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自分と会社の「価値観の交差点」が重要 ケイト・スペード ジャパン 柳澤社長インタビュー

 米国に本拠を置く大手ファッション・ライフスタイル企業タペストリーの日本法人「タペストリー・ジャパン」は、EVP(従業員の価値の提案)として、一人一人の「多様性が輝きを生む」を掲げている。
傘下にある、女性を中心に人気を集めるブランド「ケイト・スペード」日本法人の柳澤綾子社長が、自身のキャリアを振り返りながら、自社で取り組んでいる「多様性が輝きを生む」という実践例を語った。柳澤社長は、職場での働きやすさに不可欠なポイントについて「自分の価値観と、会社・ブランドの価値観が共鳴すること、そんな『価値観の交差点』が重要だ」と指摘。さらに、働く女性に向けては、「完璧でなくていいよ」というメッセージを発信する。

ケイト・スペード ジャパン本社にて笑顔で写真撮影に応じる柳澤さん

 ——ケイト・スペードの企業概要は。

 柳澤 ケイト・スペードは、世界で2万人弱の従業員を抱えるグローバルファッションハウスであるタペストリーグループの一員です。ケイト・スペードだけではなく、コーチ、スチュアート・ワイツマンの三つの個性豊かでアイコニックなブランドを北米、欧州、アジアなどでグローバルに展開する、米ニューヨークが本社の会社です。
ケイト・スペードというブランドは1993年に米ニューヨークで生まれ、1996年に日本に上陸しました。私がケイト・スペード ブランドに携わったのは1999年(サンエー・インターナショナル在籍)からです。
最初はケイト・スペードとアンディ・スペードという2人の友だちでスタートしたブランドで、すごくシンプルなハンドバッグを作っていました。そこから今は、食器やペン、ノートなども含めていろいろなものを展開しているライフスタイルブランドに成長しています。
日本では現在、87店舗のショップと、いくつかのオンラインショップがあり、ハンドバッグや子供服から老眼鏡までさまざまなアイテムを展開しています。どの世代の女性にも何か提供するアイテムがあると信じています。また、結婚、出産など、いろいろなライフステージが変わるときにも、ケイト・スペードのアイテムの数々が、女性たちに優しく寄り添っていたいですね。

 ——ケイト・スペード ジャパンの女性社員比率は。

 柳澤 全社員の約8割です。特にアイテムをお客さまに直接販売するストアになると、もっと比率が高くなります。女性向けの商品が多く、ケイト・スペードで働く人も女性が多いということはあるのですが、男女問わず、もっと多様な人材にしていきたいと思っています。

 ▽一人ひとりの色を認める “Joy Colors Life”

 ——タペストリーでは、一人ひとりの「多様性が輝きを生む」というEVPを掲げている。傘下のケイト・スペードが「Joy Colors Life(喜びが人生を彩る)」というパーパス(企業としての存在意義)を掲げているが、どのようにリンクするのか。

 柳澤 同じ環境の中で同じことを考え、同じ道をたどるということはすごく心地がよいことです。ただ、やっぱり違うアイデアと、違うバックグラウンドを持っていたり、違う環境で育ってきた人が集まったりすると、そこに良い意味で衝突やコンフリクト(摩擦)が起きることが多いのですが、実はそこから火花が生まれ、イノベーションや、新しいアイデアが生まれるほか、自分の強みや特徴があらためてわかる、というような良いことが起きます。
私たちは、ファッションライフスタイルブランドであり、お客さまに喜んでいただくために、お客さまの期待を上回ることをしたいと思っています。そのためには、多様性に刺激され、面白いこと・楽しいこと・新しいことをやるというのはとても大事なことだと考えています。
また、多様な仲間がいることで、自分自身の言葉や考えをしっかりと他者に伝えないと、議論が前に進まないことはあります。同じ職場で働く仲間に言葉で伝えていく、そういうことが一人ひとりを成長させ、チームを強くして、それぞれが自分らしくいられる環境づくりになっています。そういう意味でも、多様性が輝きを生むという価値観は、すごく理にかなっています。
「Joy Colors Life」も同じような意味があり、人それぞれ色があるけれども、日によっても違うと思います。今日はグレーでも、明日は黄色かもしれない。そういうさまざまな色を持つ自分をちゃんと認めてあげるということです。だから人生って面白いじゃない、みたいな意味も含んでおり、タペストリーのEVPにも紐づいています。

