「NASは、家庭でも必需品の時代に」の話の後編です。NAS(「ネットワーク・アタッチト・ストレージ」)は、意外と、意識せずに使っていた人も多かったかと思います。
現在は、同様のサービスとしてクラウドストレージなどもあるので、NASとどちらを利用するか迷うかもしれません。クラウドストレージは、NASに代わって事業者がインターネット上に補助記憶装置を用意してくれます。
NASは同じネットワーク内(会社や家庭)からデータにアクセスするのが原則です(自宅のNASにインターネットを通じて会社からアクセスするような使い方もできますが、セキュリティーの水準は下がります)。
でも、クラウドストレージであれば、ネットワークの枠を超えて5Gや4G、公衆Wi-Fiが利用できるあらゆる場所から、データを利用することが可能です。これを「位置透過性」と言いますが、位置透過性の観点からは、クラウドストレージの方が優れています。
クラウドストレージの考慮点を上げるとすれば、ランニングコスト(業者との月額契約など)がかかること、どこにデータが保存されているか分からないこと、5Gや4Gなどの回線にトラブルが起こるとアクセスのしようがないことです。
例えば、自宅のNASであれば、ネットワークにトラブルが生じても、USBケーブルで(ネットワークを介さずに)PCと直接接続するような非常手段を講じることができますが、インターネットのどこにあるともしれないクラウドストレージではそれが不可能です。
また、他の国などにデータが保存される可能性があるクラウドストレージを、セキュリティー上の理由で怖がる人もいます。もっとも、これについては異論もあります。クラウドストレージを運用している事業者は高度な知識と技術をもってサービスを提供しています(そうでない事業者もありますが)。
それに比べて、自宅の防犯対策や電源対策がどれだけ安全かといえば、心もとない部分もあるでしょう。自宅のNASだからクラウドストレージより安全、といった思い込みには注意が必要です。用途や予算に応じて、しっかり検討することが大事です。
さて、そのNASがかりかり言っているという話です。基本的に、NASを運用する場合、ある程度の騒音は覚悟しないといけません。ストレージのためのシステムですが、実態は小型のパソコンとHDDがセットになっている商品です。HDDは回転する機械ですからモーター駆動音や、データを読み書きするためのアーム駆動音がしますし、ある程度以上の性能を求めるとCPUの放熱が大きくなるため冷却ファンが付きます。
必要なときだけ電源を入れる使い方をすればこれを抑制できますが、必要なときにすぐデータにアクセスする利便性を取るならば24時間電源を入れっぱなしにすることになるでしょう。
ただし、HDDの駆動音や冷却ファンの音は、現状の技術であれば生活雑音に溶け込む水準だと思います(人によって感じ方は異なりますが)。「かりかりかりかり」耐えがたいほど音がするときは、別の原因を求めることができるでしょう。
のべつまくなしにNASにデータを保存したり読み出したりすれば、そのたびにアーム駆動音が発生します。アーム駆動音はHDDの動作音の中でも際立つ音ですから、これはかなりのノイズです。企業内で頻繁なアクセスが発生するNASは、セキュリティーや運用環境の安定を含めて、サーバルームなどに設置するのがよいでしょう。
家庭で使う場合は、ずっとアクセスし続けることはないと思います。また一瞬のアクセスで、かつそれを自分が行っている場合にはあまりノイズが気になることはありません。それでもうるさいのであれば、DLNA機能を疑ってみましょう。
DLNAは「Digital Living Network Alliance」の略語で、家電とネットワーク機器を簡単に協調動作させるための技術です。例えば、複雑な設定をしなくてもテレビでNASに保存された映画を見ることができるのはDLNAのおかげです。
便利なDLNAですが、機器の作られ方によっては極めて高い頻度でHDDへのアクセスを繰り返し、これが身に覚えのないHDDの使用やノイズになることがあります。パソコンからしかNASを使わないのであれば、NASのDLNA機能をオフにするのも解決策の一つです。
【著者略歴】
岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/政策文化総合研究所所長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」「プログラミング/システム」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)、「メタバースとは何か」「Web3とは何か」(光文社新書)など。