街の中のコンビニや居酒屋といった飲食業、介護施設の現場などで、外国籍の労働者に接客、サービス提供をしてもらう光景は、日本社会で日常的に見られるようになった。少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少を背景に、彼ら彼女らの存在がなければ、この社会が円滑に回らなくなってきているようだ。
一方、多くの外国人留学生にとって、日本での就職は依然としてハードルが高い。就職を考える際、日本特有の就活方法や留学生向けの就職情報が不足しているという背景があるからだ。
そんな現状を少しでも改善しようと、外国籍の行員が比較的多い東京スター銀行(伊東武・取締役兼代表執行役頭取)は企業の社会的責任(CSR)の一環として、外国人留学生とのネットワークが豊かなNPO法人国際留学生協会と共催で9月11日、都内の同銀行本店で、日本での就職を希望している留学生向けに、日本で働く魅力を伝えることを目的に外国籍の行員との座談会などの就活イベントを初めて開いた。
▼外国籍の行員を積極採用
この日は、台湾、中国、韓国、ミャンマー、ネパールの計15人の留学生が参加した。
台湾出身で東京スター銀行の張祐源執行役はイベント開催にあたって「当行では長年にわたり企業の社会的責任として、特に金融包摂(ファイナンシャル インクルージョン)の考えを大切にしてきました」とした上で、「高齢者や外国人のお客さまなど既存の金融商品・サービスなどが行き届いていない方向けにも銀行商品を開発してきましたし、みなさんのような海外からの留学生に対しても、有意義なサポートを提供したいと考えています」とあいさつした。
「日本企業で働く魅力について~東京スター銀行のケース」と題して、レクチャーが始まった。担当者は、留学生の国内就職率について、2022年度卒業(修了)留学生の日本国内の就職率が初めて50%を超えたなどの概況を説明。また、台湾大手の中國信託商業銀行(CTBCバンク)を親会社に持ち、積極的に外国籍の行員を採用している銀行であることをアピールした。実際、従業員数1239人のうち、外国籍行員が78人(6.8%)(2024年9月1日現在)で、新入行員の外国籍従業員比率は65%(2024年4月1日入行)を超えたという。
▼「ガクチカ対策には・・・」
次に、座談会は場所を会議室の後方に移し、留学生が3班に分かれ、各班のリーダー役を同行の外国籍の行員が務めた。座談会での言葉のやりとりは、ここでの共通言語は日本語ということで、リーダー役と留学生との会話はすべて日本語で行われた。
留学生からは「就活へのアドバイスを教えてほしい」「面接を受ける前の準備は」「就職前にどんな資格を取っておいた方がいいのか」など具体的な質問が相次いだ。これに対し、中国吉林省出身で日本在住9年、今年4月に入行した李天宇さんは「自分は日本の企業を40社近く応募しました。その半分以上はベンチャー企業、中小企業でしたが、多くの面接を受けることができ、それが結果として面接対策の練習につながったと思います。場数を多く経験することで、自分の考えもまとまり、だんだんと面接がうまくなりました」と話した。
また、李さんは「面接での企業面接の典型的な質問の一つに、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)を聞かれます。この対策には、みなさんは海外で育ったので、海外での生活経験を語ることができる強みがあります」と勧めると、参加者からは笑顔の反応があった。さらに「面接の最終場面で、何か聞きたいことがあるかと面接官に聞かれたら、決して『ありません』と答えないでください。面接前に応募した会社のIR資料や経営理念などを勉強しておいて、『なぜこのような経営理念を掲げているのか』『この事業分野の業績がよいのはなぜか』などを質問するのです」と具体的なアドバイスをし、留学生たちは熱心にメモを取っていた。
▼「日本が好き、日本で就職したい」
座談会終了後、本店内の職場見学は、2班に分かれ行われた。店舗の接客スペースや、法人金融部門が入るフロアを、留学生たちは興味深そうに見ていた。
イベント終了後、参加者の一人で、香港から来た大学3年生の男性は「4年半前から日本語を勉強して、とても日本が好きです。専門が経済学部なので、銀行など金融機関での就職を考えています。今日はとても参考になりました」と感想を述べた。また、ネパール出身の短大2年生の女性は「日本の金融機関のことはまったく知りませんでした。日本で就職をしたいと考えており、就職活動の準備に何が必要なのか知りたかった。いろいろと勉強ができました」と満足そうに話した。
政府の教育未来創造会議のワーキンググループは、外国人留学生の国内就職率について、2033年までに6割にするという目標を示しているが、その実現には、留学生向けの就職情報不足など多くの課題がある。
このため、東京スター銀行の大上裕介広報・サステナビリティ推進室長は「課題解決の一助として『実際に日本の会社で活躍する外国籍の先輩たち』が日本で就職した理由や日本の会社で働いていてよかったこと、就活の時に苦労したことなどをざっくばらんに語り、参加者とも双方向でコミュニケーションを取れるイベントにしたかった」と強調する。大上室長は「外国銀行を親会社に持ち、外国籍の行員が多く在籍している銀行だからこそできるやり方で、外国人留学生をこれからもサポートしていきたい」と意気込みを語った。