 ——そう感じるのは、柳澤社長さんが歩んでこられた経験から導き出されたものか。

 柳澤 そうですね。それが私の価値観と会社・ブランドの価値観が共鳴しているところで、だからこそ、私もここに長くいたいという思いがあります。「価値観の交差点」と私たちは言っています。一人ひとりが大事にしている価値観と、会社が大事にしている価値観が交わらないと仕事ってつらいものになってしまったり、目的を見失ったりという状況になってしまいます。そして私はワークライフバランスではなく「ワークライフインテグレーション」という言葉を使っていますが、意味するところは、「仕事が人生の一部であって、人生が仕事の一部じゃない」ということです。自分と会社が、その価値観の交差点を持っているかどうかは、とても大切なことだと思います。だから自分の価値観を大事にしてほしいと思いますし、働く人が大事にしている価値が認められる会社でいたいのです。

インタビューに答える柳澤さん

 ▽チャンスは自分が思ったタイミングで降ってこない

 ——社員の方に聞くと、異動希望について上司に相談したとき、みんな背中を押してくれたと話していた。上司たちは「失敗してもいいからやってみなよ」という思いで送り出してくれたという。

 柳澤 新入社員のみなさんや、日ごろからチームのみなさんに伝えていることは、チャンスは、自分が思ったタイミングでは絶対降ってこないので、「やらない?」と言われたときって、自分のタイミングじゃないかもしれないけど、やってみたいって手を上げることって大事だという話をしています。もしかしたら、そのときはそれが一番やりたいことじゃなかったとしても、ホップステップと段階を踏んでやりたい職につけたという形もあります。
そういう精神は元々、ケイト・スペードとアンディ・スペードが2人で、自分が欲しいバッグがないなら作っちゃえということで、それまでのキャリアを捨ててスタートしたので、そういう精神を持つメンバーが多いのかもしれません。

 ——チャンスが来たときに、つかみにいくための具体的な仕組み作りでは、社内公募などがある。

 柳澤 社内公募制度以外にも、例えばジョブチャレンジというのがあります。いわば、短期留学制度のようなもので、例えば、新入社員を採用する繁忙期のときに、3カ月間だけ人事・採用の仕事を一緒にやってみませんか、というようなものがあるほか、オフィス社員がストアのピークシーズンのときにサポートするプログラムもあります。他の部門や新しい業務に興味はあるけれど、100%飛び込む前にもうちょっと知りたいということがあると思います。そのために、ジョブチャレンジなどをとおして一定期間、そこで働いてもらうなど、そういう機会を作っています。この取り組みはタペストリー全体として加速化させています。

 ——社内のコミュニケーションを充実させるために、1on1(ワンオンワン)なども実施している。

 柳澤 最近は仕事の話よりも、相手に焦点を当てて話をする時間にしています。お互い一人の人間としての対話をする時間をつくることで、一人ひとりが働きやすい環境づくりに役立っているようです。コロナ禍でほとんどがオンラインでのコミュニケーションになり、効率を優先して業務の話しかしなくなりましたが、息抜きをするような無駄話をしなくなっていて、これはよくないと感じました。
コロナ禍でお店は緊急事態宣言の時期以外は、通常営業しておりました。一方で、在宅勤務を余儀なくされたオフィス社員については、一人ひとりが求めている働く環境が違うということがすごく分かりました。
ワークライフインテグレーションの中で、家で仕事をするのが、つらいっていう人もいれば、家で仕事をするのにもっとフレキシブルじゃないと働けないという人もいました。例えば、お子さんが2人、家にずっといると、今までみたいに会社に来て夕方まで働くわけじゃなくて、お昼の時間に2時間ほど休んで、余裕が持てたときに業務に戻るというような働き方です。
一人ひとりのニーズが違うということが、目に見えたことで、一人ひとりにできる限り寄り添おうということで、スーパーフレックス(コアタイム撤廃)にしてみたり、働き方を自分たちでマネージするやり方に切り替えたりしました。

