スラックラインというスポーツをご存じだろうか。2点間に張った伸縮性のあるラインの上で行う綱渡りとトランポリンを組み合わせたような競技で、世界には300万人以上の愛好者がいるという。
このスラックラインを使って長野県小布施(おぶせ)町が町おこしをしようと頑張っている。小布施町は長野駅からローカル線で30分ほどに位置し、栗菓子と葛飾北斎ゆかりの町として知られている。湯田中(ゆだなか)、野沢などの温泉や志賀高原などにも近いため一定の集客ができる観光地なのだが、観光客数の季節変動が大きく来訪者が集中する秋季以外の集客が課題だ。
小布施町によるスラックラインの取り組みは自治体主導ではなく、地域にある浄光寺という古刹(こさつ)が「地域に愛される寺院でありたい」と、寺子屋活動としてスラックライン部を設立し、境内に練習施設を設置したことから始まる。ここから育った高校生アスリートがアクションスポーツの世界大会「X GAMES AUSTIN 2016」で優勝、現在では小布施町の町民スポーツとして保育園から中学校、美容室、病院などでもスラックラインが行われている。17年にはワールドカップジャパン・フルコンボも開催され約3万人が訪れた。
しかし、小布施町のスポーツによる町おこしは大会誘致だけを目的としたものではなく、参加者の町内への周回促進や練習のための来訪者増加などを見込んだものだ。近年、スポーツを見るため、競技をするための観光「スポーツツーリズム」が各地で盛んになってきているが、小布施町の事例もまさにスポーツツーリズムによる町おこしであり、全国の観光地が他所と差別化できる観光資源を模索する中で、町を挙げての町民スポーツであるスラックラインという資源は、他にまねのできない優位性を持っている。
先日、小布施町の体育館で公式大会が行われ、私もその練習風景を視察してきた。2メートルほどの高さに張られた長いラインの上で行う競技はラインの伸縮性を利用し空中高くジャンプしながら行うもので、かなりの迫力があって面白い。選手も10〜20代がほとんどで、アスリートというよりパフォーマーといった方が似合いそうだ。
初心者は20センチほどの高さのラインから始めるらしいが、小学生くらいの子どもたちが面白そうにチャレンジしていた。栗と北斎の町としての小布施町は年配者の来訪が多かったが、スラックラインが加わることでスポーツ好きの若い人たちにも注目されるかもしれない。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.7からの転載】