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まだ終わっていない米騒動  小視曽四郎 農政ジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」

 真冬だというのに米業界が熱い。雪をも溶かさんばかりに数値が過去最高の記録づくめ。米業界といえば昨年夏場にスーパーや米穀店の店先から米が姿を消し、南海トラフ地震臨時情報も手伝って「令和の米騒動」が起きた。新米の出回りや買いだめの反動で、その後、沈静したかに見えたが、生産現場では集荷競争は全く収まらず激化の一途。平年作なのに24年産(9~12月)相対価格の平均価格が「平成の大冷害」時(1993年、価格形成センター取引価格)を31年ぶりに更新し、過去最高の60キロ2万3715円を記録。昨年12月単月では同2万4665円と前年同期比60%高。業者間取引のスポット価格となると新米が出始めた9月後半から主力銘柄で2万6千円台で始まり11月前半には2万7千円台後半に。しかし、相対取引で十分調達できない大手卸も参入し、同後半には3万~4万円、12月末には4万円台に。とうとう年明けに取引業者が示した銘柄商品価格は5万円台半ばがずらり並んだ。

 国産米取引の過熱で、売買同時契約(SBS)による輸入米も主食用の年間枠10万トンが、異例の年4回の入札で7年ぶりに全量落札。しかも12月入札では95年の制度開始以来の1キロ548円(一般米平均売渡価格)の高値に。この落札を受けてか昨秋には台湾産、米国産、ベトナム産の割安な商品を並べた大手量販店も出現、関係者を驚かせた。だが本当に驚きだったのは、従来考えられなかった民間貿易による調達に乗り出した業者の動きだった。

 民間輸入だと1キロ341円の高関税を払う必要があり、この関税でこれまでは民間輸入は無理と言われてきた。しかし、契約した業者は国産の不足感から高関税でも輸入せざるを得ないとし、すでに数百トンの輸入契約を決めた。価格的にはスポット価格の高騰を見れば国産より割安感がある。数百トンの輸入はすでに複数業者が契約、今後、相当な量となる。

 政府はウルグアイ・ラウンド合意で米のミニマムアクセス(MA)導入を決めた際、「MA米による転作の強化や国内需給には影響を与えない」旨の閣議了解(93年12月17日)をした経過がある。しかし、今回のMA米の主食用への仕向や民間輸入は、低米価でも耐え忍び取り組んできた国内米生産の需給調整を根本から覆す事態。米農家には大きな衝撃だ。また、国産米の記録的な高騰の長期化は消費者家計をさらに苦しめる。「令和の米騒動」はまだ終幕を迎えてはいない。「騒動が終わっていないし、今年は万博もあり、もっと騒ぎになるかも」(小売業界)との警戒も。

 なぜ平年作なのにこの事態を招いているのか。ベースには、政府の見誤りや、米政策を市場や現場に任せ切りにしてきたツケ、いわゆる政策的矛盾がある。近く米改革は国会に舞台を移すが、積年の課題解決に近づけるか。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.6からの転載】


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