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〝絶滅危惧食材〟 中川めぐみ ウオー代表取締役 連載「グリーン&ブルー」

 筆者がお正月になると思い出す〝絶滅危惧食材〟の話をお届けしたい。それは日本最古のカツオ加工品とも言われる「潮かつお」。別称を「正月魚(しょうがつよ)」という。

 カツオを丸ごと塩漬けにし、冬の西風にさらして乾燥させた保存食で、凝縮された旨(うま)味と強い塩気が特徴だ。生ハムの原木のカツオ版といったイメージが近いかもしれない。カツオ節の原型とも言われ、奈良時代には貢納品として全国各地で生産されていたが、現在では静岡県・西伊豆町の3事業者が作るのみとなった。

地元の稲わらでお飾りを作り、神様へお供えする

 もともと西伊豆町はカツオ漁が盛んで、正月に豊漁・豊作・子孫繁栄・航海の安全といった願いを込めて、お飾りを付けた潮かつおを神棚にお供えするのが伝統だったという。そうして三が日を過ぎた後に“神様からの頂き物”として神棚からおろし、正月に疲れた胃を休ませるため、お茶漬けの具材などとして親しんでいたのだ。

 しかし時代の変化とともにそうした伝統は薄れ、漁業者や水産加工業者の数も減り、いつしか〝絶滅危惧食材〟と呼ばれるようになってしまった。

 そうした中、この伝統を絶やすまいと潮かつおの普及に力を入れるのが、西伊豆町で150年近く潮かつおをつくり続けるカネサ鰹節商店の5代目、芹沢安久(せりざわ・やすひさ)氏だ。新たな食べ方提案や体験プラン企画を通して、県内外、はたまた海外にまで魅力を届けようと奮闘している。

 筆者も西伊豆町を訪れた折に、芹沢氏が会長を務める〝西伊豆しおかつお研究会〟考案の「しおかつおうどん」をいただいた。ゆでたてのうどんに潮かつおの焼き身、鰹節、温玉、刻みねぎ、ごま、海苔(のり)などをのせ、出汁醤油(だししょうゆ)を垂らしていただくのだが、濃厚な旨味・風味が何とも癖になる美味(おい)しさなのだ。最近ではピザや、おむすびの具材としてクリームチーズと合わせるお店も出てきているという。

 かつては伝統食として特別な時期だけに食されていた潮かつおだが〝絶滅〟の危機を迎える一方、熱い想いを持った人々によって日常食へと再定義されようとしているのだろうか。

 その見た目や味わいに、現代の加工食品にはない圧倒的な力強さを持つ潮かつおは、さまざまな伝統が失われつつある現代に、大切な何かを問いかけてくれるようだ。

 旅先や物産展などで潮かつおを見かけた際には、ぜひ手に取って、そして味わってみてほしい。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.4からの転載】

中川めぐみ(なかがわ・めぐみ) (株)ウオー代表取締役。「釣り・漁業×地域活性」を軸に日本各地で観光コンテンツの企画・PRなどを行う。漁業ライターや水産庁・環境省などの委員も務める。


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