残業代未払いの裁判を巡り「名ばかり管理職」という言葉が人口に膾炙(かいしゃ)したのは2008年。裁判は、管理職の実態がない労働者に与えた管理職の肩書(残業代不要の管理監督者該当性)を理由に、残業代の支払いを拒んだ企業の対応を違法と判断、未払い残業代の支払いを命じた。
一方、昨今はそれなりの好待遇でも管理職になりたがらない若い人が増えているという。17年前は、実態のない名ばかり管理職の問題が顕在化したが、いまは、魅力のない“はばかり管理職”(若手が就きたがらない管理職)の問題が浮上している。
「最近は女性に限らず管理職になりたくない若手が多くて困る、と企業から相談されることが多い」と話すのは、EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC、東京都千代田区)のピープル・コンサルティングパートナー、桑原由紀子さん。EYSCは、この「管理職のなり手不足」を日本企業の成長を阻害する深刻な問題と受け止め、若手の管理職に対する志向性を高めるための方策を探る調査を、田中聡・立教大准教授と共同で実施し、このほど「調査報告書」にまとめ、発表した。
報告書では、管理職の仕事内容・やりがいの明示▽管理職の職責に釣り合う処遇▽管理職の孤立化を防ぐ支援環境の構築―などを若手の管理職志向を高める有効策として企業側に提言している。

この調査は、管理職でない22~35歳の社員2071人を対象に2024年3月にインターネットで実施した「アンケート」と、管理職でない20~30代の社員9人を対象に同10月実施した「インタビュー」の2つの調査結果を分析してまとめている。
アンケートでは、将来管理職になりたい若手は「なりたい」「どちらかといえばなりたい」を合わせても26%にとどまった。一方、「なりたくない」「どちらかといえばなりたくない」は合わせて48%で半数近くを占めた。
また「部署の面倒な仕事を一手に引き受ける気の毒な何でも屋さん」というような管理職に対するマイナスイメージの有無を調べた設問「管理職になることは罰ゲームでしかない」では、「まったくそう思わない」「そう思わない」が合わせて38%を占め、「非常にそう思う」「そう思う」の合計26%を上回り、管理職の仕事が「罰ゲームである」という極端な認識は少数派にとどまっていることが分かった、という。

報告書では、企業のほか、若手の上司である管理職個人、若手本人のそれぞれの視座からも、管理職志向を高めるための方策を提言。管理職の上司向けには、自身の言葉で管理職の魅力を若手に語る▽若手と接点を持ち、若手の目標を高める▽きちんと休んで“管理職は多忙”のマイナスイメージを与えない—など、憧れる管理職像を築くための重点ポイントを示した。
若手本人向けには、無理をしなくても手の届く現実的な管理職像を明確に示す必要性などを挙げた。
今回の調査を担当したEYSCの桑原由紀子さんは「若手が管理職になりたくない原因に着目するのではなく、あえて若手が管理職に憧れを抱く要素は何か、にフォーカスした。管理職のなり手不足問題の解決の糸口を示すことができた」としている。