】(事業名:IoTを活用した駐車場・カーシェア事業)

内閣総理大臣賞を受賞したパーク24(株)川上氏(左)と、授与者の野上内閣官房副長官(右)

 全国約1万7,000カ所に「タイムズ駐車場」を展開するパーク24。2003年に駐車場の精算機をIoT化し、全国に広がる駐車場の稼働状況や精算機器の状態をリアルタイムで把握。電子決済システムの導入や駐車場の空き状況をネットで提供するなど、利便性を向上させると共に、ゲートやフラップの遠隔操作も実現し、効率運営による事業収益化にも成功している。

 さらにパーク24は、タイムズ駐車場を活用したカーシェアリングサービスに参入。2009年からコネクテッドカー(ネットワークでつながる車両)を導入し、利用者がICカードのみでドアロックを解除できる仕組みを実現。利用者が好きな時間に最寄りのタイムズ駐車場で車を借りられるサービスを開始した。現在では全国1万1,000カ所のタイムズ駐車場に約2万2,000台の車両を配置し、シェアリングサービスを定着させた。

 車を持たない人も増えるなど、多様化するカーライフスタイル。全国に広がる駐車場とIoT、ビッグデータを組み合わせたシェアリングサービスの提供により、利用者のニーズに応え、交通課題の解消や新規市場創出を狙う。

 パーク24の川上紀文 取締役常務執行役員は「内閣総理大臣賞を受賞できて光栄だ」とし、「日本におけるシェアリングエコノミー事業の成功例はまだ少ない。全国1万7,000カ所に広がるタイムズ駐車場を活用し、利便性をさらに向上させて、利用者が乗りたい時に乗れるサービスを今後も展開していきたい」と語る。

 カーシェアリングは、車離れが進む若年層に対して車の魅力を知るきっかけになるとともに、地方の交通問題や福祉車両不足など、地域社会の課題解決にもつながっていく。少子高齢化が進む日本で、自動運転技術やカーシェアリングを組み合わせたサービスがますます待ち望まれる。

■「脳神経とロボット」「人と人」「異分野間」をつなげる CYBERDYNE(株)【文部科学大臣賞】(事業名:ロボットスーツHALⓇ)

CYBERDYNE(株)のロボットスーツと、山海氏

 サイボーグやロボットと聞くと、人工知能を搭載し自身の判断で動くものを想像しがちだが、CYBERDYNE(サイバーダイン)が開発したサイボーグ型ロボットは違う。同社が開発したロボットスーツHALⓇは、人間の脳神経と機械がセンサーでつながり、人が動こうとした時に生じる微弱な電気信号をロボットスーツが検知し起動するものだ。

 2009年から福祉用モデルの製造販売を開始したCYBERDYNEは、現在「下肢タイプ」「単間接タイプ」「腰タイプ」など用途に対応したモデルを展開する。

 医療用の下肢タイプは、事故や病気などの影響で下肢に障がいを持った患者の機能改善や機能再生治療に使用されている。2017年には米国食品医薬品局(FDA)から治療効果のある医療機器と認められたほか、日本でも2016年9月から神経・筋難病疾患の治療に対し公的医療保険の対象となっている。またドイツでも公的労災保険の適用が認められている。

 腰タイプは、腰に負担がかかる介護や救急隊、工場、農家など幅広い分野に活用されているほか、昨年西日本を襲った豪雨被害の復旧作業でも活躍した。また、ベッドから立てなくなった患者に装着し、立ち座りの訓練から始め、30分程度のリハビリを約1ヶ月続けたところ、自立歩行ができるまで回復した例もあるという。

 CYBERDYNEの代表取締役社長で、筑波大学大学院の教授。国立研究開発法人科学技術振興機構・革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のプログラムマネージャーの肩書をもつ山海嘉之(さんかい・よしゆき)氏は、“人を思いやり、人に喜んでもらうこと”を原動力にHALⓇを開発。縦割りの科学技術の世界を打破し、技術革新を通して異分野間を融合させ、社会変革を実現することを目指す。

 山海氏は「HALⓇは人間とロボット、情報系が融合複合した技術の結晶。実験室の枠を超えて社会で認知され、日米欧で薬と同じような治療効果があることが証明された」「イノベーションは、作る側と利用する側が共に育てていくもの。イノベーションによって、国の制度を変え、社会に貢献し社会変革そのものにつなげていきたい」と語る。今後はアジア展開も見据え、世界中に基本技術を広めていく。

■増え続けるデータを安全に保存する 新素材の大容量データテープを開発 富士フイルム(株)【経済産業大臣賞】(事業名:ビッグデータ・IoT時代を支えるバリウムフェライト磁性体を用いた大容量データテープの開発)

受賞後のスピーチを行う富士フイルム株式会社・野口氏

 インターネットが全世界で普及し、さまざまなモノがインターネットに接続するIoT時代が到来。画像や動画のデータが飛び交う中、今後さらに利用者の生活からモノを通じて発信されるデータも増えていく。2025年には全世界で創出されるデータは、163ゼタバイトという途方もない量になると予想されているため、貴重なデータを「長期に」「安全に」「より多く」保存しておくニーズは今後、ますます高まっていく。

