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港区15万世帯に防災カタログ リンベルが受託 住民が選ぶ方式、世田谷・板橋に続き

 【ポイント】東京都港区は2026年9月、区内の全世帯を対象に、1世帯5000円相当の防災用品をカタログから選んで受け取れる事業を始めた。対象は15万世帯超。事業を受託したのはカタログギフト大手のリンベル(東京都中央区)。同社は世田谷区、板橋区でも同種の事業を手がけ、いずれも多数の世帯が利用した。

 東京都港区が2026年9月、区内の全世帯(15万5611世帯)に「みなと防災用品カタログ」による支給事業を始めた。1世帯5000円分のポイントの範囲で、防災用品を選んで受け取れる。申し込みは9月1日から12月11日まで。基準日は8月1日で、区に住民登録のある世帯が対象になる。事業を受託したのは、カタログギフト大手のリンベルだ。

 きっかけは、二つの動きだ。2025年3月に東京都が避難所運営指針を策定し、同年12月には国が首都直下地震の新たな被害想定を公表した。区はこれを受け、災害時に自宅が安全なら避難所へ行かずに生活を続ける「在宅避難」と、それに必要な備蓄を、改めて住民に伝える必要があると判断した。

 区によると、さらにもう一つの狙いがある。発災時に効果的な備えは各世帯で異なる、というものだ。家族構成も住まいも違えば、足りないものも違う。だから区は、必要な品を一律に配るのではなく、住民が自分で選ぶ方式を採った。事業の狙いを、区は「区民が自分事として防災対策について考えるきっかけをつくること」と説明している。

 区はこれまでも、在宅避難の支援として家具転倒防止器具などの助成や携帯トイレの配付を進めてきた。今回のカタログ事業は、その上に重ねる位置づけだ。支給の対象からは、食料品や衛生用品といった日常生活の消耗品に加え、家具転倒防止器具の助成や携帯トイレ配付事業ですでに扱っている品とその類似品を外している。既存の制度と重複させず、まだ行き届いていない備えを埋める設計だ。

▽ カタログは「読む防災」も兼ねる

 9月に各世帯に送付された「みなと防災用品カタログ」は、単なる商品一覧ではない。冒頭で区は、災害から命を守るには行政による「公助」だけでなく、自分と家族を守る「自助」の備えが要ると説明し、自宅に何が必要かを考えた上で選ぶよう呼び掛けている。

 清家愛区長は、この事業の目的は防災用品を届けることだけではないとして、カタログを家族で防災を話し合う機会にしてほしいとの考えを示した。

 カタログは首都直下地震と在宅避難の説明から始まり、室内の安全、火災、停電、断水、共同住宅の震災対策、避難、ペットとの避難生活と、被災時に起こり得る場面ごとに、対策と商品を組み合わせている。防災タイプ診断やクロスワード、ポリ袋の活用法、ハザードマップの案内も載せた。読み物として通して読めば、そのまま防災の入門書になる。

 カタログをめくると、被災時の困りごとに直接答える品が並ぶ。停電への備えなら、太陽光とUSBの両方で充電できる「ソーラー&USBパワーチャージャーセット」や、発火しにくい準固体電池を使ったモバイルバッテリー。断水には給水バッグや携帯浄水器。避難時には、衛生用品や寝具、食事用品をまとめた「リュックサック防災35点セット」。ペット用のキャリーバッグや避難用ペットハウスもある。

リンベルが一般向けに販売する防災カタログ「RING BELL SONAE」より

 1世帯に5000ポイント(5000円相当)が付与され、住民はその範囲で必要なものを選ぶ。申し込みはウェブか、カタログに同封された専用の申込はがき。区はコールセンターを設けたほか、10月4日から11月13日まで、各地区の防災訓練などに合わせて巡回する相談窓口も開く。何を選べばいいか分からない、という住民を想定した措置だ。

▽ 商品棚に残る、被災者の記憶

 カタログを手がけるリンベルの仕事は、商品を選び、冊子をつくり、1件ずつ申し込みを受け、世帯ごとに違う品を個別に届ける、という流れでできている。自治体の防災用品支給に必要な作業と、ほぼそのまま重なる。同社は世田谷区や板橋区でも同種の事業を受託しており、2025年8月の発表では、東京都内の3区1市で手掛けていると説明している。

 ただ、この事業の肝は物流だけではない。何を棚に並べるかだ。商品を選んだ担当者たちにも、2011年の東日本大震災で経験したそれぞれの「3月11日」がある。

 食品担当の女性社員は、出身地の宮城県沿岸部で被災した。1カ月ほど、配給と支援物資で暮らした。届くのは菓子パンやおにぎりばかりで、炭水化物しか口に入らない日が続いた。偏った食事がどれだけこたえるかを、体で知っている。だから、長引く避難生活で不足しがちな野菜や肉を使った総菜、フルーツの缶詰、菓子まで幅広くそろえることを意識して品を選んだ。水とご飯と総菜と菓子をひとまとめにした防災食のセットも、そこから生まれた。

 雑貨担当の女性社員が忘れられないのは、震災の夜の音だ。停電した暗闇の中、ラジオから流れてきたのは、津波で亡くなった人の膨大な数だった。あのときの悲しみと恐怖は、10年以上たった今も忘れられないという。その記憶をもとに、トイレ、モバイルバッテリー、ラジオ、防災スリッパ、転倒防止具など、いざというとき「備えていてよかった」と思える品を選んできた。

 リンベルが一般向けに販売する防災カタログ「RING BELL SONAE」の掲載点数は約130点。同社によると、防災カタログギフトの多くが約30点(開発当時の同社調べ)であるのに対し、およそ4倍にあたる。部屋ごとの防災対策を紹介するコラムも載せている。

リンベルが一般向けに販売する防災カタログ「RING BELL SONAE」より

▽先行2区、トイレが最多

 同じ選択式の事業は、世田谷区と板橋区が2024年度に先行させている。いずれもリンベルが受託した。ただし、選び方の設計は少しずつ違う。

 世田谷区の「せたがや防災ギフト」は、区内の全世帯50万1780世帯を対象に、世帯人数1人につき3000円相当のポイントを付与した。1世帯あたりで額が決まる港区や板橋区の方式とは異なる。商品を申し込んだのは38万319世帯で、全体の4分の3を超えた。最も多く選ばれたのは「緊急簡易トイレ30回分」の3万7669件で、モバイルバッテリー、「ほっ!トイレセット」、ポータブルソーラー充電器が続いた。

 ウェブ申込者を対象にした任意アンケートには21万759件の回答が集まり、家庭での防災意識の向上や備蓄の促進に役立ったとする回答が84.4%、カタログだけでは足りないものを自ら購入しようとする回答が85.5%に上った。保坂展人区長は「在宅避難に備えた備蓄をするきっかけになったのではないか」と述べた。

リンベルが一般向けに販売する防災カタログ「RING BELL SONAE」より

 板橋区の「いたばし防災+カタログ」は、区内の全世帯34万1647世帯に対し、1世帯あたり定価5000円以上の防災用品1セットを選ぶ方式。申し込んだのは22万2429世帯で、6割を超えた。特徴は、申し込まなかった残り約3分の1への対応だ。区はこの世帯にも在宅避難に欠かせない「携帯トイレ20回分」を順次送り、区内全体の底上げを図った。

 選択式の防災用品支給は、先行する2区でいずれも6割以上の世帯に届いた。港区でも今後、申し込みの機会などを捉えたアンケートで検証が進む。防災用品を選ぶ過程が、家庭内の防災意識や備えの見直しにどうつながったかが焦点となる。

(株式会社共同通信社)


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