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「DON!ジビエの火山〜山の恵みの洋風丼〜」

自由な発想に感心 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」

 「第9回ジビエ料理コンテスト」の表彰式が2月6日に行われた。コロナ禍でオンライン開催が続き、6年ぶりに受賞者が集まった。私は第6回から審査員を務めている。

 料理作品の完成度を競うコンクールとは違い、このコンテストでは一般の人々が食べやすくて親しみやすい味か、見た目に楽しさや驚きがあるかを中心に審査する。誰もが食べたくなるようなレシピを考えてもらって、ジビエ料理の普及を図るのが目的だ。

 今回のテーマは「国産のシカ・イノシシを使用し、多くの人がご家庭で作れて、安全でおいしく楽しめる料理」。画期的だったのは、一般部門と小・中・高校生部門に分けたこと。子どもたちのレシピを募集したのは初めてだ。

 それが功を奏してか、前回の応募数が162点だったのに対し、今回はほぼ倍増の305点もが集まり、うち160点が小・中・高校生だった。

 全国で害獣としてやむなく駆除される動物の肉の約9割が、廃棄されている。少し前まではジビエという言葉を知らない大人も多かったのに、今や子どもがジビエの現状をよく理解し、レシピを編み出すほど周知が進んでいることがうれしかった。

 一般部門には、正直言って家で作るには難し過ぎる料理が多かった。最高得点で農林水産大臣賞を獲得した「DON!ジビエの火山〜山の恵みの洋風丼〜」もビニール袋で肉を密閉し、65度の湯に30分浸すという難易度の高い加熱法だった。が、肉をバターライスにのせて丼にしたことで、なじみやすい味になっていた。

 一方、小・中・高校生部門には本当に簡単に作れ、素直においしい料理がそろった。

 農林水産大臣賞の「猪肉の蒸し野菜」は、バラ肉のスライスと野菜類をせいろで蒸すだけと、応募作品中で最もシンプルだった。作者は静岡県立下田高校の生活科学クラブで活動する女子2人のチーム「ななとも」。塩こうじと酒に一晩漬け込んで脂身と肉のおいしさを引き立て、肉質を柔らかくするのがポイントで、さっぱりして何度でも食べたいと思わせる味だった。

 ユニークな料理名が目立ったのも小・中・高校生部門の特徴。最高だったのは「ボルシカ」だ。作者の江口柊太しゅうたさんは福岡県・自由ケ丘高校の普通科で学ぶが、小さい頃から料理好き。お母さんがジビエの普及活動に熱心で、一緒にジビエの食肉処理施設へ見学に通ううち、硬くて商品価値が低いスネ肉をなんとかおいしく料理できないかと圧力鍋で煮込み、お父さんが庭で育てているビーツを組み合わせてボルシチ風に仕上げた。

 受賞作にはほかにも「キャラメル・シカ・ゴ・タルト」「森のごちそう酢ジカ!」「鹿取物語」など愉快な名前と自由な発想の料理が並び、感心することしきりだった。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.8からの転載】


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