米国とイスラエルによるイラン攻撃で原油の調達不安が台頭している。燃料価格の上昇だけでなく、肥料や飼料、ビニールハウスなど幅広い資材の価格高騰に波及する。農業や漁業の経営を直撃し、不採算の農家が撤退するきっかけとなりかねない。政府にとって当面の最優先課題は、営農が継続できるように万全の支援体制を早急に示し、生産者に安心感を与えることだ。
日本の農業は構造転換の道半ばにある。効率の良い大規模経営だけを育成するのか、中小農家を底上げするのかで、具体的な政策に異論はあるが、稲作を中心に撤退した中小農家の農地など経営資源を中核的な経営者に集約する改革の方向性は同じだ。
平時においては、この改革を着実に実行して国内の生産力を増強することが優先課題だ。しかし、資材価格が急騰する局面においては、中小農家も含めた現存する経営の維持を最優先にするべきだ。高齢者を中心に「撤退予備軍」は想像以上に多い。中小農家の淘汰が急激に進めば、農地の集約がそのスピードに追いつけなくなる。
あるいは、すでに大規模化した農家や法人が採算の悪化に耐えきれず撤退した場合、誰が残された農地や施設を引き受けるのか。肥料や農薬の調達難が現実になれば、むしろ小回りが利く中小農家の方が柔軟に対応し、大規模経営が「突然死」することもありうる。
目下の優先課題は、経営規模の大小にかかわらず、資材価格の高騰による影響を緩和し、営農を継続できるよう支援し、国内の生産力を維持することだ。経営の効率化・集約化は、事態が沈静化した後、着実に進める課題であり、政策論争は「休戦」だ。
その上で、輸入による供給の確保を確実にする必要がある。「食料の安定供給」は国内生産の増強だけでは達成できない。コロナ禍の時のように「モノはあるが運べない、届けられない」という事態に対して増産は無力だ。目下進行中のホルムズ海峡の航行不能も同様の「動かせない」という危機だ。
食料の安定供給は「国内生産、輸入、備蓄」の最適な組み合わせで実現される。短期間で供給力を維持する時の主役は輸入だ。物流が途切れないようにするためには、一時的にせよ大胆な規制緩和や関税の削減・撤廃が有効だ。東日本大震災の時には、不足したペットボトルの水を輸入するために、栓などボトルの形状や、食品表示の規制を緩和した。
3つ目の柱の備蓄は、有事に極めて重要だが、平時には関心が低く軽視され続けてきた。食料で国家備蓄制度があるのは、米(100万㌧、約50日分)と麦(民間備蓄を含めて約70日分)だけだ。米の政府備蓄は米価高騰対策のために相次いで放出され、備蓄水準は約30万㌧(16~17日分)に低下している。民間の在庫が積み上がっているのは不幸中の幸いだ。
石油の備蓄が民間も含めて254日分あるのと比べると、食料備蓄は心もとない。今となっては、増産や備蓄の積み増しは「手遅れ」というのが悲しい現実だ。危機対応の手段は限られている。営農の継続支援と輸入調達先の分散・多様化を進めるしかない。
(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)
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