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鵜の目 鷹の目 百合子の目 【政眼鏡(せいがんきょう)-本田雅俊の政治コラム】

 岸田文雄政権に対する逆風が一向に弱まらない中、来月、衆院3選挙区で補欠選挙が行われる。自民党は島根1区では公認候補を立てたものの、長崎3区は不戦敗になる公算が大きい。東京15区についてはさまざまな憶測が乱れ飛ぶが、驚くことに、どのように対応するのかはまだ決まっていない。

 すでに永田町の定説になっているのは、「自民党が保守王国の島根1区で負ければ、すぐに『岸田降ろし』が始まる」(閣僚経験者)ということだ。逆に自民党が島根1区での“与野党ガチンコ対決”を制するだけでなく、東京15区でも野党に議席を奪われなければ、意外にも政治の潮目が変わるきっかけになるかもしれない。

 自民党が東京都の小池百合子知事に東京15区からの出馬を非公式に打診したといわれるのも、彼女が「間違いなく勝てる候補」(自民都議)であり、「いずれ、それも遠くない将来、自民党に復党する可能性がある」(自民中堅)からだ。もっとも、小池知事は今のところ「都政にまい進している」とだけ答え、態度を明確にしていない。

 本人が望めば、小池氏が7月の都知事選で三選されることは間違いない。だが、東京五輪が終わり、コロナ禍が収束して以降、小池知事の存在感は明らかに小さくなった。高校授業料の実質無償化など、新たな政策も展開しているが、「もともと東京五輪があったから都知事になった」(都庁関係者)といわれてきたため、都政に関し、今や小池氏は完全燃焼した感もある。

 以前も、そして現在も、小池氏が首相の座を諦めていないことは、多くの永田町関係者が認める。「国政への未練などではなく、首相そのものへの強い野心だ」(野党中堅)という。岸田政権の失速を受け、最近、女性初の首相候補に上川陽子外相の名前が上がっており、同じ年齢(71歳)の小池知事としては、余計に闘争心に火がつくはずだ。

 小池氏は1992年に国政にデビューしたのだが、おそらくこの32年の間で唯一、新聞の政治面に絶えず名前があった政治家だろう。その時々で脚光を浴び、やがて活字にされなくなる政治家は多いが、光度に多少の凹凸はあっても、一貫して政治のスポットライトが当てられてきたし、当たるように自分でも仕向けてきた。

 その背景には、抜群の“政界遊泳術”がある。「華のある最強の“渡り鳥”」(自民元議員)ともいえる。始まりは細川護熙氏の日本新党であったが、やがて小沢一郎氏の側近になり、その後は二階俊博氏と行動を共にして自民党に入った。のみならず、小泉純一郎、安倍晋三の両政権下で要職を任され、2008年には女性で初めて自民党総裁選に挑んだ。

 2016年の都知事選では、石原慎太郎知事(当時)に「大年増の厚化粧」と痛罵されたものの、それによってかえって小池人気が高まり、291万票を獲得して圧勝した。最近、やや人気に陰りが出てきたという見方もあるが、「初の女性首相になってほしい政治家」を問うアンケートでは、女性回答者に限れば小池氏は今も1位に君臨している。

 安倍晋三元首相は「ジョーカー」と比喩したが、小池知事の心を読める者は皆無に等しい。しかし、都政にある程度満足したこと、そして依然として首相の座に強い野心があることを併せれば、近い将来の国政復帰はあり得ないことではない。「年齢的にも、今年が小池氏にとっては最後のチャンス」(前出・閣僚経験者)になるかもしれない。

 問題は、自民党がどのようなレッドカーペットを敷いて迎えるかだろう。岸田首相に近い議員などが期待する「政権浮揚のためのカード」程度ならば歯牙にもかけまい。「彼女は決して自分を安売りしない“女帝”」(自民ベテラン秘書)だからだ。だが、「ポスト岸田の最有力候補」として遇されるのであれば、食指が動くことは確かだ。

 小池百合子の目は永田町といった漠然とした場所ではなく、総理の椅子を見据えている。補欠選挙の告示日は4月16日。この2、3週間、見え隠れする政治の水面下の動きから目が離せない。もっとも、4月1日あたりに流れるかもしれない怪情報には要注意だ。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。


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