物流の2024年問題を考える

新しい「当たり前」をつくりたい  JPR新井執行役員インタビュー 物流の2024年問題を考える

 スマートフォンの買い物アプリから、「ポチっ」と押して、翌日には、頼んだ商品が自宅に届く。コンビニに行けば、さまざまな食品や日用品が、商品棚にきれいに並べられている。ペットボトルの飲料なども同じように。それらの「当たり前」がそうでなくなる日が来るかもしれない。

 トラックドライバーの労働環境の改善のため、来年(2024年)4月、ドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に改正される。いわゆる「物流の2024年問題」(2024年問題)は物流業界が直面する大きな課題で、その影響で輸送力の不足が懸念される。

 大学生時代にトラックドライバーの魅力に出合い、現在はレンタルパレット大手の日本パレットレンタル(JPR)執行役員の新井健文さんに、2024年問題への解決のヒントを聞いた。新井さんは、物流における「これまでの当たり前を、新しい当たり前に変えていきたい」と意気込みを語った。

インタビューに応じるJPR新井執行役員

▽ドライバーの就業者増を

—2024年問題が物流業界に与える影響は?

 この問題について、メディアでは電子商取引(EC)の拡大に伴って、宅配需要の伸びに注目し、再配達の削減や、自家用車による宅配ができるようにする規制緩和などにつなげるというテーマで取り上げられることが多い、というのが実感です。

 もちろん、問題の一面ではありますが、根本的には、ドライバーの就業者数を増やさなければいけないという問題があると考えます。

 運送事業者は以前、許認可制でしたが、規制改革で現在は、届け出制になりました。この規制改革で競争が激しくなってくる中、運賃が上がりにくい構造が生まれた側面があったように思います。運賃水準が上がらなければ、トラックドライバーの賃金は上がりにくくなってくる。これは余談ですが、私は学生の頃にアルバイトで宅配便ドライバーをしていました。当時の求人案内では、トラックドライバーは月収60万円などと書いてあり、大学を辞めて宅配便からトラックドライバーになろうかと考えたこともありました。ただ、結局、辞めませんでしたが。

 ドライバーは稼げる仕事だという時代から、物流の規制緩和に伴い、競争が激化し、ドライバーさんの仕事が、もうからない仕事になってきました。

 給料面の現状に加え、トラックドライバーの労働時間が、全産業平均に比べ約2割も長くなっています。「労働時間が長い割には、賃金が比較的安い」ということで、若い人の新たな採用が難しくなっています。その結果、トラックドライバーの平均年齢も高く、特に大型トラックのドライバーが高齢化しており、このままいけば、急激に人手不足が深刻化する可能性があります。

 今回、長時間労働の解消につなげる法改正によって、時間外労働が少なくなれば手取り収入が減少し、さらにドライバーのなり手が減るのではないかという予測もあります。ドライバー不足による輸送力の不足は物流業界だけではなく、日本経済全体に影響する問題といえるでしょう。

—ECを活用する消費者への影響も大きい?

 ECの市場は年々、市場が拡大しています。国土交通省の調査では、宅配便の需要は2021年までの5年間で23%増となり、運ぶ荷物も約11億個も増えています。個人宅など最終の届け先への輸送を物流業界では「ラストワンマイル」といいます。コロナウイルスの流行をきっかけに、ラストワンマイルの輸送に従事するエッセンシャルワーカーの負担が一般にも認識されることになりました。

 ただ、意外に感じられるかも知れませんが、実は2024年問題では、BtoB(ビートゥビー、企業間取引)の輸送がより深刻な状況にあります。消費者の視点からは認識されにくいと思いますが、物流全体を考えると、圧倒的なボリュームを有するのがBtoBの領域です。

 コンビニやスーパーの店頭で食品が並んでいる商品棚を想像してみてください。店頭に商品が届くまでには一般に、食品メーカー工場→食品メーカー物流拠点→卸売・小売業物流センター→コンビニの各店舗→店頭で商品を陳列する、といった経路をたどってきます。ここでは食品を例にしていますが、日用品もほぼ同様です。商品がスーパー、コンビニ、ドラッグストアなどに届くためには、いくつもの工程がある事をご理解いただけると思います。

 そして、物流の上流に近いほど、大型トラックによる長距離の輸送が行われており、ドライバーの不足はより深刻です。この問題は製造業、卸売業、小売業、それらに関連する各産業に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

物流の流れを説明した図解

 

—政府は影響を抑えるため対策を示しました。

 岸田政権は、2024年問題に対応していただいていると思います。輸送の効率化を図るため、トラックの速度制限を緩和するとか、1台で通常の大型トラック2台分の輸送が可能な「ダブル連結トラック」の運行を可能にする規制緩和などが進められているところです。

 ただ、根本的なところの解決はなかなか難しいと思います。現時点で予測されているトラックドライバーの不足幅が非常に大きいからです。ラストワンマイルの部分に対して、再配達等の負荷を軽減したとしても、物流の大半を占める長距離のBtoBの領域に対策が講じられなければ、生活に欠かせない商品が私たちの手元に届かないという事態が起きかねません。

—BtoBの物流を停滞させないポイントをどう見ていますか?

 企業と企業のつなぎ目に着目したいと思います。ドライバーさんが運転以外に費やす時間を減らし、運転時間を確保できるようにすることが大切です。国土交通省の資料に大型トラックドライバーの1日の業務と時間に関するデータがあります。それによると、12時間40分の拘束時間のうち、運転に充てているのは62%です。

 運転以外には、点呼や休憩を除き、荷役、荷待ちに約2時間も費やされています。荷役とは、トラックへの荷物の積み降ろしを指し、荷待ち、待機は、多くのケースでは、他の車両が荷役をしている間の順番待ちのことをいいます。これらの作業は、企業と企業との〝つなぎ目〟(=納品先など)で発生しています。今回の法改正に対応しながら、運転時間を確保するためには、この荷役や荷待ちの時間を短縮することが不可欠です。

JPRのパレット
パレット入庫時

▽パレットの活用で作業時間を短縮

—御社が提案する企業と企業の〝つなぎ目〟を円滑するための対策は?

 弊社は1971年の創業以来、パレットというツールを使った物流現場の効率化にお客さまとともに挑戦しています。パレットは、商品などの積み降ろしや、輸送、保管に用いられる荷役台のことです。このパレットをサプライチェーン上の複数の企業で、リレーのバトンのように使用することで威力を発揮します。

 弊社は企業間で共同利用できる標準パレットを、それを循環させるしくみとセットにして提供しています。リレーのようにパレットを活用することを“一貫パレチゼーション”といいますが、一貫パレチゼーションと手作業の労働生産性には約4倍の差があります。つまり、手作業で2時間かかっている作業はパレットを活用すれば30分で済むということです。

 これまでの物流では、企業ごとの部分最適化が極限まで進められてきたように思います。そこで生じた歪みがトラックドライバーにしわ寄せされていたといえるでしょう。ラストワンマイルにおいて、再配達の便利さの裏側で、宅配を担うドライバーに負荷がかかっていたことはその一例といえるかもしれませんね。

 2024年問題は、「今までの当たり前が、これからの当たり前にはならないかもしれない」ということを、私たちに突きつけていると思います。

 弊社は、2024年問題を前に、自社の「レンタルパレット」というサービスを通じて物流の効率化に貢献したい、と思います。日本の物流を支えているBtoBの物流を持続可能なものにするために「新しい当たり前」をつくっていきたい。

 そうすることが、日本経済の成長につながる、と確信しています。

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