 富士フイルムは1992年から、これらの社会課題を見越し「長期保存」「安定した記録」「大容量」に対応すべく、バリウムフェライト磁性体を用いた磁気テープの基礎研究を開始。2006年にバリウムフェライト磁性体を使った大容量のデータテープの開発に成功し、2015年にはテープカートリッジ1巻に220TB(テラバイト)が記録できる技術検証に成功した。開発に20年以上もかかったが、富士フイルム内では、将来のニーズに確固たる自信を持ち続け、研究開発を続けた。成果が出ず、プレッシャーを感じる時期や、立ち止まる時間もあったという。開発メンバーは、事業に貢献する他商品の開発も並行させることで、社内理解を得てきた。

 富士フイルム R&D統括本部エレクトロニクスマテリアルズ研究所長 野口仁氏は「今後もデータは増え続ける。将来のロードマップも見据えて、安全・安心にデータが長期保存できるよう、今後も開発を進めたい」と語る。

 データテープはオフラインで使用することも多いため、莫大なデータを扱う欧米のデータセンターや、サイバーテロなどのリスクに敏感な海外企業の利用が増えているという。日本の技術が結晶した「安全・安心な」データテープを、海外だけではなく日本政府や企業にも積極的に使ってもらいたい。

 その他受賞社の事業も簡単に紹介しよう。

 株式会社NejiLawは、右巻きと左巻きの螺旋構造を併せ持ち、相反する動きにより互いがロックして緩まない「L/Rネジ」を開発。また、構造物の接合部に、計測デバイスをつけた「L/Rネジ」を使用することで、遠隔モニタリングとディープラーニングを行い、構造物の状態把握や予測検知できる製品の実用化も進めている。少子高齢・インフラ老朽化社会を独自に開発したIoTで支え、スマート・レジリエンスな社会の実現を目指す(科学技術と経済の会会長賞)。

中外製薬株式会社は、希少疾患に着目したイノベーションマネジメントと、大阪大学との共同研究により、インターロイキン-6(IL-6)の受容体をターゲットとした、国産初となる抗体医薬品「アクテムラⓇ」の創薬に成功。現在では関節リウマチをはじめとする様々な疾患の治療に用いられ、疾患に苦しむ人のQoL改善に大きく貢献している。(科学技術と経済の会会長賞)。

ソニー株式会社、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社は、「積層構造」のシリコンチップを開発。従来の「平屋」構造から2階建ての「積層構造」を実現したことにより、画像処理機能を増やし、高速オートフォーカスやスローモーション撮影など、カメラやスマホ用カメラの多機能化を可能とした。今後は同技術をベースに車の自動運転やAI搭載の監視カメラなど、積層型イメージセンサー活用の領域を広げていく(科学技術と経済の会会長賞)。

株式会社LIXILは、開発途上国向けに簡易型トイレの「SATO」を開発。低価格で設置が簡単な「SATO」は、虫や悪臭も防ぎ、少量の水で洗浄可能。途上国15カ国以上で利用され、衛生環境を改善するほか、現地生産による雇用も創出する持続可能なソーシャルビジネスで、SDGsに貢献している。(選考委員特別賞)。

 第8回の技術経営・イノベーション賞は2019年6月から9月末まで応募を受け付け、2020年1~2月に発表される予定。詳細はJATESのHPまで。

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第7回技術経営・イノベーション賞 受賞事業

■内閣総理大臣賞

「IoTを活用した駐車場・カーシェア事業」
パーク24株式会社

■文部科学大臣賞

「ロボットスーツHALⓇ」
CYBERDYNE株式会社

■経済産業大臣賞

「ビッグデータ・IoT時代を支えるバリウムフェライト磁性体を用いた大容量データテープの開発」
富士フイルム株式会社

■科学技術と経済の会会長賞

「史上初の緩むことのないネジ締結体「L/Rネジ」の事業化」
株式会社NejiLaw

「日本発・世界初の抗IL-6受容体抗体アクテムラⓇ」
中外製薬株式会社

「積層型イメージセンサの開発」
ソニー株式会社
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社

■選考委員特別賞

「開発途上国向けSATOトイレシステム」
株式会社LIXIL

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一般社団法人 科学技術と経済の会(JATES)

1966年に設立。産業の発展と国民生活向上、並びに安全安心社会を目指し、産業界が主体となった活動を基本理念とし、技術と経営並びに経済に関して異業種の交流や研究活動を行う目的で設立。
「技術と経営に関する実践的研究」「イノベーションの普及促進」「人材育成」「異業種交流」「現場体験・交流」「産官学・国際交流」などの活動を行なっている。
現在、日本電気(株)代表取締役会長の遠藤信博氏が会長を務め、法人会員が107社、個人会員が約330名となっている。

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