農林中金総合研究所の月刊誌「農林金融」(2025年1月)は、年頭にふさわしく「経済・金融と日本農業の展望」を特集している。その中の「食料・農業・農村基本法の改正と基本計画策定に向けた論点─食料安全保障の確保を中心に─」(小針美和主任研究員)は、昨年の基本法改正から説き起こし、今年前半の最大のテーマである基本計画の策定について分かりやすく解説している。
基本計画の焦点の一つは、進展状況を定期的に検証するための数値目標の設定だ。改正基本法案の国会審議では、もっぱら野党から「自給率の軽視につながる」という批判があったが、専門家の間では、自給率、とりわけ熱量ベースの自給率を政策目標にすることが妥当でないことは常識だ。
では、何を目標にするのか。政府はすでに、自給率に加えて、食料・肥料・飼料などの備蓄水準、担い手への農地集積率、農地面積、農林水産物・食品の輸出額など約30項目の目標を候補に挙げている。本論は、明示的には目標案を挙げていないが、さまざまな角度から現状を分析しており、それに用いた指標は政府の目標案と必ずしも一致していない点が極めて興味深い。
例えば、米や野菜など品目別の国民1人・1年当たりの消費量、農産物の輸入額、買い物困難者数、化学繊維産業の副産物で窒素質肥料の原料になる硫安の生産量、政策実施を担う自治体の農林水産関係職員の定員数など、政府が挙げていないユニークな視点が多い。
これらは、いずれも食料・農業・農村の実態を捉える上で重要であり、政府の目標案が農業生産に偏り、全体像を反映しない欠点を浮き彫りにしている。本論の視点が基本計画に反映されることを期待したい。
巻頭論文の「2025年の国内経済金融の展望─トランプ2.0に身構える世界経済─」は、南武志理事研究員によるマクロ経済予測だ。「持続的な賃金上昇を促す素地が整いつつある」としながらも、賃上げが絶対数の少ない若い層に手厚いことや、消費が持ち直しているとはいえ盛り上がりを欠くことなどから、25年度後半の物価上昇率は2%を下回り、日銀の利上げは1.0%で打ち止めになると推定、全体として慎重な見通しを示している。
農中総研の皆川芳嗣理事長は「アナス・ホリビリスから国際協同組合年へ」と題するコラムの中で、2024年が不幸や災難続きの散々な年だったと総括した上で、「明るい兆し」として国連が25年を「国際協同組合年」に定めたことを挙げ、「社会的な連帯を取り戻しながら持続可能な経済を再建できる仕組みとしての協同組合」に強い期待を示した。