 ▽0歳は0歳の時間がある

 ——これまでの取り組みの中で苦労した経験は。

 柳澤 男性と女性だけにかかわらず、公平で偏見のない世界ができたらいいな、と思っています。10年前くらいの話ですが、大切な契約会議があったのですが、なかなか始まらないなと思いながら座っていたら、「社長はいつ来るんですか」って聞かれて(笑)。そういう話題は今となっては笑い話ですけど、こういうことは変わっていかないといけないなと思います。
私ができることは、女性は女性のままで、自分の好きな未来を作っていける、自分がやりたいことを可能にできるという、自己肯定感の事例をもっと作っていけば、乗り越えられる壁が増えるのではないか。
今ちょうど男性社員が2人、3カ月間の育児休暇を取っています。私たちの会社で育児休暇を促進し、男性社員の働き方のフレキシビリティーを上げることで、例えば別の会社で働く奥さまの仕事の仕方をサポートできることがあればいいと思います。
自分の息子の出産、育児のときに休まなかったことは私の後悔の一つでもあるので、産休育休という制度があるのでしたら、ぜひ使ってほしい。もちろん早く戻ってきたいっていうメンバーがいたら、もちろんOKだけど、家族の時間を大事にしてほしい。子供が20歳になってから、0歳のときに戻りたいと思っても、戻れないじゃないですか。0歳は0歳の時間があるから、そこで「会社を休んでいいよ」って言われてるんだったら、ぜひ休んでほしい。

入社式であいさつする柳澤さん

 ——若い働き手へのメッセージを。

 柳澤 ぜひ、色んなことに飛び込んでください。自分は自分らしくいていいので、挑戦してほしいなと思います。自分がやりたいことを口に出してどんどんやっていくべきだと思います。それをきっとまわりはサポートしてくれるので、私たちの中では、そのような環境や雰囲気を作っていこうと話しています。
でもそのスタート地点として、みんながやりたい、叶えたいことを強く記して、前に進んでいくことはすごく大事です。ぜひチャレンジしてほしいと思います。周囲のみんなはきっと「YES」と言ってくれるはずです。
あとは女性って完璧でいなきゃいけない、完璧にやらなきゃいけないと思いがちです。例えば、社内で昇格の話をしたり、頑張っているねと伝えたりしたときに「いえ私なんてまだまだ…」というような返事が返ってくることがあります。
その美徳のように刷り込まれた言葉を特に日本の女性は言うケースが多いな、と感じます。言葉を届けられたら、素直に「ありがとうございます!」でスタートしてほしいですね。
「完璧でなくていいよって」、ケイト・スペードの言葉でいうと、「Perfectly Imperfect」。完璧ではないけれども特別なあなたっていう言葉があります。完璧な大人なんていないじゃないですか。だから完璧でなくていい、自分らしくていいっていうのを伝えたいです。
私も小学校の卒業論文に将来は社長になりたいって書いていたタイプではありません。たまたま、運とか自分が頑張ったとか、さまざまな巡り合わせがあり、この仕事をさせていただいています。世界は無限だし、完璧でなくていいよ、って言いたいです。

 【略歴】

 柳澤 綾子(やなぎさわ・あやこ)

 タペストリー・ジャパン合同会社
ケイト・スペード ジャパン プレジデント
1998年に大妻女子大学卒業。同年サンエー・インターナショナル入社。2007年にケイト・スペード事業部事業部長、2009年にケイト・スペード ジャパンのプレジデント就任。


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